◆第35話:蠢く闇の胎動◆
闇夜が山を覆う中、かつて“魔哭”の名を冠した神が座していた居城跡。
玉座の裏にある地下へ続く階段、その奥に、橙の灯がぽつりと揺れる工房があった。
黒衣の影が、沈黙を打ち鳴らすようにカツン、カツンと歩を進める。
――リゼル。
紺色の髪、整然と結ばれた三つ編み、そして狂気すら帯びた冷たい微笑を携えた“魔哭神の意思の継承者”。
彼は工房の祭壇代わりとなっている作業台へと歩み寄り、その前に静かに腰を下ろす。
その手には、戦場から密かに持ち帰った『黒騎士の双剣』があった。
「……粗く仕立てた試作品にしては、『黒騎士』は実に有用でしたね」
他に誰もいない工房に、リゼルの声だけが響いた。
双剣の一振りを天に掲げ、じっと見つめる。
刃には、わずかに“エクリナ”の血液が付着していた。
「ふふ……欲しかった因子が、こうも綺麗に残っているとはね。しかも――」
彼は左手に持っていた、複雑な紋様が刻まれた黒鉄の器具を取り出す。
《共鳴抽出術具レクイエム・スコープ》
大気に含有する魔力を収集する魔導術具だ。
収集量は少ないが、複数種の魔力を分割して収集できる。
先の戦場でも、誰にも気づかれぬ高さに静かに浮かべ、終始起動させていた代物である。
「これも、期待以上の成果を出してくれましたね。戦闘中に起動しておいた甲斐がありましたよ……」
「エクリナ、ルゼリア、ライナ――三人の魔力、そして感情の揺らぎすら、すべてここに収まっている。
ああ、素晴らしい……なんて愛おしい供物なんだろう」
リゼルは双剣と術具を掲げる。その姿は、まるで聖遺物を愛でる信者のように、うっとりとした笑みを浮かべていた。
「ふふっ、ふふふ…………ああ!、ヴァルザ様! 我が主……あなたがこの世界に遺した因子は、確かに今、目覚めつつあります。
見ていてください!このリゼルが、全てを繋ぎ合わせ、あなたの“理想”を現出させてみせますから!」
その声は誓いであり、使命であり、どこか恍惚すら帯びていた。
「“魔王”という因子も、“感情”という制御因子も――要は、どう使うか。だからこそ、エクリナ。
次はもっと深く、貴方の“核”に触れさせてもらおう。情報も、記憶も、願いも――」
リゼルは祭壇と化した作業台に黒騎士の双剣を並べ、魔力収集術具を置く。
まるで儀式のように神へ供物を捧げるようであった。
その時、祭壇に鎮座していた黒い球状の術具が、不規則に脈動を始めた。
赤黒い光が、血管のように脈打ち、孤独な工房の空間を照らす。
「……ほら、ね。反応している……ヴァルザ様の意思は、まだ消えてなどいない!
断片が揃えば、“新たな魔哭”は完成するんだ。ふふっ、ふふふふ……!」
嗤い声は、最初は小さく、やがて次第に狂気じみた抑揚を孕んでいく。
「欲しいものは、まだまだ足りない。けれど、揃えればいいのですよ。
世界中から集めて……奪って……壊して……塗り替えて……
ああ、愛しき神の理想を、もう一度この手で――!!」
そして、リゼルは静かに立ち上がる。
「いずれ、“対話”の場を設けましょうか。貴方たち“家族”の本性、見せてもらいましょう。
ああ、エクリナ……次は貴方のその“感情”がどこまで揺れるのかを魅せてもらいます。楽しみにしてますよ」
その言葉を最後に、リゼルは異空間に身を預け、その姿を消した。。
――工房の奥では、安置された球状の術具が、確かに胎動していた。
それは“第二の魔哭”――
過去が再び、終焉を告げる日へと向けて、静かに蠢いていた。
お疲れ様です、ひげシェフです。
三章の終わりでようやく主要敵キャラを出せました。
リゼルのキャラ付けは結構気に入ってます、怪しげな敵キャラが大好きなので好みを詰め込んでます。
四章からは過去編に入ります。一章3話でエクリナとセディオスの出会いを少し書きましたが、それの全編版みたいな感じになります。
引き続きよろしくお願いしますm(__)m
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
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