表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第一章:それでも、主の傍に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/341

◆第5話:魔導術具士ティセラの想い◆

朝の光が差し込む食卓。

少し早起きしていたティセラは、リマリスで週三回頒布されている新聞を読み終え、そっと椅子を引いた。


「さて……朝食前に、館の様子を確認しておきましょうか」

カップの底に残った紅茶の色を一瞥し、ティセラは静かに立ち上がる。


館の外周を歩きながら、結界のほころびを点検していく。

常設の術具で結界を展開しており、ティセラは朝食前に定期確認をするのが日課となっていた。


「この前、侵入者がいたとエクリナが言っていましたね。……館が大きすぎるので、どうしても隙が生じます」

指先に微かな魔力を乗せ、結界の縁をなぞるたび、肌をかすめる抵抗の強さが変化していく。


「強度に問題はなしと……どこにほころびがあるのか判断しがたいですね……」

静かな独り言が、朝の空気に溶けていく。


厨房ではエクリナが朝食を準備しているのが目に入る。

セディオスの好みに合わせて塩漬け豚を焼き、自作のハーブをまぶしている。


「ふふ、あのエクリナが……ここまで細やかな配慮をするとは。いつも幸せそうで何よりです」


エクリナの笑みに、ティセラもつられて笑顔になる。

その顔を見るだけで、心の奥に温かみを感じていた。



朝食後――


館の回廊を歩んでいると、窓の外の蒼い影が目に入った。

玄関では、外套を羽織ったライナが元気に駆け出していく。


(今日は森へ狩りですね。……いったい何を持ち帰るやら)

(いつも通り、元気いっぱいですね)


ティセラは外のライナへ手を振ってみる。

それに気づいたライナは、手をブンブンと振り回していた。


「さて、わたしも頑張りますか♪」


元気を分けてもらったティセラは書庫の扉をノックする。

返事はなかったが、鍵は開いていた。


「お邪魔しますね~」と言い、中へ入っていった。


整然と並ぶ書物の匂いに安堵を覚える。

項目別に並べられた棚に立ち、背表紙を眺めていく。


「結界を強固にする術具の改良をしないと……」

呟きながら魔法書を探していると――


奥の書架の間から赤毛の少女が出てきた。

「ティセラ、探し物ですか?」


「ルゼリア、お邪魔してます。結界の高位魔法式を見直そうかと思って」


「なるほど……ちょっと待っててくださいね」


その頼みに少し考えると、三列目の棚へと向かう。

背表紙を指でなぞり、目的の本を見つけると二冊まとめて引き抜いていた。


「この本たちに結界の魔法式が記述されてましたよ」


「ありがとうございます♪」

礼を言い、二冊の本を受け取るティセラ。


(流石ですね。管理が行き届いているので、選出も的確です)



早速、自身が管理している工房へ足を運ぶ。


書卓に本を置き、紙とペンを並べる。

魔法書を開き必要な項目を閲覧し、欲しい魔法式を紙へ写していく。


いくつかを書き写し終えると、見比べ、思案を重ねる。

より頑丈で、誰も侵入させないために術具の改良案を紙に書いていく。


「あ! あまり制限を掛けるとネコやトリが入ってこれなくなりますね……両立は難しいものですね……」


ネコやトリなどの小動物は館に侵入しては、家族に癒しをもたらしていた。

結界のほころびを見つけ、侵入しているのは知っていた。

ルゼリアが時折、ネコの写真を撮っているのを見かけ、見逃していた。


「襲撃者は多分、そこから無理やり入ってるんでしょうね……」


新たな策を考えるために魔法書を眺めていると、扉をノックする音がした。

「コンコンコン」と、小さく控えめなノック――現れたのはセディオスだった。


「こんにちは、セディオス。お茶を用意しますね。今日はアッサムにしましょうか」


「ありがとう、ティセラ。少し時間があったものでな」


迎え入れたティセラは、紅茶を準備する。

エクリナに影響され、紅茶の銘柄に詳しくなっていたティセラは、好みの茶葉を工房に置いていた。


二人で紅茶を口にしながら、窓の外へ視線をやる。

「……皆、元気に過ごしています。特にエクリナは、今朝も張り切っていましたよ」


「そうか……皆が平穏に過ごせるのも、おまえたちのおかげだ」

「良い隠居生活だな」


何気ない会話――それができるのは、過去にけじめをつけたからだ。

五人で死線を切り抜け、ようやくつかみ取った未来。平穏な生活自体が尊いものであった。


ティセラはふっと微笑む。

「……こうして、何も起こらぬ日が続くこと。かつては、それだけで“奇跡”でしたね」


「そうだな。そしてその奇跡を護り続けられるのは、この家族だからこそだな」

セディオスは何気なく言う。


「ですね。……そしてあなたとエクリナが、わたしたちの中心です……」

ティセラのその声の奥には、淡い影が潜んでいた。


(祝福したいのに、胸の奥が少しだけ冷える)

(よくわからない感情です……)


かつて、最も近くにいたのは自分だった。

出会った時からエクリナと共にいて、苦痛も空虚も理解してきた。


けれど今は――エクリナが向ける柔らかな笑みは、セディオスに捧げられている。

もちろん、家族にも惜しみない愛情は注いでいる。でもそれは、セディオスとは違う愛。


(……あなたが導いたのですね。彼女を、変えた……わたしにはできなかったことを成し遂げた……)


かつて、自身が生み出された意味を思い出す。

魔哭神の居城を守護する術具の『核』として創造された躯体。

兵器ですらない、意志も、感情もすべてが不要であった。


それがティセラの命の意味であり、存在の証明であった。


ある時、魔哭神の戯れで、エクリナと同じ石牢に収監された。

ティセラにとってそれは幸運であった。

初めての友との出会いであり、戦争を共に駆け抜け、生涯傍にいると誓うことになったのだから。

冷えた石床に並んで座り、震える声で名前を名乗り合った、あの夜のことは今や良き思い出に変わっていた。


あの夜を境に、ティセラの世界は一変した。

石牢を出た彼女たちは、今度は戦場の最前線へと送り出される。

破壊の渦中で、エクリナは静かに「世界の終わり」を口にし、ティセラはただ、その傍らで術具として最高効率の戦略だけを提示した。

それが魔哭神と変わらぬ振る舞いだと分かっていても、止めることはなかった。


(でも、わたしはエクリナの傍にいるだけだった。あの時止めていたら……)

(いえいえ、それをしていたら……この未来はなかったですね……)


紅茶を啜り、過ぎ去った想いを振り払う。

そして願うように声を出す。


「……この日常がずっと続くことを願います。そして、それを見護る立場に甘んじるのも、悪くはありませんね♪」


セディオスは、その言葉に込められた真意までは察しなかった。


(セディオスを認めていないわけではありません。ええ……ただ、少しだけ、寂しいだけです)

(でも、エクリナが幸せならば、わたしも幸せです)


ティセラは笑顔で、お気に入りの紅茶を啜っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
エクリナ(CV悠木碧) ルゼリア(CV早見沙織) ……だったり?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