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魔王メイドエクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第七章:狂信者の夜会

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◆幕間:狂信者リゼル◆

リゼルが誕生したのは、魔哭神の玉座の裏――

その地下深くにある、ヴァルザの工房であった。

いまではリゼルが拠点とする場所でもある。


リゼルは他の神造生命体と同様、保管術具によって成長を促進されていた。

与えられたのは、最低限の知識。

神への忠誠心。

そして、時と空間の魔法を操る適性。

それが、与えられた“すべて”だった。


胎内のような保管術具の中で漂うリゼルは、時折、ヴァルザの横顔を見ていた。

(あの方が、わたくしの主……)


ヴァルザは一度も、リゼルを直接見ることはなかった。

ただ、付属の映像投射術具を見ては、進捗を確認し、時折小さく頷いていた。

自分に向けられない視線が、なぜか誇らしく、そして寂しかった。

(……喜んでくださっている!)


その様子だけで、リゼルは満たされていた。

自分という存在が、主に必要とされている気がして――嬉しかった。


◇ ◇ ◇


やがて、目覚めの時が来た。

生成液が排出され、術具は開放されていた。


リゼルは辺りを見渡したが、誰もいなかった。

仕方なく装置から降りると、近くにあった階段をのぼる。


ぺたん、ぺたん――。

裸足で水音を鳴らしながら、薄暗い階段を上っていく。


たどり着いたのは、玉座の裏手。

神に会える。そう思い、リゼルは回り込んだ。


しかし――そこには、誰もいなかった。

理解が追いつかず、胸の奥だけがじわりと冷えていった。

荘厳な空気の欠片もない、瓦礫と塵に満ちた玉座の間が広がっていた。


(……あれ?)

胸がきゅう、と縮む。


少女とも少年とも見える、小さな存在が立ち尽くす。

世界にただ一人、取り残されたように。

それは、魔哭神ヴァルザが倒された直後――

エクリナとセディオスによって、玉座が打ち砕かれた数か月後の出来事だった。


「わたくしの主は……いずこへ……?」

その日から、孤独な日々が始まった。


◇ ◇ ◇


ヴァルザの城を歩くリゼル。

適当な布を巻きつけ、寒さをしのぎながら生活を続けていた。


ある日、ひときわ大きな部屋を見つけて入る。

そこは、山積した本と紙の束、乱雑に並ぶ書棚と術具の残骸――

ヴァルザの書斎だった。


「……ここが、主の部屋……」


震える手で本を開く。

紙が擦れる微かな音が、やけに大きく響いた。

机の上に幾つもあった小さな本――『ヴァルザの手記』。

そこには、魔哭神の思想、研究、願いが綴られていた。


「ヴァルザ様の、思い……面白い! こんなに、豊かで、深いなんて!」

貪るように読み、嗤い、理解を深めていくリゼル。

読めば読むほど、心の奥に熱が灯り、同時に何かが削れていく感覚があった。

それは、神を知ることで、少しでも近づこうとする祈りに近かった。


◇ ◇ ◇


ある日、玉座の間で、微かな“何か”を感じた。


「ん……あれは……ま、まさかぁ……!」


確かに感じる。

保管術具にいた頃、ヴァルザから漏れ出ていた魔力波長と、同じ気配を。


「――これに、覚えがある。間違いない、これは……主の“残滓”」

玉座は音を失い、残滓だけが絶対の真理として胸に突き刺さった。

魔力操作を習得したことで、かつては捉えられなかった微細な波長に気づいたのだ。


誰もいない玉座の前に跪く。

リゼルの瞳は、喜びと敬意に満ちていた。


「わたくしの、神。ヴァルザ様――」

「御身の啓示、しかと届きました」

「これが、わたくしが生まれた意味……。必ずや、成し遂げてみせます!」


小さな胸に手をあて、玉座へと誓う。

その誓いは、祝福でも祈りでもなく――呪詛めいた契約だった。


――この日、ひとりの狂信者が生まれた。

神の遺骸を抱き、世界を呪うために。

魔哭神ヴァルザの思想を継ぐ、最後の信徒として。

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