◆第21話:修復の朝と絆のひととき◆
翌早朝、まだ霞の残る中庭に、一人の影が立っていた。
エクリナは《魔盾盤ヴェスペリア》を手に、静かに呪文を紡ぐ。
「記録より転写、空間修復術式・第七階層、展開」
無数の魔法陣が庭に広がり、破壊された地面や壁が次々と再生されていく。
その魔法は、空間と物質の構造情報を記録・転写し、原状回復する高度な再生術。
「……ふむ、やはり多少の歪みは残るか。ならば、補正転写を――」
そこへ、ルゼリアとライナが現れる。全身の包帯こそ目立つが、二人ともすでに歩ける程度には回復していた。
「お手伝い致します、エクリナ」「王様!僕もやるよっ!あ、そこの柱、ちょっと曲がってるー!」
エクリナは微笑を浮かべ、頷いた。
「うむ、頼もしい限りだ。うぬらも、少しは反省したようで何よりだな」
そのやり取りに、笑いが零れる。
セディオスも現れ、工具を手に扉の修理を始めていた。
「にしても……本当にすごい破壊力だったな。まさか庭がクレーターになるとは思わなかったよ」
「ふ、ふん……多少やりすぎた感は否めぬな」
エクリナが頬を染めて視線を逸らすと、セディオスは小さく笑った。
「流石にあの攻勢では、館に結界を張るので精一杯でした……」とティセラが嘆息した。
あの時ティセラは被害拡大を食い止めるために幾重にも結界を張っていたのであった、
ティセラは屋敷の外壁や基礎を検分しながら、あちこちに魔法陣を書き記していた。
「強化結界の永続付与を行います。次回は、これほどの戦闘でも崩れないように!」
穏やかな陽射しの下、それぞれが自分にできることを黙々と進めていた。家族としての共同作業。それは、無言のうちに心を繋げていく。
汗を拭いながら、ふとエクリナが空を見上げる。
「……この空も、あの頃とは違って見えるな」
誰に言うともなく呟いたその言葉に、静かな安堵が滲んでいた。そして、その背中を見つめる者たちの眼差しも、また優しさに満ちていた。




