◆幕間:二日遅れの記念日◆
庭を修繕した――その日の夜。
食卓には豪華な料理が並んでいた。
特に普段は手間のかかるトリの丸焼きや、シシ肉の炙り焼きが中央に鎮座していた。
二日前の記念日のために用意していた食材が、ようやく料理となって食卓に並んでいた。そして――異様な気配が漂う鉄鍋も温め直されて置かれていた。
「今日はお疲れさまだ……杯を持ったな?」
「では――乾杯!」
「「「「乾杯っ!」」」」
エクリナの音頭に合わせて、四人は硝子製の盃を空中で合わせる。
カンッ! と小気味のいい音が響くと宴が始まった。
「好きなものを食すがいい!!」
「さて我は――これだな」
エクリナはそう言うと、焦げ茶色のシチューが入った鍋に手を掛ける。
それは、先日ライナが作っていた『ハチミツ激辛シチュー』だった。
甘いものが大好きなのに、辛いものも好んでいるライナの思い付き料理。
それをエクリナは迷わず選んだ。ライナはそれを見てドキドキしていた。
セディオス・ルゼリア・ティセラは気にしないふりをしていたが、鍋から器へよそわれるシチューに目が釘付けとなっていた。
ドロドロと濃厚そうなシチュー。
立ち上る湯気からは辛みのある香りが漂っていた。
「王さま……最後まで味見できてないから美味しくないかも……」
ライナはまったく自信がなかった。
作っていたあの日、ルゼリアがさっさと冷蔵の術具に収納しており、味の調整など全くできていなかった。
それをエクリナが楽しみといった表情で食べようとしているのにいたたまれなくなっていた。
「ライナ、この日のために作ったのであろう? ならば自信を持て」
「頂くぞ!」
エクリナは躊躇なくシチューを銀の匙で大盛りにすくうと、その口に運んだ。
食卓はその光景に静まり返った。
(思いっきりいった!)
と四人は全員一致で心の中で叫んだ。
たっぷりのハチミツと唐辛子を使ったシチュー。
相容れない食材が喧嘩し合う―――と思っていた。
だが――エクリナはおいしそうに咀嚼していた。
「うむ! うまいではないか!」
「最初はまろやかな甘みだが、噛むほどに肉はほどけ、最後に刺激的な辛さが来る。これは我にはない発想だな!」
エクリナは絶賛し、二口、三口と口に運んでいた。
「私も頂きます」
半信半疑のルゼリアも、器によそって恐る恐る口にした。
「ん!」と初めは驚いたようであったが、噛みしめるごとに交わる甘みと辛みに顔がほころんでいた。
「ライナ、これ美味しいです!」
ルゼリアはライナに笑顔を見せる。
それを見たライナも微笑み返していた。
「ほら、美味しいでしょ!」
胸を張るライナは、手早くティセラとセディオスにも配っていた。
そして、自身の器にも入れると、大きく頬張った。
ティセラとセディオスは顔を見合わせ、口に運ぶ。
「うまい!」
「美味しいです!」
二人とも絶賛であった。
エクリナとルゼリアがおかしいわけではなかったのだ。
本当においしくできていた。
「んん~~おいしい!」
ライナもその出来栄えに満足していた。
「でも……前はもっと、甘い! 辛い! って感じではっきりしていたような?」
ライナはシチューを食べつつ、疑問に感じていた。
すると――
「この肉、こんなに柔らかかったのでしょうか?」
ルゼリアが、ほぐれたシシの肉片を匙に乗せてライナに聞く。
「ううん、もっと歯ごたえあったよ」
ライナの記憶をもとに、ルゼリアは考える。
そして、一つの結論に至った。
「恐らくですが……余熱で熟成されたのかもしれませんね……」
「熱いままで鍋ごと術具に入れてしまったのが関係しているのかも?」
憶測で話すルゼリア。
シチューのお代わりをしていたエクリナが口を開いた。
「うむ、合っておると思うぞ。肉は煮込みを続けるとほぐれるほどに柔らかくなる」
「そして、寝かせるほどに濃い味は調和を始める」
厨房の番人はこれまでの料理経験から話していた。
それぞれは、他の料理を小皿に移しながら耳を傾ける。
「熱い鍋に残った余熱で肉がほどけ、その後、冷蔵の術具で寝かせたことで甘みと辛みが馴染んだのであろう」
「二人の行動が、成功に導いたというわけだな。流石だ、姉妹で作り上げた逸品だな」
エクリナは笑顔でそう言うと、二杯目のシチューを食べ始めた。
その言葉にライナとルゼリアも顔を見合わせて笑顔になっていた。
夕食を終えると、紅茶と焼き菓子の時間となった。
すべての皿を片付けると、異空間より呼び出したのは、白くて丸い多段のケーキであった。
紅や蒼、黄色などの色とりどりのイチゴが散りばめられていた。
「先日ルゼリアから借りた本に書かれていた焼き菓子、『乳白ケーキ、イチゴのせ』だ!」
エクリナはいつもにも増して胸を張る。
四人は「おおーー!!」と歓声を上げ、驚いていた。
「書かれていた焼き菓子はこういう見た目だったのですね!」
「まあ、我の認識が合っていれば同じであろうな。王宮の宴でしか食せないという特別なものだ」
エクリナはルゼリアに豪語しながら説明する。
ライナとティセラは早く食べたくてウズウズしていた。
「エクリナ……皆待っているぞ?」
その光景にセディオスが切り分けを促していた。
「おお……すまぬ」
シュパ、シュパと柔らかい焼き菓子を潰さぬように慎重かつ素早くナイフを入れていく。
そのナイフは空間圧縮で作られたものだったが、誰も気にしていなかった。
均等に切り分けられ、五人分の皿に盛りつける。
「よし、食べて良いぞ♪」
待ってましたとばかりにライナはフォークで一口大にすくうと、口いっぱいに放り込む。
口の端に白い乳の塊がついていたが、そんなことお構いなしであった。
「おいひい~!」
「そうかそうか!」
ライナの第一声にエクリナは満足げであった。
「もう、口元が……」
ルゼリアはライナの口端の汚れが気になり、布巾で拭っていた。
ライナは「ありがとう」と言いつつ、また汚していた。
その光景は、エクリナ・ティセラ・セディオスの三人にも安らぎを与えていた。
そして――二人への贈り物をいつ出そうかと迷っていた。
今日の宴はまだまだ続く。




