◆第72話:新たなる剣を手に◆
館の裏手――そこには、新たに設けられた訓練場があった。
整地された地面に、木星材で組まれた長椅子、結界を備えた訓練用木人形が並んでいる。簡易ながらも、実戦形式の訓練には十分な設備だった。
数日が経ったある朝。朝食を終えた面々が、次々と訓練場へ集まってくる。
そこには、回復したセディオスの姿もあった。
そして、中央で満面の笑みを浮かべていたのはティセラだった。
「お待たせしました! こちらが新たな魔剣《魔導充式剣ディスフィルス》です!」
彼女は誇らしげに鞘から剣を抜き、セディオスに手渡す。
「魔力伝導を最適化した刃、魔晶による魔力供給、そして四属性魔法の発動を実現しました!」
「……美しい剣だな。見た目よりもずっと軽い」
剣を構えながら、セディオスは思わず感嘆の声を漏らす。
「使用可能な属性は、私たちが込めた魔力に基づいています。闇・雷・炎・結界――いずれも中級魔法までですが発動可能です」
「理論上では、二属性以上の同時発動、いわゆる“複合魔刃”としての運用も想定しています」
「複合魔法も!?」
驚きの声を上げたのはルゼリアだった。
「基本的に、私たちや人属・亜人属は“極められる属性適性が一つ”というのが一般的です。
魔法式の構築や魔導術具次第では広げられますが……」
「ですが、セディオスは違います。彼は戦技として、複数属性の付与を行っていました」
「確かに、俺は昔からいくつかの属性を同時に使っていた。ただ、中級以上となると……」
「その点は魔晶が補助します。使用中の負担を軽減し、魔力消費を補ってくれます。ただし――蓄積された魔力が切れれば、その属性は使用不能になります」
ティセラは剣の鍔部を指さす。
「ですから、魔晶の交換機構を設けました。鍔全体が着脱式で、戦闘中にも切り替え可能です。ここを、こうすると――」
手際よく魔晶の鍔を取り外し、別のものに差し替えてみせるティセラ。その顔には誇らしげな笑みが浮かんでいた。
「説明は以上です。さっそく魔法を使ってみてください。もし魔核に違和感を覚えたら、すぐに中止してくださいね」
「わかった。……では、始めよう」
セディオスは深く息を吸い、集中する。
(魔核は万全ではない……だが、この剣が俺を支えてくれるはずだ)
――まずは闇。
刃が漆黒に染まり、魔力刃が現れる。
「闇魔法の特徴は、魔力遮断と影の制御。うぬが振れば、影が追随するであろう」
エクリナがそっと説明する。
セディオスは木人形に向かって剣を振り下ろす。
――直撃。だがその直後、地面から滲み出るように伸びた“影”が別角度から追撃し、木人形を貫いた。
土煙が舞い、木片が飛び散る。
「……なるほど。これは面白いな」
「その気になれば、影の刃を伸ばすことも可能だぞ」
エクリナの言葉に、セディオスの口元がわずかに緩む。
(闇を操る……初めて扱う属性だが剣が助けてくれる……)
「次は雷ね!」
ライナの声に応じ、セディオスは雷の魔晶を起動する。
紫電が走り、刃に宿る。振るわれた剣が木人形に触れると、轟音とともにバチバチと電流が走り、地面には黒い焦げ跡が残った。
「範囲も意外と広いな」
「でしょっ! 雷は“速さ”と“まひ”が得意なんだよ!」
ライナは得意げに胸を張った。
「次は……炎ですね」
静かにルゼリアが進言する。
刃が紅蓮に染まり、振るわれる。瞬間、木人形が爆ぜるように燃え上がり、熱風が訓練場を揺らした。
見守る面々の髪がふわりと揺れる。
「炎は燃やすだけではありません。対象の防御力を弱めることも可能です」
「……この切れ味、相当な熱量だな」
セディオスは灼熱の空気を吸い込みながら、汗を拭った。
(これほどの炎を扱えるのか……。かつての俺なら、自力でここまで制御するのは難しかっただろう)
「最後は結界か」
セディオスが構えると、刃に白い光が収束する。
振り下ろされた瞬間、結界付きの木人形を難なく切断――衝撃波が周囲に広がり、休憩席の長椅子がきしむほどだった。
「結界は防御魔法の象徴ですが、特に結界同士の打ち合いになると密度の高い方に優位性があります」
「確かに……これは、今までのどの剣よりも扱いやすい」
セディオスは剣を見つめ、ゆっくりと息を吐いた。
(……まだ戦える。神との戦いで削がれた力を、それでも取り戻せる……!)
「体調に異常はありませんか?」
「問題ない。これは――素晴らしい剣だ。……流石だ、ティセラ」
その言葉に、ティセラは顔をわずかに赤らめた。
彼の手には、失われたはずの確かな力が戻っていた。
神との戦いで削がれた魔核、その代償を抱えながらも――なお剣を振るうために。
家族の想いを宿す新たな相棒、《魔導充式剣ディスフィルス》が、ここに誕生した。
次回は、『9月21日(日)13時ごろ』の投稿となります。
引き続きよろしくお願いしますm(__)m
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