◆第73話:交差する稽古の剣(つるぎ)◆
朝の澄んだ空気を切り裂くように、乾いた木剣の衝突音が訓練場に響き渡った。
振るわれた剣が風を裂き、足音が土を蹴り、掌に痺れが走る。
「やぁッ! そりゃッ!!」
ライナが勢いよく踏み込み、鋭い動きでセディオスに斬りかかる。
その剣筋には、まさに雷のような荒々しさと俊敏さが宿っていた。
「おっと、そっちか」
セディオスはするりと身をかわし、木剣を軽く当てて受け流す。
力まず、無駄のない動き――その冴え渡る剣筋は、かつて幾多の戦場を駆け抜けた熟練の証だった。
「うわっ、やっぱすごいなぁ、セディオスって! 全然当たらないんだけど!」
「いや、今のは良い踏み込みだった。あと半歩速ければ、俺の懐に入っていたな」
「ほんと!? じゃあ、もう一回お願いっ!」
ライナは汗を拭いながら息を整え、再び構えを取る。
その姿は無邪気でありながら、確かに成長の兆しを帯びていた。
(……まだ鈍い。だが、こうして剣を振れることが、どれほど嬉しいか)
木剣を握る掌に痛みが走るたび、セディオスの胸には静かな喜びが広がっていく。
少し離れた場所で腕を組み、エクリナが静かにその様子を見守っていた。
「ふむ……あの二人、意外と相性が良いな」
隣に立つティセラが微笑む。
「ええ。ライナは動きのセンスがありますし、セディオスの経験がそれを上手く引き出しています。
きっと、良いリハビリにもなっているのでしょう」
「……まあ、あまり無理をさせる気はないがな」
エクリナはぽつりと呟いたが、その目は離れず、セディオスの動きを追っていた。
再び木剣が交錯する。
ガンッ――衝撃音とともに、刃がわずかにセディオスの肩を掠めた。
「当たったっ! 今、絶対当たったよね!」
ライナは目を輝かせ、嬉しそうに跳ねる。
「……ああ、一本取られた。剣速が、さっきより確かに上がっている」
「やったぁ! よし、次はもっとすごいのいくよっ!」
彼女の笑顔に、セディオスも思わず口元を緩める。
(……この子の成長を支えられるのなら、まだ俺も――剣を手放すわけにはいかない)
その日、訓練場には幾度となく剣戟が響いた。
だがその音は、戦場の殺伐としたものではない。
互いを高め合い、少しずつ近づいていく二人の証――
その響きが、静かな朝の光の中で確かに鳴り続けていた。




