◆第14話:誕生日と模様替えと猫写真◆
それから数日後――
「リア姉、王様の誕生日プレゼントって決めた? 僕ね、王様のためにすっごい派手なアクセサリーを見つけたんだ!」
リビングでライナが嬉しそうに話しかける。
「私は……アンティークの装飾ティーセットを。エクリナには落ち着きと静寂が似合いますから」
「ええっ!? そんなの全然足りないよ! 王様には、もっとドカーンと派手なのがっ!」
「……ライナ。王であるエクリナに必要なのは“誇り”と“品格”です」
ライナが顔を伏せたその瞬間、ルゼリアはわずかに視線を逸らした。
(この子の熱意を……否定してしまったでしょうか)
「うぅ……っ。うるさいなぁ……。またそれ? いつもいつも、僕のこと子供扱いして……」
ルゼリアは言葉を返さず、ただ静かに紅茶を啜る。
「……何を騒いでおる」
いつの間にか現れていたエクリナが、二人の間に割って入る。
「王様っ、僕ね、プレゼントは派手なのにした方が絶対――」
「両方、受け取るに決まっておろう。大切な家族からのプレゼントなのだぞ?」
「…………」
王様の“公平な言葉”が、なぜかライナの胸にチクリと刺さった。どちらにも優しいのに、なぜか、自分をちゃんと見てくれていないような――そんな気がした。
さらにその夜。
ライナは誰もいない廊下を、ひとり彷徨っていた。
「……僕だって、王様の役に立ちたいのに……」
視線の先には、書庫の扉。
「いつもリア姉ばっかり!そういえば……猫の写真集、王様もじーっと見てたし……」
悔しさと、寂しさが折り交ぜになって、ライナの足が自然と扉に向かって動いた。
「だったら僕だって……王様のために、何かしてやるんだから……っ!」
そうして、ライナはこっそり書庫へと忍び込む。
「うーん……この本棚、もっとスッキリさせた方がいいよね。よーし、リア姉の猫写真集も目立つとこに移動しとこ♪ あ、このページかわい……あっ」
――落ちた。
大切そうに挟まれていたしおりが、ひらひらと床へ。
「……あああ、またやっちゃった……っ」
「何をしておる」
またしても、タイミング悪く通りかかったのはエクリナだった。
「い、いや、その……整理整頓を、ちょっとだけ……」
「ふむ。綺麗にしておけよ。部屋が整うのは良きことであるからな」
「…………」
公平であるはずの言葉。けれど――
(王様は、僕の“気持ち”には、やっぱり気づいてくれないんだ……)
胸の奥に、またひとつ、言いようのない寂しさが積もっていった。




