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魔王メイドエクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第六章:偽りの楽園、砕かれる朝

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◆第98話:閉ざされた檻に、再び灯る灯火◆

魔哭神に対峙するセディオス・ライナ・ルゼリア。

結界が割れ、剣閃が飛び交い、魔法の応酬が激しさを増していた。


その戦場の端に、ボロボロのエクリナと膝枕で寄り添うティセラの姿があった。

ティセラはエクリナの頭を自分の膝に優しく乗せ、額に手を添えて覗き込んでいる。

《スペルドーム・クレイドル》を展開したティセラは、防御結界で周囲を守りつつ治癒魔法を施していた。


純白の結界が花のように咲き、柔らかな光がエクリナの身体を包む。

「エクリナ……お願いです……目を覚まして……」

ティセラは額に触れたまま、震える声で呼びかける。慈しむように、愛おしむように。


「私の結界が……精神干渉にまで配慮できていれば……こんなことには……」

琥珀色の瞳が潤み、悔しさがその頬を濡らす。

すべては自分の責任――ティセラはそう思っていた。


「うっ……うぅぅ……起きてぇ、エクリナぁ……」

その声に、涙があふれ、やがてそれはエクリナの頬にまで伝っていった。


戦場は激しさを増していく。

轟音が空間を揺るがし、気温が一気に上昇する。

ルゼリアが極大炎魔法を放ったのだ――それでも、ヴァルザは倒れなかった。


「早く……早くしなければ……」

ティセラは涙をぬぐい、意識を集中しなおす。

彼女にできるのは、治癒を続けること。それだけ。


だが、次の瞬間――。

大地が震える。

ヴァルザの大斧が地面を叩き、大地魔法が炸裂した。


「きゃっ……!」

セディオスたちが吹き飛ばされ、余波はティセラたちにも及ぶ。

彼女は慌てて結界を展開し、衝撃を緩和する。


そのときだった。


「……ゔっ! うぅ……かはっ、げほっ……!」

エクリナの身体が動き、激しく咳き込みながら血を吐いた。


「エクリナ……!?」

ティセラが目を見開き、彼女を支える。


「あ゛……がっ……はあ、はあ……」

虚ろな碧眼がティセラを見上げる。だが、その目に生気はなかった。


「エクリナぁ! 目覚めたのですね……! 私がわかりますか!?」

喜びと不安の入り混じった声をかける。


「だ……誰だ……? 我は……あったことが……?」

「エ、エクリナ……? 我の名か……? わからぬ……」

「うっ……頭が……ぐあぁぁぁぁっ!」

頭を抱え、絶叫する。


「しっかりして……大丈夫、大丈夫ですから……」

ティセラは頭を撫で、更なる治癒を試みる。

その手に魔力が宿り、淡い光がエクリナを包み込んだ。


光が、暗闇の中に滲む。

沈んでいた意識が、遠い場所から少しずつ浮上していく。


「大丈夫、大丈夫ですから……エクリナは、まだ……負けていません……」

涙をこぼしながら、何度も、何度も言い聞かせるように。


やがて、彼女の絶叫は収まり、呼吸が整っていく。


「……はあ、はあ……あぁ……」

「……思い出した……我が盟友、ティセラ……すまない……今……思い出した」


震える手が伸び、ティセラの頬に触れた。

その指先は、まだ冷たいのに、確かな温もりが戻り始めていた。


「おはようございます……エクリナ……!」

ティセラは彼女の手を握り、嗚咽を漏らす。


エクリナの視線が、戦場の方へ向く。

「……戦っているのは……セディオスたちか……」

記憶を確かめるように、ゆっくりと、思考を巡らせる。


「この状況が……夢……なのか?」


「はい。エクリナは“夢の檻”に囚われ、悪夢を見せられていました。

 でも今は、私たちがあなたの精神世界に干渉して、ここまで来ています」


「そうか……夢じゃなかったんだな……。あの日々……皆との暮らし……自由を勝ち得たあの時間は……」


エクリナの瞳から、再び涙が零れた。

だがそれは、絶望の涙ではなかった。

救いを得た者の、確かな光だった。


「……ティセラ。これから、どうすればいい?」

「簡単で、難しいことです。――もう一度、ヴァルザを倒しましょう」


――絶望の中に、灯された灯火は、消えていなかった。

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