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魔王メイドエクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第七章:狂信者の夜会

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◆第129話:剣と崇拝の夜――孤閃vs狂信〈後編〉◆

剣を構え直すセディオス。

《魔導充式剣ディスフィルス》の魔晶は交換を終えており、万全の状態だった。


「リゼル、お前はヴァルザに似ているな。冷酷で、残虐だ……」

睨みつけながら、セディオスは静かに告げる。


「ヴァルザ様に似ている! ありがとうございます、敵ながら褒めていただけるとは!」

リゼルは素直に歓喜した。

幻想に抱く『ヴァルザ』は、信仰、崇高、憧憬のすべてを内包した、言わば神にして目標。

その名に近づけたことは、何よりの栄誉だった。


「いやぁ~……ヴァルザ様の手記を何度も読み直し、意図を汲み取った甲斐がありました」

うんうんと頷くリゼルは、見た目だけなら愛らしさすら感じさせる。


「そういえば、お名前なんでしたっけ?」

とってつけたように、思い出した風で尋ねる。


「……セディオスだ」


「セディオス……セディオス……よし、覚えました♪」

その言い方は、まるでお気に入りの玩具に名札を貼るかのようだった。


「貴方、なかなか見どころはありますが――残念です。神の仇は討たねばなりませんので……ねぇ?」

玩具に名を与えた後、壊すことを告げるような声音だった。


「まぁ、いいでしょう。せめて一時くらいは覚えておきたいので――命がけで抗ってください♪」


言い終わると同時に、リゼルの姿が掻き消える。

空間転移――セディオスの背後を取る。


《律創杖剣レギオン・セファル》を槍形態レギオン・ランスに変形させ、連続突きを見舞う。

突きの一打一打が、まるで“神の意志の代行”であるかのように正確で、冷たい。


「本当に、ヴァルザと同じだな……!」

咄嗟に剣で弾き、拮抗する。


「褒めすぎですよ♪ 殺せなくなるじゃないですか? クロノ・アシュータ!」

肉体・反応・思考――全ての速度が増幅される。

高速となった突きが、次々とセディオスを襲う。


「インフェルノ・サンダー・オブリヴィオン!」

セディオスは咆哮と共に、黒炎・紫電・闇の渦を同時に剣へと纏わせた。

振り下ろされた瞬間、光の弧が描かれ、着弾点に闇の渦が生じる。

その中から、爆裂するように雷と黒炎が炸裂――床ごと爆ぜる。


「――クレセント・フォールド」

リゼルは空間転移によって背後に回避すると、圧縮された空間を湾曲刃状に変えて連続突きを重ねる。


反応しきれず、背中を裂かれるセディオス。

「ぐっ、おおおおおっ!」


振り返り、必死に剣で弾く。

「このぉっ!」


リゼルも負けじと柄で受け止め、バックステップで間合いを取る。

戦具はすぐさま大斧形態ヴァスト・ディバイダーへと変形した。


「うん! いい悲鳴です!」

「でも、愛着が湧く前に、そろそろ終わらせましょうかね?」

笑顔のまま、大斧を構え、リゼルは突進する。


「スペイシャル・グラインド!」

リゼルが軽く指を弾くと、セディオスの周囲に薄氷のような空間の“層”が幾重にも出現。

それらが螺旋状に回転し始め、空間そのものが押し潰されていく――“音のない崩壊”が始まった。


「さあ、空間ごと潰れなさい!」

リゼルは跳躍し、巨大な斧を振りかぶって追撃に入る。


《魔導充式剣ディスフィルス》の魔晶が四色に輝いた。


「うおぉぉぉっ――! アストラ・ネメシス!!」

セディオスの咆哮と共に、ディスフィルスの最大魔法剣技が発動。

闇・炎・雷・結界――四属性の力が一斉に剣に集約され、複合魔刃が形成される。


斬撃と共に、空間は断裂し、闇がえぐり、炎が焼き、雷が駆け、結界が護る。

破壊の波が、一斉に巻き起こった。


――何かが、壊れる音がした。


目に見えぬ空間が、轟音と共に、次々と破砕されていく。

爆ぜた空間の断片が、金属片のように周囲を切り裂いて飛び散る。

追撃していたリゼルは辛くも回避する。


「防ぎましたか……では、クロノ・シフト♪」

リゼルが指を鳴らす。


時が、止まった。

セディオスとリゼル――二人だけの静寂な世界。


リゼルはゆっくりと近づき、セディオスの胸元にそっと手を当てる。

「クロノ・リフレイン――」


歯車の幻影が背後に浮かび、セディオスの体に『過去の傷』が青白く浮かび上がる。

それは治癒の反転。癒えたはずの傷を、もう一度『未治癒の状態』へと巻き戻す時間の暴力。

癒やした努力も、耐えた日々も、すべてが“なかったこと”として否定されていく。

瞬間、時間の震えが肉体を包み――『過去の痛み』が一斉に再演される。


時が、動き出した。

音も空間も崩れゆく中――


胸がひきつり、視界がぐらりと揺れた。

その刹那――


ひときわ大きな絶叫が重なる。

「ぐああああああああっ……!!!」

「くっ……がっはああっ!! がああああああっ!!」


セディオスがこれまでに負ったすべての傷が、血飛沫と共に蘇る。

内臓の裂ける痛み、骨が砕けた瞬間の衝撃、焼かれ、穿たれた感覚――

そのすべてが、“同時に”再現された。

それは、幾度も死線を越えてきた男にとって、最大の拷問だった。


叫ぶ。

絶叫する。

身体中から血が噴き出し、セディオスは崩れ落ちた。


「んん~んっ! 心地よい絶叫です。ここにヴァルザ様がいたら、きっとお気に召したでしょうね」

まるでオペラを堪能した後のように、リゼルは優雅に語った。


「いい顔です、あなたは誇っていいのですよ?」

「クロノ・リフレインは、これまでに受けた『過去の傷』を、そっくりそのまま再現する時魔法」

「これだけの致命傷――あなたがいかに死線を越えてきたかの証ですから」


リゼルは、玩具に別れを告げるようにセディオスの頬を撫でた。

その瞳には、ほんのわずかな慈しみのようなものすら浮かんでいた。

まるで壊れた玩具に別れを告げる子供のように。

それが、狂信者にとっての“優しさ”だった。


――あまりにも、残虐で、狂気に満ちた優しさだった。


夜会は、静かに終焉を迎えようとしていた。

次回は、『12月7日(日)13時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いしますm(__)m


本日もお付き合いいただきありがとうございました!

引き続き、評価・ブックマーク・感想で応援いただけると励みになります!


*キャラクター設定集を作り始めました。

https://ncode.syosetu.com/n0327lj/

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