表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王メイドエクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第七章:狂信者の夜会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/124

◆第107話:エクリナの休日―久々のデート―◆

賑やかさと整然さが交じり合う交易都市。

陽光が石畳に反射し、香辛料の匂いが風に乗る。

その大通りを歩く二人。

その姿は、お嬢さまと護衛のようにも見えた。


「いい賑わいだな。ん?見たことない食べ物だな」


「うまそうだな、それを二本くれ」


エクリナが興味を持った串焼きを、セディオスがすぐさま買う。

一瞬、焼けた脂の香りが立ち上り、周囲のざわめきが遠のく。


「はむ。魚か、美味だな」

「これはつまみに良いな」

「酒を飲むにはまだ早いぞ?」

「はは、分かってるよ」


短いやり取りのあと、二人の笑いが混じる。

食べながら歩く二人。

まさに恋人のような二人をじっと見る影があった――――


「いい感じですね」

「おいしそう……」

「あとで買ってみましょう」


ティセラ、ライナ、ルゼリアが隠れながら二人を見ていた。

その手には、ガラス板がはめ込まれた筒を三人とも持っていた。


「この“ぼうえんきょう?”ってすごいね」

「まるで近くにあるように見えますね」

「二人とも警戒心が強いですからね。この“望遠鏡”がないと観察できません」


三人は息を潜め、笑いをこらえる。

驚くライナ、感心するルゼリア、製作者のティセラ――それぞれが囁くように言葉を交わした。


 ◇


雑踏の中を歩く二人。

人波のざわめきと楽師の笛が混ざる。

色とりどりの布地が風に舞い、露店には果物や香辛料、宝石細工が所狭しと並んでいた。


「見よ、あの細工……可憐だな」


エクリナが足を止め、露店の並ぶ通りを眺める。

並んでいたのは、小指ほどの金属細工に青色の宝石を嵌め込んだ髪飾りだった。

陽の光を受け、青がちらりと輝く。


「似合いそうだ」


セディオスが一つを手に取り、光に透かす。


「“ルミナの雫”と呼ばれる装飾品ですね」店主がにこやかに説明する。


「ではこれを頂こう」

「お、おい!」

「こういうのも持っておいた方がいいだろ?」

「そ、そうだな……」


一瞬の沈黙。

素直でない返答に、露店の主は思わず笑みを漏らす。


――その様子を少し離れた路地で見ていた三人。

「今の顔、いいですね♪」


ティセラが小声で言い、望遠鏡のピントを合わせる。

「なかなかお目に掛かれない顔です……!」

ルゼリアは静かに頷いた。

「王様、可愛い!」

ライナは微笑む。


三人の肩が並び、息を合わせるようにため息が漏れた。


 ◇


次に二人が立ち寄ったのは、菓子屋の露店。

焼きたての果実パイの香りが通りに広がる。


「香ばしい匂いだな」


「王様、それ、甘そうだよ!」――とライナの声が聞こえた気がして、思わず苦笑。

慌てて身を隠す三人が居た。


セディオスが小さな包みを二つ買い、ひとつをエクリナへ差し出す。

「どうぞ、甘いものもいいだろ?」

「いい香りだ」


ぱく、と一口。

「……ふむ、悪くない」


わずかに口元が緩み、ほんのり笑みが浮かぶ。


「……お腹空いた……」

「我慢ですよ、ライナ」

「あ、二人が移動しますよ!」


三人の小声が雑踏に混じって消える。

風鈴の音が短く鳴り、通りがまた賑やかさを取り戻した。


 ◇


そのとき――通りの向こうで、粗野な声が響いた。


「おい、そこの嬢ちゃん、いい服着てんなぁ。どこの貴族様だ?」


ゴロツキ風の男二人が、エクリナの前に立ちはだかった。

空気が一瞬で凍る。


セディオスが一歩前に出ようとした瞬間、エクリナが彼を制する。

エクリナがゆっくりと男たちを見る。

その碧眼が、氷のように冷たい光を帯びる。


「う、動くな」


男の背筋に電流のような悪寒が走った。

エクリナが指を軽く鳴らす――「パチン」。


間を置かず、彼らの足元に黒い影が走り、裏路地へと引きずり込む。


「な、なっ……!」

二人は悲鳴を上げる暇もなく、影に包まれて消えた。


数秒後、裏通りから「ドサッ」という鈍い音。

見れば、男たちは静かに気絶して倒れていた。


静寂。

風だけが二人の間を通り抜ける。


「……ふん、折角の時間が台無しになるところだったわ」


袖を整えながら言うエクリナ。

セディオスは苦笑し、肩をすくめる。


「見事な手並みだ。……やっぱり俺より強いな」

「当然だ。我を誰だと思っておる」


ふっと笑みがこぼれる。


――遠くの屋根から、その光景を見守る三人。

「流石です」

「ゴロツキのほうが可哀そうですね」

「王様らしいね♪」


三人は顔を見合わせて苦笑した。

その声も、風に溶けていった。


 ◇


日が傾き、街角は橙色に染まっていた。

人波の少ないベンチに腰掛け、二人は静かに並ぶ。

遠くでは鐘楼が鳴り、白壁が夕陽を受けて輝いていた。


「……静かだな」

「昼の喧騒が嘘のようだ」


セディオスが肩の力を抜く。

エクリナは小さく頷き、膝の上の小物袋を見つめる。

指先が、買った髪飾りをそっと撫でた。


「今日は……楽しかった。たまの二人っきりもいいものだな」

「たまには、デートもいいだろ?」

「……そう、かもしれぬな」


小さな笑みが漏れた。

夕風が二人の髪を撫でていく。


「ありがとう、セディオス。うぬが隣にいてくれると――安心できる」


その言葉に、セディオスは静かに微笑んだ。

短い沈黙。二人の影が、ゆっくりと重なっていく。


相変わらずセディオスとエクリナを離れて観察する三人は、あまり見ない光景にざわついている。


「さて、そろそろ戻るか」

「うむ――」


エクリナは、三人に向けて手招きをした。

とても良い笑顔であった。


「ひぃっ!?」

「バレた!?」

「な、なんで分かったんですか!」


離れた影の中から三人が慌てて飛び出す。

エクリナはため息をつきつつも笑った。


「まったく……家族というものは、油断ならぬな」

セディオスも肩を震わせて笑う。


合流するティセラ・ルゼリア・ライナ。


「せっかくだ、全員そろって夕食にしよう」

「賛成!」

「いいですね!」

「せっかく街に来たんですし、外で食べましょう!」


「うむ、では行くか。……うぬら、今度は許さぬからな?」


笑いながら言うエクリナ。

夕暮れの街路を、五人の笑い声が響く。

橙の光が彼らの背を照らし、長い影を一つに重ねていた。


――こうして、エクリナの休日は、温かな家族の時間のまま終わりを迎えた。

次回は、『11月9日(日)13時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いしますm(__)m


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

評価・ブックマーク・感想をお待ちしてます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