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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆第200話:再会に忍ばない影◆

遺跡探索を開始して三日目と思われる、体感午前中。

入り組んだ回廊。警戒を怠らない自立術具たち。

隠れながら進むルゼリアとライナの探索は、遅々として進まなかった。


二人は素早い動きで、未踏の扉へ滑り込む。

その部屋は――これまで見たことがない様相だった。

これまでは簡素な作りだったが、この部屋は絨毯が敷かれ、硝子の水差しやグラスが壁の棚に入っていた。

まるで、誰かをもてなすかのような意図を感じさせた。

一番特徴的なのは、いくつもの椅子が”同じ方向”を向いていることであった。


「ふう~、何とか入れたね……」

ようやく休憩できると思うライナ。

「この部屋は他と違いますね……」

意匠が違うと見抜くルゼリア。


「なんだろね?」

椅子の向く先へライナが歩く。


少し進んだところで——ガンッ!と鈍い音が響き、足が止まる。

顔面から“何か”にぶつかっていた。


「あ”だっ! っっっ……なんかに当たったぁ~~」


鼻をさするライナ。

つるり、と冷たい何か。しかも――音が吸われるように、反響が薄い。


コンコン、とライナがぶつかった位置に裏拳を軽く当てるルゼリア。

「これは壁? いえ……硝子ですか?」


目を凝らして仄暗い奥を見る。

透明な壁の向こうに、広い空間があるのが見えていた。


「どうやら何かを鑑賞するための場所? ですかね……」

顎に手を当て、思案するルゼリア。


「何のためかな?」

つるつるした壁を撫でるライナ。


二人が話していると、硝子の向こう——

広間と思しき部屋の端が、少し明るくなった。


セディオスが魔導ランプを持って入ってくる。

その後ろには、杖剣を肩に携えたリゼルがいた。


それを見たルゼリアとライナは、即座に警戒を強める。

「ここを破りますよ、ライナ」

「わかった……」


先ほどの朗らかな空気は、もうない。


「とりゃ!」

《魔斧グランヴォルテクス》を振りかぶり、硝子の壁に叩きつける。

だが、ゴンッ! と鈍い音がするだけで砕けなかった。


「くぅぅぅぅ~~、いたい……」

反動で痺れるライナ。


その音に気づき、セディオスとリゼルがこちらへ向かってくる。

二人の姿を確認したセディオスは、安堵の表情を浮かべた。


ルゼリアとライナが何かを叫んでいるが、こちらにはよく聞こえない。

セディオスの背後では、リゼルが嗤いながら彼女らに手を振っていた。


ルゼリアとライナは目配せを交わす。

ライナは魔斧に紫電を纏わせ、刺突の体勢。

ルゼリアは《焔晶フレア・クリスタリア》を『獄炎爪』形態にし右手に装着、炎刃を出す。

二人の魔核に痛みが走る、戦具に魔力を込めるたびに痛みが強くなる。


その痛みに構わず、呼吸を合わせ——穿つ!

「「はあああっ!!」」

ガイィィン!!


息の合った集中攻撃。

一点に衝撃を集め、蜘蛛の巣のように亀裂が入っていく。


ビキンッ!!

ビキ、ビキ、ビキ、ビキッ!——バキィーン!!


炎雷の姉妹は硝子の壁を砕こうと、一撃を加えていたのだが――

出来たのは顔よりも小さな穴だけ。

硝子が分厚く、断面から現れた透明の糸が無数に垂れていた。


さらに壁の紋様が魔力を締め上げ、戦具へ魔力を流すだけで魔核が軋んだ。

出したい出力に、身体がまるで追いつかない。


胸を押さえる二人。

風が抜けた。冷たい空気が頬を撫で、音がそこから漏れる感触があった。


ようやく開いた穴に向けて――

「「セディオス!」」

ルゼリアとライナが同時に叫ぶ。


「無事だったか、二人とも!」

ようやく声が届き、セディオスは嬉しかった。


「元気そうで良かったですね♪」


家族の再会の瞬間、微笑ましい光景に一言いう。

何を考えているか分からない笑顔のリゼルが背後にいた。


「やはり、一緒でしたか……!」

「なんでそんな奴と!」


姉妹はリゼルを睨みつける。ルゼリアとライナは怒りを隠さなかった。

先ほどの聞き取りづらい声も、恐らくリゼルに向けられた罵声だったのだろう。


「落ち着くんだ二人とも、今は……共闘中だ……」

気まずそうに言うセディオス。


彼女たちにとっては、王に仇なす敵であり、セディオスを殺そうとした張本人。

だが、今は手を組むべきと判断して行動をしていた。


「心配しなくとも、ここを脱出するまでは味方ですよ?」


嗤いながらルゼリアとライナに声を掛ける。

同じ神の子としての親しみすら見える声色であった。


「だまりなさい! よくもぬけぬけと言う!」

ルゼリアは珍しく口調が荒い。


「信じるもんか! 行こう、リア姉。見てるだけでむかつく!」


隔てる壁を意識しつつ、ライナは扉へ向かう。

その足はイラ立ちに任せ、床を踏み鳴らしていた。


「セディオス、私たちには時間が必要ですね……外で会いましょう……」


リゼルを睨みながら、セディオスに冷たく告げるルゼリア。

ライナを追いかけ立ち去った。


セディオスは頭をガシガシと掻き、硝子越しに二人の背を見送る。

(伝わらんなぁ……好きで一緒に居るわけじゃないんだがな)


「嫌われましたね♪」


楽しげなリゼル。

二人の怒り、セディオスの憂い、実に甘美という振る舞いだった。


「……お前のせいだからな!」

諦め声で返すセディオス。


気を取り直して、ようやく広間を見渡す。

「はあ~~、しかし、ここは何だ? 瓦礫があちこちに……」


異様に広い空間、透明で頑丈な壁、闘技場のように並ぶ椅子。

まるで、舞台か檻を眺める客席のような造りに見えた。


「見世物小屋でしょうね。あっちには大型の門があります」

(恐らく、ここで検証でもしてたんでしょうね……資料の内容が本当ならば既にあるはず)


研究所の資料を読み漁っていたリゼルは、ある程度の答えを持っていた。


「なるほどな……大門の横に、入れそうな亀裂があるな……」

「いいですね、入ってみましょう」


道なき道を見つけた“敵同士”の二人も、歩き出した。


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