◆第199話:親しみが出る味◆
二日目――体感では夜。
安全地帯にたどり着いたリゼルとセディオス。
運よく、研究所の休憩室に入れた。
「……まるで迷路のようだな」
焚き火でシチューを作り、腸詰を串に刺して焼いている。
「探索した限りでは、防衛機能が生きていると考えるのが妥当でしょうね」
焚き火を挟んで反対側、抱えた本を読みながら答えるリゼル。
セディオスは少年の抱える本に顎をしゃくる。
「その本にはなんと書かれている?」
不干渉の契約だが、気になり聞いてみた。
その声にリゼルは顔は向けず、目線だけを合わせた。
「……禁忌の外法……」
冷徹に静かにつぶやくリゼル。
氷のように冷たい眼で本を見つめていた。
鍋を混ぜる手が止まるセディオス。
(禁忌? 外法だと?)
リゼルの端的に放った言葉を反芻して驚く。
「……だったら、良かったのですがね?」
口元を緩め、口角を吊り上げて嗤う。
ぬるりと顔を上げながら言うリゼルであった。
「はあ~面倒な奴だ……」
言いながら、串刺しの腸詰を反転させるセディオス。
(本当に冗談だったのか?)
取り繕った顔をしたリゼルに内心疑っていた。
リゼルは視線を本に戻す。
「ふ……」
(本当は書いてあるのですがね……この資料は当たりですね)
素知らぬ顔で嘘をつくリゼルだった。
しばらくして――
「飯が出来たぞ、本をしまえ」
そういうとシチューの入った器を渡すセディオス。
よく焼けた腸詰も入っていた。
パタンと本を閉じ、収納鞄に丁寧にしまうリゼル。
木造りの器をこぼさないように受け取る。
「……ほう……これは……」
鼻をくすぐる初めての香り、抵抗なく啜るリゼル。
その動作はセディオスが口を付けるよりも早かった。
――毒を確かめる手順が、いつの間にか省かれていた。
「濃厚な味! 獣臭はしますが、嫌な感じではありませんね」
「だろ? 即興にしてはいい出来になった。腸詰もうまいぞ」
リゼルの新鮮な顔に笑いながら言うセディオス。
シチューに沈む腸詰をフォークで刺し、見つめるリゼル。
恐る恐る齧る――パキッ、と小気味いい音。
「熱ッ!」
焼き立ての腸詰は激熱で舌と歯を焼く。リゼルは、はふはふさせて口内を冷やす。
噛みしめるごとに何かが染み出し、舌にまとわりついてきた。
「んぐ! これは何と濃厚な汁! 油のようですが本能がおいしいと感じてます……」
咀嚼し、喉を通す。初めての経験を、知っている言葉で表現する。
「そうかそうか! 保存食だが、焼けば肉汁があふれるんだ」
リゼルの嬉しそうな表情を見て、作ってよかったと喜んだ。
セディオスも腸詰を頬張った。
「味のある食事はいいものですね……」
リゼルはセディオスに聞こえないように小さくつぶやく。
二日連続で暖かな食事、しかもすべてがおいしかった。
どこまでも初めてで、不要であると切り捨てた趣向の一つ。
その言葉は、どこか感慨深かった。
食事を終え、リゼルは杖剣を磨いていた。
セディオスから少し離れ、《律創杖剣レギオン・セファル》の汚れを布で丁寧に拭き取っていく。
食器の汚れを丁寧にふき取り、片づけを進めるセディオスは、気になり声を掛ける。
「自分で整備するんだな……」
「ん? この杖はわたくし以上に大事なものですからね。ヴァルザ様からお預かりした戦具、わたくしにはもったいない代物です」
リゼルは自分以上に大事なもの、宝物とあっさり告げる。
石粉を少量のせ、柄尻から鍔、そして先端へ。
小さく円を描く指が、慈しむように滑る。
愛おしいものを見る眼、これまで見たことない表情を見せていた。
「……そうか」
セディオスは片づけの片手間で、薪をくべる。
焚き火がパチパチとはじけ、火が強くなる。
自身の作業に集中しつつ、横目でリゼルの美しい所作を見守った。
「……」
仕上げに薄く蜜蝋をのばし、最後に先端をそっと“とん”と整える。
全体を焚火の光で照らし、満足そうなリゼルは指先を止める。
そして杖剣を、壁へ優しく立てかけた。
特に会話もなく、二人は眠りに就く。
昨日と同じく、リゼルは焚き火の前に、セディオスは部屋の片隅に。
それが二人の“信用の距離”だった。焚き火がパチッと小さく弾ける。
それでも、言葉の積み重ねは確かに増えている。
二日目の夜は、静かに更けていく。
次回は、『3月1日(日)13時ごろ』の投稿となります。
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