◆第200話:再会に忍ばない影◆
遺跡探索を開始して三日目と思われる、体感午前中。
入り組んだ回廊。警戒を怠らない自立術具たち。
隠れながら進むルゼリアとライナの探索は、遅々として進まなかった。
二人は素早い動きで、未踏の扉へ滑り込む。
その部屋は――これまで見たことがない様相だった。
これまでは簡素な作りだったが、この部屋は絨毯が敷かれ、硝子の水差しやグラスが壁の棚に入っていた。
まるで、誰かをもてなすかのような意図を感じさせた。
一番特徴的なのは、いくつもの椅子が”同じ方向”を向いていることであった。
「ふう~、何とか入れたね……」
ようやく休憩できると思うライナ。
「この部屋は他と違いますね……」
意匠が違うと見抜くルゼリア。
「なんだろね?」
椅子の向く先へライナが歩く。
少し進んだところで——ガンッ!と鈍い音が響き、足が止まる。
顔面から“何か”にぶつかっていた。
「あ”だっ! っっっ……なんかに当たったぁ~~」
鼻をさするライナ。
つるり、と冷たい何か。しかも――音が吸われるように、反響が薄い。
コンコン、とライナがぶつかった位置に裏拳を軽く当てるルゼリア。
「これは壁? いえ……硝子ですか?」
目を凝らして仄暗い奥を見る。
透明な壁の向こうに、広い空間があるのが見えていた。
「どうやら何かを鑑賞するための場所? ですかね……」
顎に手を当て、思案するルゼリア。
「何のためかな?」
つるつるした壁を撫でるライナ。
二人が話していると、硝子の向こう——
広間と思しき部屋の端が、少し明るくなった。
セディオスが魔導ランプを持って入ってくる。
その後ろには、杖剣を肩に携えたリゼルがいた。
それを見たルゼリアとライナは、即座に警戒を強める。
「ここを破りますよ、ライナ」
「わかった……」
先ほどの朗らかな空気は、もうない。
「とりゃ!」
《魔斧グランヴォルテクス》を振りかぶり、硝子の壁に叩きつける。
だが、ゴンッ! と鈍い音がするだけで砕けなかった。
「くぅぅぅぅ~~、いたい……」
反動で痺れるライナ。
その音に気づき、セディオスとリゼルがこちらへ向かってくる。
二人の姿を確認したセディオスは、安堵の表情を浮かべた。
ルゼリアとライナが何かを叫んでいるが、こちらにはよく聞こえない。
セディオスの背後では、リゼルが嗤いながら彼女らに手を振っていた。
ルゼリアとライナは目配せを交わす。
ライナは魔斧に紫電を纏わせ、刺突の体勢。
ルゼリアは《焔晶フレア・クリスタリア》を『獄炎爪』形態にし右手に装着、炎刃を出す。
二人の魔核に痛みが走る、戦具に魔力を込めるたびに痛みが強くなる。
その痛みに構わず、呼吸を合わせ——穿つ!
「「はあああっ!!」」
ガイィィン!!
息の合った集中攻撃。
一点に衝撃を集め、蜘蛛の巣のように亀裂が入っていく。
ビキンッ!!
ビキ、ビキ、ビキ、ビキッ!——バキィーン!!
炎雷の姉妹は硝子の壁を砕こうと、一撃を加えていたのだが――
出来たのは顔よりも小さな穴だけ。
硝子が分厚く、断面から現れた透明の糸が無数に垂れていた。
さらに壁の紋様が魔力を締め上げ、戦具へ魔力を流すだけで魔核が軋んだ。
出したい出力に、身体がまるで追いつかない。
胸を押さえる二人。
風が抜けた。冷たい空気が頬を撫で、音がそこから漏れる感触があった。
ようやく開いた穴に向けて――
「「セディオス!」」
ルゼリアとライナが同時に叫ぶ。
「無事だったか、二人とも!」
ようやく声が届き、セディオスは嬉しかった。
「元気そうで良かったですね♪」
家族の再会の瞬間、微笑ましい光景に一言いう。
何を考えているか分からない笑顔のリゼルが背後にいた。
「やはり、一緒でしたか……!」
「なんでそんな奴と!」
姉妹はリゼルを睨みつける。ルゼリアとライナは怒りを隠さなかった。
先ほどの聞き取りづらい声も、恐らくリゼルに向けられた罵声だったのだろう。
「落ち着くんだ二人とも、今は……共闘中だ……」
気まずそうに言うセディオス。
彼女たちにとっては、王に仇なす敵であり、セディオスを殺そうとした張本人。
だが、今は手を組むべきと判断して行動をしていた。
「心配しなくとも、ここを脱出するまでは味方ですよ?」
嗤いながらルゼリアとライナに声を掛ける。
同じ神の子としての親しみすら見える声色であった。
「だまりなさい! よくもぬけぬけと言う!」
ルゼリアは珍しく口調が荒い。
「信じるもんか! 行こう、リア姉。見てるだけでむかつく!」
隔てる壁を意識しつつ、ライナは扉へ向かう。
その足はイラ立ちに任せ、床を踏み鳴らしていた。
「セディオス、私たちには時間が必要ですね……外で会いましょう……」
リゼルを睨みながら、セディオスに冷たく告げるルゼリア。
ライナを追いかけ立ち去った。
セディオスは頭をガシガシと掻き、硝子越しに二人の背を見送る。
(伝わらんなぁ……好きで一緒に居るわけじゃないんだがな)
「嫌われましたね♪」
楽しげなリゼル。
二人の怒り、セディオスの憂い、実に甘美という振る舞いだった。
「……お前のせいだからな!」
諦め声で返すセディオス。
気を取り直して、ようやく広間を見渡す。
「はあ~~、しかし、ここは何だ? 瓦礫があちこちに……」
異様に広い空間、透明で頑丈な壁、闘技場のように並ぶ椅子。
まるで、舞台か檻を眺める客席のような造りに見えた。
「見世物小屋でしょうね。あっちには大型の門があります」
(恐らく、ここで検証でもしてたんでしょうね……資料の内容が本当ならば既にあるはず)
研究所の資料を読み漁っていたリゼルは、ある程度の答えを持っていた。
「なるほどな……大門の横に、入れそうな亀裂があるな……」
「いいですね、入ってみましょう」
道なき道を見つけた“敵同士”の二人も、歩き出した。




