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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆第186話:馬車に揺られて◆

三日後、工匠ガンゴ堂の居間。

遺跡都市エル・クラウゼへの出発の支度が整った。


《焔晶フレア・クリスタリア》と《魔斧グランヴォルテクス》。

ルゼリアとライナの歴戦の主要戦具の修繕は、いずれも完了していた。


「いやぁ……神造の戦具は凄い構成だった。人がまだ辿り着けておらん境地が、随所に混じっておったわ」

感心しきりに仕上げを確認するガンゴ。


「師匠の目から見ても、珍しいですよね」

隣のティセラが笑う。

「実に、良い経験になった」

ガンゴは満足げに頷いた。


「セディオス、忘れ物は無いか? 我が作った弁当を三人とも持っておるな?」


エクリナは旅に出るセディオスらに声を掛け、忘れ物チェックを行っていた。

ちゃんとした旅は久々なうえに、今回は別行動。エクリナは内心不安でしかなかった。

指先だけが、袖の内で小さく震えた。


「ああ、大丈夫だ。エクリナ特製の弁当もしっかり入ってるよ」


セディオスは三人分の荷物を改めて確認していた。

探索では何が起こるかわからないため、それぞれが持つ《次元重層収納ミディア・アーカイヴ》にはすべて同じものを入れていた。

どれかが紛失しても支障を出さないための工夫であった。


「大丈夫だ、ちゃんと帰ってくるよ。再会までは少し時間が掛かる、これで我慢しておくよ」


セディオスはエクリナに近づき、優しく抱きしめる。

エクリナは少し驚いたが、セディオスの逞しい腕と胸に顔をうずめ無事を願った。


「あっ! セディオスずるい!」

ライナがそれを目撃し、指を指して抗議する。

「なっ! 是非私も!」

ルゼリアも次は自分だとばかりにエクリナに寄る。


騒がしい居間に入ってくるティセラ。


「ティセラ、エクリナを頼むぞ。そして、おまえも自分を護れよ」

セディオスはティセラの肩に手を当て、お願いをする。


「もちろんです。けど、私たちの中で一番無茶する人が言うセリフではないですね♪」

ティセラはくすくす笑いながら返す。


二人が笑い合っていると――

セディオスの背の後ろから、紅蒼の姉妹が両側から出てきてティセラに抱きついた。


「直ぐに戻ってくるからね!」

「王をお願いしますね」

ライナとルゼリアは末妹と離れるのを惜しむ。


「ふふ、二人ともセディオスをお願いしますね! でも無茶しちゃダメですよ?」

ティセラもライナとルゼリアの頭を撫で、一時的とはいえ寂しくなる気持ちを押さえ込んだ。


家族となった日から常に一緒に居た五人。

今は動く時と理解して、少しだけ心に整理を付けていた。


「さて……出発の時間だな。見送ろう」

エクリナが言う。


セディオス、ルゼリア、ライナは、それぞれいつもの装いで外へ向かった。


先頭のセディオスは白金に輝く鎧――刃の走るような稜線が凛としている。

ルゼリアは炎を抱くような赤のジャケット、胸元の留め具が軽やかに鳴った。

ライナは空の色を映す青のスモールマントを翻し、靴先で石畳を軽く鳴らす。


エクリナの合図で外へ出ると、奇妙な“馬車”が待っていた。


「「「なにこれ?」」」


セディオス・ルゼリア・ライナは同時に声を発した。

大きな車輪には板ばね、屋根の四隅に大ぶりの魔晶。

だというのに、馬はいない。先頭には円筒型の“なにか”がくっ付いていた。


「自動馬車ってやつだ、まだまだ試作だがな。ヴァレンシアのところから借りてきた」

自身では製作していないのに、自慢げに言うガンゴが歯を見せる。


「ピピピ……ガガガ――」

「ジュンビ、ハ、デキテマス。オノリ、クダサイ」


円筒の“頭部”がこちらを向いて、喋った。


「しゃ、しゃべった!」

