◆第99話:抗いの終端、魔哭神の断罪◆
繰り返される剣劇。
交錯する魔力。
セディオスとライナが猛攻を仕掛け、ルゼリアが新たな極大魔法の詠唱に入る――。
だが、それは阻まれた。
「地が砕ける音、聞いたことがあるか?
大地に背いた貴様に、土が裁きを下す――
〈ガイア・ブリンガー〉ッ!!」
ヴァルザの叫びと共に、大斧形態《ヴァスト=ディバイダー》が振り下ろされる。
極大地属性魔法を宿した一撃。
大地が震え、視界が揺れ、空間そのものが崩れる。
前方に巨大な“断層の縦線”が走り、裂け目から無数の柱状岩塊が噴出した。
隆起した岩の柱が、戦場を滅茶苦茶に切り裂く。
「来るか……〈アストラル・リバース〉ッ!!」
セディオスが咄嗟に《魔導充式剣ディスフィルス》の結界魔晶を起動。
逆位相結界による禁奥義――受けた魔力流を反転させる反撃技。
しかし、それすらも押し切られた。
「くっ……! があっ!」
「うわっ……がッ!」
「うっ……あぁ!」
セディオス、ライナ、ルゼリア――三人の化身が弾き飛ばされ、衝撃波が地を割る。
精神世界の空間が軋み、景色がノイズのように歪んだ。
「ふ、はははははッ……情けないな。もっと吾を愉しませろ」
魔哭神ヴァルザは愉悦の声をあげながら、破壊の余韻に浸る。
その眼差しには、戦士たちを弄ぶ“神”の残酷な好奇心が滲んでいた。
「本当に……いけ好かない奴だ……」
セディオスは地面に片膝をつきながら呟いた。
「だが……強さは、あの時と……変わらない……なら、まだ……抗える」
――倒すためではない。
“あの光”を取り戻すために。
《魔導充式剣ディスフィルス》の魔晶は限界に達していた。
魔力供給量は既に臨界。通常攻撃でさえあと数撃が限界だ。
「セディオス……私たち……そろそろ、限界のようです……」
ルゼリアが静かに言う。
彼女とライナの身体からは、魔力の粒子が零れ落ちていた。
エクリナの精神世界に送り込まれた“魔力の化身”――
それは本体ではなく、彼女の想いに呼応して顕現した存在。
極限の消耗により、輪郭が薄れ、声すらも風に溶けていく。
「最後に一発、ド派手なのをぶち込もうよ、リア姉!」
ライナが気丈に笑い、《魔斧グランヴォルテクス》を雷殛槍刃形態に変形させる。
「……そうですね。私たちにできる“限界”を見せてみましょう」
ルゼリアは《焔晶フレア・クリスタリア》紅蓮双輪形態を構え、
二重の花弁のような魔法陣を回転させた。
「セディオス。時間を稼いでください。――ほんの三十秒で構いません」
「ああ、任せろ……」
言葉は少なかった。だが、決意は揺るがない。
セディオスは《魔導充式剣ディスフィルス》の鍔部を外し、焼け焦げた魔晶を抜き取る。
腰のケースから新たな魔晶付き鍔部を掴み、嵌め込む――淡い光が刃に走り、魔力循環が復帰した。
「……これで、まだ戦える」
一息だけ吐き、セディオスは剣を構え直す。
再びヴァルザへと、真っすぐに歩み出た。
「作戦会議は終わったようだな? さあ、もっと愉しませろ!」
ヴァルザの口元が吊り上がる。
新たな“玩具”の最後の足掻きを、彼はどこまでも愉しもうとしていた。
だが、その空間の端――。
沈黙していた“核”に、微かな光が灯る。
花弁のような光輪が広がり、失われたはずの魔王の気配が、再び息を吹き返していた。




