◆第101話:紅雷交響〈レグナ・インフェルヴォルツ〉◆
◆第15話:焔雷交響〈レグナ・インフェルヴォルツ〉◆
魔哭神の大剣形態《セファル=クレイモア》と激しく剣戟を繰り広げるセディオス。
《魔導充式剣ディスフィルス》の魔晶は最低限に留め、自身の魔力によって身体強化を施し、果敢に肉薄する。
対するヴァルザは、どこか余裕のある手応えでその剣戟を受け止めていた。
本気を出せば、戦いなど一瞬で終わる。
だが彼にとっては、相手の限界を引き出し、最高潮に達したところで叩き潰すことが何よりの愉悦。
そのため、常に“全力を決して出さない”ことを流儀としていた。
「すべて見透かされている気分だっ!」
セディオスは苛立ちと焦燥を押し殺し、戦技〈フェイト・スラッシュ〉を放つ。
続けて奥義〈テンペスト・ブレード〉へと連携するが――
その連撃すらも、ヴァルザの大剣がことごとく受け流す。
「剣は不得手だが……もっと速くていいぞ?」
嘲るような声音。神と人との力の差を見せつけるかのように。
(……やはり、高出力の魔法でなければ致命打は与えられない。しかも、やつの虚を突く必要がある……)
セディオスは、己の限界を意識しつつもヴァルザの注意を引きつけることに集中する。
一方その頃――
ライナとルゼリアは、背合わせで最後の魔力を集中させていた。
「リア姉、やるよ……!」
「雷鳴よ、我が腕に集え。天を裂くは蒼き殛槍――」
ライナが左手を掲げる。腕に沿って符光が走り、空気が帯電する。
紫電が脈打ち、石床の砂粒がふわりと浮いた。
「紅蓮よ、我が心に燃え上がれ。炎輪の奔流、いま咆哮せよ――」
ルゼリアの右手から静かな火が流れ出す。
やがて炎輪が花弁のように重なり、紅の光が空間の色相を塗り替えた。
「大気の律動を貫き、沈黙すら焦がす電の刃となれ!」
ライナの掌で骨が軋む。痺れは肘、肩、胸へ——それでも顎は上がらない。
呼吸を刻み、詠唱を繋ぐ。
「灰燼の舞を纏い、すべてを包み焼く灼熱の旋風と成れ!」
ルゼリアの魔装が焦げ、縁が赤熱する。熱は頬を焼くが、双眸は一度も瞬かない。
炎輪の回転が一段、また一段と上がる。
「穿て、虚空の核を――幾重の障壁をも破り、運命の芯を突き穿て!」
「砕け、灰燼の果てまで――いかなる理も、我らの炎雷には抗えぬ!」
雷殛槍は高速回転を始め、紅蓮双輪の出力が極限に達した瞬間、爆裂するように閃光が走る。
(来たか!)
セディオスは、二人の魔力の高まりを察知し、全魔晶を同時に起動。
「――四封、起動! 〈テトラシール・ケイジ〉!!」
《魔導充式剣ディスフィルス》を振るい、足元から四面体の結界を展開しヴァルザを包み込む。
内部では雷が奔り、暗黒の霧が立ち込め、炎の紋章が地に焼き付き――
ヴァルザの動きを一時的に封じ込める。
その瞬間、セディオスは跳び退く。
「「我らが信念で貫き、正義を示せ――ッ! 〈レグナ・インフェルヴォルツ〉!!」」
ルゼリアとライナ、二人の声が重なり、雷と炎の複合極大魔法が放たれた。
雷殛槍は高速回転しながら、紅蓮双輪の魔法陣から射出される。
その軌道は爆発的な推進力を伴い、轟雷の槍となって神の座へと突き進んだ。
ヴァルザは〈テトラシール・ケイジ〉の結界を一瞬で破壊したが――
すでに目前には、炎と雷が融合した“破壊の螺旋”が迫っていた。
「トリプル・インスクリプト、最大出力!」
ヴァルザは、手をかざし三重の結界術式を同時発動。
魔力を限界まで注ぎ込み、幾重もの防壁を展開する。
だが。
雷殛槍は凄まじい音を轟かせながら結界を次々と撃ち砕いていく。
そのたびに多段加速し、爆雷・焼尽・電裂の波が次々と展開される。
「小癪な……この程度……でッ!!」
ヴァルザの焦燥が、初めて言葉に滲む。
最後の結界がひび割れ――
砕けた。
瞬間、爆音と閃光が空間を貫き、神の実験場を襲った。
炎柱が天へと立ち昇り、雷光が地を焼き、破壊の螺旋がすべてを飲み込む。
残されたのは――
“破壊の刻印”のみ。
地平が遅れて震え、追いすがる雷鳴が世界を揺らした。
「セディオス……あとは、任せました……」
「王様を……お願いね……」
二人の声が重なり、光の粒子となって霧散する。
それでも温もりだけが、セディオスの掌に残った。
そして、神の実験場には――
紅雷の閃光を残し、再び静寂が訪れていた。




