◆第192話:逃げ惑う紅と蒼◆
長い回廊に、タッ、タッ、タッ――二人分の走音が反射する。
石造りの道。石壁の上部には魔導ランプが均等に点在し、下段には白く淡い紋様が走る。
ランプの光が途切れ、二人の影が伸びては消える。
先は暗黒に飲まれ、見通しが悪かった。
その中を――
蒼の魔装と紅の魔装を纏った少女たちが、影に追われるように駆けていた。
「どういうことなの!」
「分かりませんが、分断されたようです!」
先頭はライナ、少し後方にルゼリア。
いつもの配置で、警戒しつつ暗闇へ向かって走る。
数分前――
炎雷の姉妹は、十字の回廊が交差する場所に立っていた。
広間からの強制転送先は、見かけたことが無い場所。
壁の損壊はこれまで歩んだ回廊に比べれば軽度であった。
ルゼリアとライナは転移早々に異様な気配を感じていた。
四方の回廊から蜘蛛型術具が迫り、直感で逃げ道を選択する。迫りくる蜘蛛型術具は初動らしく数が少なかった。
それらを蹴散らし、今に至る。
背後では、蜘蛛型の術具が群れを成して迫っていた。
サシュ、サシュ、サシュ――と奇妙な摩擦音。
不気味で気持ち悪い足音が二人に向かっていく。
「――ライトニング・スナップ!」
「ぐぅッ!、ライトニング・スナップ!!」
ライナが振り向きざま、掌から電撃と尾を引く稲妻を放つ。
いつも以上に魔力を込めて紫電を掻き散らしていた。
「スカーレット・ニードル!」
「かはッ!」
ルゼリアは、《焔晶フレア・クリスタリア》を十の『飛晶』形態にして炎矢を一斉発射する。
魔核に襲う痛みを我慢し、迎撃を図っていた。
「ぐっ……胸が痛い……」
「はぁ、はぁ……魔核が……」
ライナとルゼリアは痛みに歯を食いしばりながら迎撃を続ける。
放った瞬間、魔核が内側から締め付けられた。
爆ぜた個体が周囲を巻き込み、何体かは共倒れした。
胸元を押さえ、痛みを我慢する。
「やはり、魔法に制限がかかっていますね……」
「わけわかんないよ……」
ルゼリアは推測を立て、ライナは嘆いていた。
「壁に刻まれている文様――魔法陣を紋章化した“魔封じ”に近い効果でしょうね」
ルゼリアは恨めしげに、白く光る壁の模様を睨む。
「じゃあ、壊せばいいんだね!」
ルゼリアの回答に、ライナは破壊を提案した。
走る先を見るルゼリアはため息をつく。
「それが……同じ内容が繰り返し刻まれているので、多少破壊したところでは………」
壁沿いに淡い光の紋様は途切れなく続いていた。
一部を破壊したところで効果はなさそうだった。
「えぇ~、そうなの?」
がっかりするライナ。
「名案だと思ったのに……」
荒い息のまま、走りながら打開策を交わす二人。
だが背後のサシュ、サシュという不気味な音は途切れない。
「セディオスもいないし、どうしよう……」
「まずは隠れる場所を。――そこ、左へ!」
「分かった!」
ライナが床を強く蹴り、角を切る。すぐ後ろにルゼリアがついてく。
「あ、扉がある!」
「助かりました。入ります!」
勢いのまま押し開け、二人は飛び込む。
すぐに周辺の機材や瓦礫を寄せ、扉を押さえた。
ルゼリアが室内をぐるりと見渡す。
「……大丈夫そうですね」
ドンッ!ドンッ!ガンッ!ガンッ!と鈍い衝撃が扉を叩く。
蜘蛛型術具は追い付き、開かぬ扉を叩き続ける。
やがて諦めたように叩く音が減り、立ち去って行った。
「なんとか……やり過ごせた、かな……」
ライナが肩で息をしながら呟く。
扉を押さえ、警戒は続けていた。
徐々に扉への打撃音が減っていく。
やがて諦めたように立ち去って行った。
安全地帯のようで、ルゼリアは目端に入っていた本棚を確認する。
「ここは……書庫でしょうか?」
棚に整然と並ぶ本の背に、ルゼリアの目が吸い寄せられる。
「……素晴らしい……!」
赤い瞳がきらきらと輝く。
魔法書が大好きなルゼリア、もちろん普通の書籍にも興味が尽きなかった。
「リ、リア姉……」
ライナは呆れ、そして少し安堵の笑みをこぼした。
紅と蒼の姉妹は、息を揃え、探索を続ける。
研究資料の回収という依頼の完遂だけではなく、セディオスとの合流も追加となった。
蜘蛛型術具が闊歩する研究所、困難はまだまだ続く。




