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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第九章:闇に芽吹く信頼

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◆第185話:残像の闘技場◆

遺跡都市エル・クラウゼの遺跡探索に行くことが決まった、セディオス・ルゼリア・ライナの三人。

必要な物を揃えるために、街へ買い出しに出かけていた。

フォルネア魔導戦具祭を終えたばかりだが、既に飾り付けは片づけられ、いつもの街の様相となっていた。


ただし、今年市場の熱情を巻き起こした円形闘技場は少し違っていた。

外壁を見るために人だかりができ、立ち止まる足が増えていた。


通りすがりにみえる光景、街路を挟んだ反対側で三人は立ち止まる。

「「「……」」」


「これは……しばらく続くのか?」とセディオスが渋面で呟く。

「なんか僕らの映像多くない?」と言いつつライナは内心喜んでいた。

「どうやら広告にされたようですね」とルゼリアが淡々と結論づけた。


三人は闘技場の外壁を見上げ、つぶやいていた。外壁には改めて設置された鏡映術具があり、映し出される映像を見ていた。

街路沿いであるため音声までは出されていなかったが、四基が横並びで設置され、すべて違う試合風景が流れていた。


技術都市フォルネアは商人や旅人なども多く行き交う大都市。物珍しさに足を止める人が多く、もはや観光名所になっていた。

戦具祭は年に一回しかないため、良い宣伝になっていた。


「二人ともなるべく目立たないように買い物するぞ」

「あれ、優勝者じゃ――」と誰かの声がして、セディオスは反射で外套を深く引いた。


戦具祭の時よりも更に知名度が上がってしまい、警戒を強めるセディオス。


「ええ、そうですね。これではもはや見世物ですね」

ルゼリアは頷く、周囲を見渡す。

「もみくちゃにされるのは勘弁だよぉ~」

ライナも先日の人波にうんざりしていた。


闘技場前を過ぎ去ろうとする瞬間――

「あら? セディオスさん?」

背後から声を掛けられた。

三人は恐る恐る振り返る。


そこには白髪の長髪を頭上で結い上げ、濃紺のドレスに身を包んでいる気品のある老婆が立っていた。

「やはりそうですわね。ごきげんよう、皆さん」

挨拶をするヴァレンシア。


「おはようございます、ヴァレンシアさん」

「「おはようございます」」

セディオスは頭を下げ、続いてルゼリアとライナも挨拶を交わした。


「あれを、ご覧になりました?」

ヴァレンシアは笑顔で闘技場の鏡映術具を指差す。


「はい……驚きましたね。まさか外壁に設置して宣伝するとは……」

なるべく棘がないように言葉を選ぶセディオス。


しかしそれは見透かされていた。

「ごめんなさいね。領主様の命令でしてね、どうしても多くの人に見てもらいたいと言うので……」

「あの術具の宣伝だけでなく、街自体の宣伝に貢献できたのは嬉しく思ってますわ」

ヴァレンシアはセディオスらを利用したことを謝罪はするものの、商売の一環として効果があるのも説明していた。


「ガンゴのおやっさんには借りがあるので良いですけどね……」

街のためといわれて悪い気がしなくなったセディオスだった。


「それで、探索の準備は進んでいますか?」

本題とばかりにヴァレンシアが切り込んできた。

既に事情を知っており、三人しかいない状況を見て推測していた。


「ご存じでしたか。その通りです」

セディオスの右隣に居たルゼリアが答える。

「久々の長い旅だし、色んな術具が欲しいんだよね?」

ライナは左隣から確認するように二人に聞いた。


それを聞いたヴァレンシアの目が一瞬だけ光ったように見えた。

「やはりそうですわね。そうであれば、あたくしの商会が役に立つと思いますわ!」

笑みは柔らかいのに、そろばんを弾く気配だけが鋭かった。


「戦具祭に出てはいますが、あたくしの商会は基本的に一般家庭用や探索用を中心に工房を運営してますわ。ゆえにお望みの品を提供できる自信があります!」

セディオスらを上客と見定めて、語尾を強めて宣伝するヴァレンシアであった。


あまりの迫力に少しだけ、たじろぐ三人。

「た、確かにそうですね……」

セディオスは勢いに負け、同意してしまった。


