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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第三章:静穏と影の狭間

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31/201

◆第27話:影、現る◆

深夜——


山中の、廃れた神社へと続く参道。

苔むした石段には、もう参拝客の足音など久しくない。

ひび割れた狛犬には片方しか頭がなく、灯籠の中の灯もとうに絶えている。


その鳥居の前に、三つ編みの若者と重厚な鎧の騎士が立っていた。

「『黒騎士』、いよいよです。彼女らが去る前に奇襲しなければなりません」

「今回の使命は、貴方に刻んだ通りです。エクリナを優先なさい。

 他は雑兵に任せればよいでしょう」

口頭で最終指令を出した怪しげな若者。


「御意……仰せの……ままに……」

兜の奥で見つめるかのように視線を合わせ従う黒騎士。


「それと、この二体も連れていけ。雑兵を率いるのに必要です」

二体の兵が、異空間からぬるりと現れた。

「主ノタメニ……主ノタメニ……」

同じことしか繰り返さない、不気味な神の上級兵だった。

「調整しすぎて、少々壊れ気味ですが……まあ、下級兵くらいは率いられるでしょう」

適当に言う若者。


「さあ、行きなさい」


主に指示を出され、歩き始める三体。

深夜の森は不気味だったが、異形のものの闊歩に獣たちは離れていった。

ザ、ザ、ザ――

鎧独特の足音を鳴らし、着実に進んでいた。


 ◇


山の麓。

宿から離れた林道の先、薄霧が立ち込める中に、不穏な気配が忍び寄っていた。

黒きローブに身を包んだ、三体の影。

そのうち一体、黒き重鎧を纏った異形の剣士だけが、わずかに感情の灯を宿していた。

その瞳に宿るは、怨念か、それとも執念か。

だが、残る二体に人間らしさはない。

顔を隠した仮面の奥には、感情の欠片もなく、ただ命令に従うだけの兵器のような存在。


傀儡であった――


「……あの魔力。間違いない……魔王が……近くにいる」

黒い騎士は低く呟く。

その声には、かすかな意思の響きがあった。


「剣士も確認……その他も同伴……使命、完遂ノ時期、接近……」

騎士は確認するようにつぶやく。


「主ノタメニ……主ノタメニ……」

二体の傀儡が、どこか壊れた人形のように、とぎれとぎれの声で繰り返す。


黒騎士の腰に添えられた双剣が、鈍く瘴気を放つ。

『魔哭神軍の残党』

だが、意思なき意思がある者は彼ひとり。

他の二体は、ただ雑兵。送られた“道具”に過ぎない。


黒い騎士は告げる。

「魔王と……相対せよ……目的は、ただ一つ……因子の回収」

「これが……使命……」


黒い騎士は、二体の上級兵に命じる。

「お前たちは……兵を率い……剣士たちと戦え」


三人が進むほどに、足音が増えていく。


ザッ、ザッ、ザッ――。


気づけば、いつの間にか百を超える兵が背後に列を成していた。

ボロボロの鎧をまとい、錆びた剣や斧を握りしめた、

魔哭神の下級兵たちである。


壊れた上級兵の二体は言葉なく頷く。


宿へ続く道をゆったりと着実に歩む。

引きずられた剣の刃が、石を擦るたび、甲高い火花が夜気を裂いた。

それは亡霊のように、怨霊のようにも見えた。

言われるがままに、与えられた命令をなぞるように行動する傀儡たち。

神なき世界で、新たな命令だけを道標に、戦場へと赴く。


その様子を、さらに離れた林の影から見下ろす者がいた。

少年のような、少女のような中性的な姿。

紺色の三つ編みをたなびかせ、薄く笑みを浮かべている。


「……いよいよですか。『黒騎士』は試作品としては上出来ですね。あれがどこまで通用するか……」

「身体能力、反応速度、魔力出力……どれも規格外。けれど、“意思”だけが欠けている。

 だからこそ、道具としては扱いやすい。ふふ、やはり将級兵を元に改造したのは正解でしたね」


細く白い指先が、宙に浮かぶ幾つもの魔法式の映像をなぞる。

若者は、黒騎士の図面を改めて見下ろし、満足げに口角を吊り上げた。

冷たい瞳の奥に潜むのは、観察者の眼。

それは、さらに深い計画と暗き欲望を秘めた影だった。


「楽しみだな……エクリナ……か」

「神に気に入られた玩具、しっかりと見せて頂きましょう」


若者の口元が、玩具を与えられた子供のように、しかしどこか歪んだ角度で吊り上がる。

それは信仰というより、執着に近い色を帯びていた。

怪しく告げた若者は、忽然と姿を消した。

残るは、微かな空間の揺らぎだけであった。


物語は、静かに、しかし確実に動き始めていた――。

それは、長き因縁へと続く序曲にすぎなかった。

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