◆第1話:メイドの日課◆
混沌とする世界において、とある少女は、ある日突然姿を消した。
威風堂々、常に誇り高く振る舞っていた少女―― その行方を知る者は………
そして今、彼女は一軒の静かな館で、メイド?として給仕に励んでいた。
「ふふ……今日も我が主のために、完璧な朝を演出しようではないか」
白レースのエプロンを整え、妖艶な微笑みを浮かべながら、エクリナは静かに朝食を作り始める。
「今日はどうしようか……目玉焼きに農園でとれた野菜のスープ、焼き立てのパンは基本として、もう少し何か欲しいな……塩漬けの豚でも少し焼くか」
指先まで神経を通すその姿は、まさに優雅な貴婦人のごとく。
朝食の準備を終え、エクリナは主であるセディオスの部屋へ向かう。ノックの音も、さながら音楽のように響いた。
「……お目覚めの時間であるぞ、セディオス。我の心を込めた朝食できたぞ」
甘く低い声に包まれ、セディオスは目を細める。そこにいるのは、銀髪で碧眼の美しい可憐な少女だ。
「ああ、今起きるよ」と笑顔で返した。
食後、エクリナは静かに食器を下げ、日課の掃除や整頓を一糸乱れぬ所作でこなしていく。まるでひとつひとつの動作が“芸術”であるかのように。
時間は過ぎて、午後三時。陽の光がやや傾き、窓から差し込む柔らかな光が紅茶の表面をきらめかせていた。
「ふふん、今日のティータイムはルフナと決めていたのだ。セディオスの好みに、完璧に合わせてみせよう」
エクリナはポットやティーカップ、食器を準備しながら静かに笑みを浮かべる。ポットの口より漏れる香りは華やかで、どこか甘く、妖しい。
テーブルクロスの上には、彼女自ら焼いたスコーンとサンドウィッチ。 その隣に、セディオスの好物である蜂蜜入りのケーキを添えて――
「……さて、セディオスを呼んでくるか!」
そう口にした瞬間、ふっと微かな気配が揺れる。
――またか。
「申し訳ない、セディオス……紅茶が少し冷めてしまうかもしれぬ」と独り言を言い嘆息した。
館の裏手――木漏れ日揺れる木々の間。 そこに佇んでいたのは、黒ずくめの装束をまとった男。
「賊め――我らの営みの邪魔はさせぬぞ」
エクリナは手をかざす、その動きに騒々しさは一切ない。
静かに魔法陣が展開されると同時に、重力を歪ませるような圧が男にのしかかる。
「我が暗黒、囁くが如く――黙して消えよ」
指先を軽く振るだけで、黒い影が男を包み込み、その存在を掻き消した。わずかに風が揺れ、鳥が一声啼いたが、それ以外には何も起きなかった。
「……ふん」
数分後。
「セディオス、少し遅れてしまった申し訳ない……今日はセディオスの好物を用意しているぞ♪」
ティーカップに音ひとつ立てずに注がれた紅茶は見事で、彼女の所作に美しさを垣間見た。
お茶会が始まる、セディオスとのこの時間を楽しみにしているエクリナは、同席し笑顔で紅茶を飲み語らう。
蜂蜜入りケーキの感想や紅茶との相性など、ごくたわいもないことだ、だがエクリナにとってはとても大事なひと時であった。