しゃべる術具は初見のセディオスが目を丸くする。


「あ、しゃべるんだ」

「久々に見ましたね」


ライナとルゼリアは見覚えがある。

魔哭神居城や戦場にいた浮遊する球型術具がよぎり、懐かしさが差す。

戦場はよく助けてくれたと思い出していた。


「珍しいだろう。行き先はこいつが連れていく。さぁ、乗れ」


わざわざ扉を開けて、ガンゴが乗車を促す。

扉は引き戸で、通常の馬車で見たことのない頑丈そうな鍵が付いていた。


ライナが先に乗り、ルゼリアが続く。二人とも隣合い、後方の席に座った。

それを見届けたセディオスは、前方の席で向かい合うように座る。

座席は柔らかく、スベスベの手触りだった。


「それじゃ、行ってくる」「行ってまいります」「がんばってくるね!」

三人は扉から見える、エクリナ・ティセラ・ガンゴに声を掛ける。


「うむ、行ってくるがよい」

「皆、気をつけてください!」

エクリナとティセラが手を振る。


三人の着座と別れの挨拶を確認した自動馬車。


「ピー、ピー……ガ――」

突然、引き戸を動かし扉を閉じる。

それだけではなくガチャンッ!と音を鳴らして鍵をかけた。


「「「??」」」

突然の施錠音に驚く、セディオス・ルゼリア・ライナ。


「昔、走行中に扉が開いて客が飛ばされたらしい。安全措置というやつだな」


ガンゴは説明をするが、それが聞こえるのはエクリナとティセラのみ。

自動馬車に乗る三人は、客車の遮音効果で音が届かないらしく、きょとんとしている。

車内でセディオスが窓越しに口形で「何て言った?」と聞き返すが、ガンゴは親指を立てるだけだった。


「まあ、頑張れ」

不安にさせないために笑顔で手を振るガンゴ。


そして――客車背部に取りついている魔導駆動器が本格的に動き出す。

爆発魔法が刻まれた魔晶が脈打ち、管の内壁に刻まれた術式が順に点灯した。

各管を伝って圧縮空気を各部に送り始める。


自動馬車はブロロロと動力が低く唸り、背部の排気管からはパンッ!パンッ!と空気の破裂音が出る。

車輪がギュルルルと地を掻く。回転速度が速く、白い煙が出ていた。


初めて聞く音ばかりで気が気でない三人。

冷や汗をかくライナはルゼリアの手を握り、ルゼリアはそれに応えるように指を組んだ。

セディオスは腕を組み、動くのを静かに待っていた。

だが、自然と出る脚のゆすりが心中を代わりに語っていた。


そして――ゴウッと風を裂いて走り出す。

胃がふわりと浮き、歯がカチリと鳴った。


「うおっ!」「こ、これは!」「わわわ!」


突然の出発、迫りくる重力に思わず声が飛び出す。

三者三様の悲鳴もお構いなしに、自動馬車は“最速”を目指して加速していく。

張り切っている自動馬車は、遺跡都市を目指して疾走していた。


「おお、なかなか速いな」

「面白い機構がいっぱいありましたね!」

後方で、エクリナとティセラは魔導仕掛けの馬車を目で追いながら面白がっている。


「あの速度なら一日で着くだろう。疲れ知らずで、誰かが寝てても問題ない。優秀な術具だ」

「……まぁ、慣れは必要だがな。あの馬車、乗り心地は悪いという噂だ……」


自動馬車は用意したものの、実は乗ったことが無いガンゴ。

すでに遠ざかっていく車輪の跡を見ながら、ひとり呟いていた。


「す、すごい揺れだ……」

「た、耐えるしかないですね……」

「こ、この揺れ、ずっと続くの……」


揺れが強い客車、声を出すのも一苦労だった。

振動の酷さに呻く三人。乗り心地は、お世辞にも良くない。

――次にヴァレンシアに会ったら文句の一つも言ってやる。三人は密かにそう誓った。


けたたましい音を撒き散らしながら、疲れ知らずの馬車は道を食う。

向かうは遺跡都市エル・クラウゼ。

遺跡探索の旅が、いま動き出した。

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