「いいのではないですか? 食料も購入が必要ですし、無駄に散策する手間が省けます」

効率重視のルゼリアは提案に乗るべきと進言していた。

「面白いの多かったし、もっと見てみたいなぁ~」

ライナがセディオスにねだるように言う。


「ふふ、お決まりのようですわね。少しは値引きさせて頂きます、では向かいましょう」

ヴァレンシアはセディオスが頷く前に商会への道を案内し始めた。

それに続くルゼリアとライナ。


「まあいいか……」

個人的には見物も兼ねて見て回りたかったセディオスであったが、断り切れなくなっていた。

商売上手な経営者に先導され、一路ヴァレンシア商会へ向かう。


道すがら、セディオスはヴァレンシアに尋ねた。

「ガンゴのおやっさんとは、付き合いが長いんですか?」

観客席の二人のやり取りを見て、実は気になっていた。


「もう随分長いですわね……四十年は軽く超えますわ。昔からあたくしとガンゴはこの街に住んでますからね、ずっと切磋琢磨して街の発展と共に成長しましたわ」

懐かしむように言うヴァレンシア。


「幼馴染ですか……しかし四十年とは長いですね」

思いのほか二人の付き合いが長くてセディオスは驚いていた。


「ガンゴおじさんと恋人なの?」

ライナが横合いからぶっこんで来た。


「!!」

”恋人”という言葉に過敏に反応するヴァレンシア。


何とか取り繕って返答する。

「こほん! そういう関係になりそうになったことはありますわ。ですが……恋仲はあたくしたちには合わないと判断しましたわ」

「ガンゴとは……ずっと魔導術具士として勝負したいのですわ。そう、ずっと……よ」


ヴァレンシアはガンゴとの関係性をはっきりと言う。

その声にはほんの少しだが、寂しさも混じっていた。


「……好敵手ということですか?」

興味を持ったルゼリアが問う。


「昔からそうでしたからね……今更変えられませんわ」

ガンゴとの勝負を繰り返し行ってきたヴァレンシア。

二人はある意味では既に同じ道を歩んでいる、人としての関係性にこだわる理由はなくなっていた。


(好敵手も好意の形……そういうのもあるんですね)

ルゼリアは口に指をあてて思う。


「??……難しい……」

ヴァレンシアの回答に首を傾げるライナ。

「答えて頂いてありがとうございます……」

ルゼリアは礼を言い、人との関係性というものは単純ではないと考えていた。


「ヴァレンシアさん、すみません。不躾な質問ばかりで……」

セディオスは改めて謝罪した。


これまで、家族以外の人とあまり関わってこなかったルゼリアとライナ。

二人の目線で見たヴァレンシアとガンゴの関係性は不思議ではあったが、何か腑に落ちることでもあった。

それを深く知るためにはもっと時間が必要であることも、何となくだが理解していた。


「興味があるのは良いことです。まあ踏み込みすぎは厳禁ですが……」

理解はしつつ、軽くたしなめるヴァレンシアであった。


「ご、ごめんなさい……踏み込みすぎました」

それを聞いて、失礼な質問だったと思い返したライナは謝った。


「ふふ、今回はいいのですよ。つい昔話が出てしまいましたわ」

ヴァレンシアは微笑み許していた。


「さて、商会に到着しましたわ。たくさんのご購入を期待しますわ」

商会に到着し、会話を打ち切った。

ガンゴとの仲を教えた対価に上客としての振る舞いをさりげなく要求していた。


「ははは……お世話になります」

苦笑するセディオス。


ルゼリアとライナは既に入店しており、魔導ランプや火おこしの術具を探し始めていた。

必要なのは魔導ランプと予備魔晶、鉤爪付きの縄、火おこしの道具、着火剤、薪木、毛布などがリストに挙がっていた。

これからの遺跡探索に心を馳せる二人、子供らしい振る舞いに苦慮する剣士。

家族の新たな経験はまだまだ続く。

次回は、『2月12日(木)13時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いします。


本日もお付き合いいただきありがとうございました!

引き続き、評価・ブックマーク・感想で応援いただけると励みになります!


*キャラクター設定集を作り始めました。

https://ncode.syosetu.com/n0327lj/

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