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魔王メイドエクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第六章:偽りの楽園、砕かれる朝

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◆第100話:記憶の奥に、折れぬ心を◆

魔哭神が嗤い、戦闘の只中にあっても悠然と構えていた。

セディオスたちはその猛攻に晒され、ルゼリアとライナの魔力も限界を迎えようとしている。


その一方で――


実験場の隅。

光の結界に守られながら、エクリナとティセラが小さな世界を築いていた。


ティセラは穏やかだが真剣な声で語り始めた。

「この“悪夢”の顕現は、魔哭神ヴァルザ……つまり精神世界に投影された彼を倒さなければ、この夢からは目覚められません」


エクリナは、未だ床に伏せたまま、ゆっくりと視線をティセラに向ける。


「おそらくこれは、エクリナの記憶を基に構築された世界。

 それゆえに、ヴァルザはかつての姿よりも、遥かに強く――無敵に近い存在になっています」


ティセラは拳を強く握る。

「私は、エクリナの精神状態がそのまま“敵の強さ”に反映されているのではと考えています。

 つまり――心が傷つき、磨滅するほどに、ヴァルザはより強大になっていく」


「……なるほど。ならば、我が心を強く持てばよいと、そういうことか」

静かにエクリナが呟いた。


だがその瞳は、まだ翳っていた。

(我は……本当に、勝てるのか? 負けると思い込んでいたのか……?

 それとも……皆との日々が“幻”だと、信じ込まされていたせいか……)


エクリナの思考が深く沈んでいく。

心の底で、冷たい水のような絶望が音もなく広がっていた。


かつての誇り高き魔王。

だが、今の彼女はその面影をとどめぬほど、精神を削り取られていた。


ティセラは優しく語りかける。

「大丈夫、少しずつ思い出して。

 エクリナは、孤独の中で立ち上がり、自分で自由を掴んだ。

 そして今、家族と呼べる仲間が、命を懸けて貴女を救おうとしている」


「家族……」

エクリナの口から、かすれた声が漏れた。


その時、ティセラがふと天を見上げる。

結界の外で、無数の光の粒が舞い始めていた。


「……ああ……ルゼリアとライナから……魔力の粒子が……」

ティセラの声音に、焦りが混じる。

「化身として送り込まれた彼女たちの魔力が……限界に近い」


「そうか……皆、まだ……戦っているのか……」


ティセラは静かに頷いた。

「ええ。家族であるエクリナのために」


エクリナの心に、何かが灯り始める。

小さな焔が、闇の底でゆっくりと揺らめく。


「……これが、我の世界……想いの世界……」

「ならば、心が強ければ強いほど、世界もまた強くなれる……」

ここは我の内に在る世界――意志が、法となる。


脳裏に浮かぶ、幾つもの記憶。


セディオスが差し出した手。

ルゼリアの厳しくも暖かい眼差し。

ライナの笑顔と楽しげな声。

そして、ティセラのやさしい手の温もり。


すべてが、たしかに在った。

確かに過ごした、大切な日々――。


「……忘れていた……いや、忘れさせられていたのか……」


エクリナは、膝に手をつき、ゆっくりと起き上がる。

まだ体は万全ではない。だが、その背筋は、かつての気高さを取り戻しつつあった。


「ティセラ、すまなかった。我は……まだ、負けていなかったのだな」


ティセラの目に、うっすらと涙が浮かんだ。

「はい……その通りです。エクリナは、まだ負けていません。

 この世界を形作るのは、貴女自身の意思――その力です」


エクリナは深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

「分かった。我がこの“悪夢”を終わらせよう。……自らの意志で」


その声は、かつての“魔王”の響きを取り戻していた。


闇に沈んでいた意識が、光に向かって歩み始める。

周囲の世界がわずかに震え、崩れていた床に花弁のような光が芽吹く。


(待っていろ、ヴァルザ。お前に与えられた悪夢など、我がすべて払ってやる)


――エクリナは、再び立ち上がる。

空がかすかに鳴り、精神世界は光の色を取り戻し始めた。

次回は、『10月30日(木)20時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いしますm(__)m


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

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