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魔王メイド・エクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第二章:雷と炎が交わる刻

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◆第15話:些細な綻びと爆発寸前◆

翌日、昼下がり――


テラスでは、エクリナが無造作に逆立つ茶色の短髪をした長身の男、セディオスと共に紅茶を楽しんでいた。

セディオスは、無骨な体躯には似合わぬ穏やかな笑みを浮かべていた。

午後のお茶会、それはエクリナの毎日の楽しみであり、二人っきりの大事な時間であった。


庭先でライナが小石を蹴りながら呟く。

「むう……王さま、セディオスと紅茶飲んでる……楽しそうで……僕なんて……」

「僕だって、王さまのそばにいたいのに……いつもセディオスばっかり……」


エクリナが、自分”だけ”に構ってくれていないと思い込む。

シチューが失敗に終わり、ルゼリアの写真集を汚し、最近いいところを全く見せることができていないライナは自信を無くしていた。

それがゆえに、関係のないことすら羨むようになっていた。


(……僕がこの家にいる意味なんて、どこにもないのかな……)

その目には、拗ねたような、それでいて切なげな光が宿っていた。

下を俯き、足元で小石を転がし続ける。


そのとき、背後から静かな声がかかった。

「……ライナ。あなた、昨日から機嫌が悪いですね」

聖域である書庫での一件をエクリナから聞いており、声を掛けずにはいられなかった。


「うっ……べ、別に。関係ないしっ!」


図星を突かれ、苛立ちを見せる。いつものライナなら、「うるさいなぁ」と笑って流していたはずだった。

けれど今日は、棘のような言葉しか口から出てこない。


「……そうですか。では、そういうことにしておきます」

その返事の裏で、ルゼリアの心の奥には、針のような違和感が生まれていた。


(……あの子は、何かを抱えている。それに気づいているのに――ふさわしい言葉が出ない)

喉もとまで出かかった「どうしたのですか」を、ルゼリアはそっと飲み込んだ。


言葉の温度は冷たく、距離は近いのに遠い――その違和感に、ライナの胸がピリついた。

押し黙り、見つめ続けるルゼリア。ただでさえ、エクリナとセディオスのお茶会を見てイライラしている雷娘。

どうしていいのかわからなかった。


その想いに呼応するように、空気がぴり、と帯電した。

草の先が、微かに光を弾く。


「もう、やだっ!! みんな僕のこと、子供扱いして……見てくれないっ!!」


叫びと共に、青髪が逆巻き、バチバチと魔力が暴発する。

ライナの髪先から稲妻が弾け、植え込みの若木がパチンと爆ぜ、紫電が庭を駆け巡る。

庭の草花が黒焦げに変わり、焼けた匂いが漂い始める。


「ライナ、落ち着きなさい!」

ルゼリアは前に出て、片手を突き出した。

魔力を制御できずに暴走を始めるライナを止めるため、ルゼリアは声を張っていた。


(このままでは王の花壇や農園にも被害が出てしまう!そうなればエクリナはライナを叱ってしまう)

ライナが怒られないように被害を最小限にしたいとルゼリアは即座に動いていた。


「やだっ! ルゼリアのくせに、偉そうにしないでよぉっ!!」

ルゼリアが珍しく声を荒げるのをみて、誤った方向に解釈するライナ。


(リア姉も分かってくれない! 僕のことを誰もわかってくれない!!)

焦燥に駆られ、憂いが強くなるライナ。ほとばしる紫電は強さを増す。


騒ぎを聞きつけ、エクリナが駆け寄ってくる。

「たわけ! 何をしておるか! 館の庭を壊す気か、うぬら!」

怒気すら孕んだ声で現れたエクリナは、ルゼリアとライナを睨みつける。


その声に呼応し、ライナの稲妻は収まる。

「わ、王さま……これは、その……」

シュンとするライナは、どう答えていいかわからず口をモゴモゴさせて言いよどむ。


(二人の喧嘩は珍しくはないが、少々やりすぎだな)

言い訳すらできないライナ、ルゼリアは何か言いかけて声に出せない。

不器用な姉妹であった。


「……ふん、後で話を聞いてやる。今は止めぬと、我が紅茶が冷めるではないか」

大事なセディオスとのお茶会を邪魔され、機嫌の悪いエクリナ。


早く戻りたいがために事情を聞くのを後回しにしてしまった。

エクリナの視線が、一瞬だけテラスのティーカップへ戻った。それを隠すように、咳払いを一つした。

いつもなら、即座に、公平に、それぞれに寄り添って話を聞く王は、この時ばかりはそれを放棄してしまった。


「「……っ!?」」

唖然とする炎雷の姉妹。


エクリナは、流儀を優先し去っていく。その背を黙って見送るライナとルゼリア。

二人の胸のうちには、まだ言葉にならないモヤモヤだけが残されていた。


エクリナにとっては、いつもの調子での叱責と軽い冗談まじりの会話にすぎなかった。

だが、今のライナの耳には、まるで“自分より紅茶の方が大事だ”と言われたかのように響いた。


(……紅茶の方が、大事なんだ)

胸の奥が、きゅっと縮むように痛んだ。手を握りしめ、もうどうでもいいと思ってしまった。


こうして――

家族の中にくすぶっていた小さな綻びは、誰も気づかぬまま、静かに、だが確かに“戦い”の火蓋を切って落とした。

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