◆第20話:盟友の叱責と揺れる王心◆
朝食が終わった頃――
「エクリナ……、少しお時間をいただけますか」
ティセラの声音は、いつもと変わらず穏やかだった。
だが、その目には確かな鋭さと、静かな怒りが宿っていた。
エクリナは少し戸惑いながらも、無言でうなずき、ティセラの私室へと向かう。
扉が閉まった瞬間から、説教が始まった。
「……他に、やり方はあったのではありませんか?」
「あれほど派手に吹き飛ばしておいて、“重傷ではない”のは……私が、途中で結界を張っていたからですよ?」
「そもそも、彼女たちの魔装を修理するのは……誰だと思っているのです?」
――実は彼女は、ルゼリアとライナの激突が始まった直後から、館全体を包む防護結界を静かに張り巡らせていた。
誰にも悟らせぬまま、ただ、家族を守るために。
「まったく……あの子たちの喧嘩を収めるなら、もっと穏やかに済ませられたはずです。あんな“王の鉄槌”など振るわずとも」
「……それとも、日常を壊されてお怒りでしたか?」
「ですが、庭が盛大に荒れ地になったのは――誰の責任ですか?」
冷静でありながらも、的確に突き刺さる言葉の数々。
ティセラは見守るものであり、家族の一員であり、
そして――この館において、唯一の“エクリナに説教できる存在”であった。
エクリナは、その叱責に反論ひとつできず、ただ小さくうなずきながら聞いていた。
その様子は、王ではなく、ただの少女のようで。
「あなたの判断が正しいと信じてきました。ですが……家族を巻き込むのは、違うと思います」
「もし、もしですよ……あの二人に取り返しのつかないことが起きていたら、私は……私はきっと……」
そこで、ティセラの声が一瞬だけ震えた。
「あなたが、あの二人をどう思っているかは知っています。だからこそ、そんなあなたが、彼女たちにあれほどの仕打ちをする姿を見るのは、耐え難いのです」
「私は、あなたを、誰よりも理解しているつもりです。だからこそ、怒っているのです」
その言葉を聞いた瞬間、エクリナは――
唇をぎゅっと噛みしめ、拳を強く握りしめた。
その指先が、かすかに震えていた。
声にならぬ痛みと後悔が、彼女の胸を締め付けていた。
「……すまぬ、ティセラ」
ようやく絞り出したその声は、どこか震えていた。
胸の奥が、締め付けられるように痛かった。
盟友だからこそ、許される厳しさ。だが、それは確かにエクリナの心を揺らした。
「……今後は、もっと慎重に行動する。臣下たちの信頼を損なっては、王の名が廃るからな」
そう言ったとき、エクリナの目にはほんのわずかに涙が滲んでいた。
ティセラはその姿に、小さく息を吐き、そっと近づいてエクリナの頭に手を置いた。
「……ちゃんと謝れて、えらいです」
その言葉は、まるで姉のようであり、母のようでもあった。
「それでこそ、エクリナです」
そして、静かに背を向けた。
……それが、彼女の“王”であり、“大切な友”である証なのだから。




