◆第27話:影、現る◆
翌朝、山の麓。
宿から離れた林道の先、薄霧が立ち込める中に、不穏な気配が忍び寄っていた。
黒きローブに身を包んだ、三体の影。
そのうち一体――黒き重鎧を纏った異形の剣士だけが、わずかに感情の灯を宿していた。
その瞳に宿るは、怨念か、それとも執念か。
だが、残る二体に人間らしさはない。
顔を隠した仮面の奥には、感情の欠片もなく、ただ命令に従うだけの兵器のような存在――傀儡であった。
「……あの気配。間違いない、魔王がここにいる」
黒騎士は低く呟く。その声には、かすかな意思の響きがあった。
「剣士も確認。その他も同伴……使命を完遂するときは近い……」
「主のために………」
その手に握られた双剣が、鈍く瘴気を放つ。
“魔哭神陣営の残党”――だが、意思ある者は彼ひとり。
他の二体は、ただ復讐のために作られ、送られた“道具”に過ぎない。
魔王と剣士を相対せよ。我が目的は、ただ一つ……因子の回収。
仮面の戦士たちは言葉なく頷き、霧の中へと消えていく。
その様子を、さらに離れた林の影から見下ろす者がいた。
少年のような、少女のような中性的なシルエット。
紺色の髪をたなびかせ、薄く笑みを浮かべている。
「……いよいよか。試作品としては上出来だな。あれが“どこまで通用するか”……」
冷たい瞳の奥に潜むのは、観察者の眼。
それは、さらに深い計画と暗き欲望を秘めた影だった。
物語は、静かに、しかし確実に動き始めていた――。




