◆第97話:精神世界の戦場にて◆
横たわるエクリナの眼前に、誰かが立ちはだかっていた。
影。否、それは――四人の家族。
セディオス――《魔導充式剣ディスフィルス》を腰に下げ、
闇と結界の双魔晶が鈍く脈動している。
ライナ――《魔斧グランヴォルテクス》を肩に担ぎ、
雷気が周囲の空気を弾けさせた。
ルゼリア――《焔晶フレア・クリスタリア》の双魔晶が背後で回転し、
淡紅の光が髪を照らす。
ティセラ――《浮遊式聖印装置ソリッド=エデン》を展開し、
無数の光輪が花のように重なり、周囲を静かに守護していた。
ここは精神世界。
だが、肌を刺すこの圧力は、現実と変わらない。
地面は光と影が溶け合い、空は紅と蒼がせめぎ合う。
“心”そのものが形を成した世界だった。
「……遅れたか。だが、間に合った……!」
エクリナを一瞥し、静かに言い放つセディオス。
「ふん、玩具が増えたか」
ヴァルザは冷ややかな眼差しを向ける。
「人間だけではなく、廃棄した躯体、逃亡した躯体が並んでいるな。懐かしい顔ぶれだ」
「そうだよ、捨てられた命だった! ヴァルザ! お前が王様をやったのか!!」
ライナの雷声が轟く。
「そうですか……貴方が“根源”ですか」
冷ややかに分析しつつも、奥底に怒りを燃やすルゼリア。
セディオスが前へ出る。
「ここで終わらせるぞ、ヴァルザ。俺たちは、もう……失わない」
「エクリナ……このままじゃ、精神が保たない……!」
ティセラが叫ぶ。
「みんな、時間を稼いでください! エクリナの治癒を行ないます!」
「「「任され(まし)た!」」」
「まずはこれだ、ヴァンクレイヴッ!」
鍔部の魔晶が暗紫と蒼白に交互に明滅し、斬撃が放たれる。
闇と結界魔法を複合した魔刃技が、ヴァルザの結界を削り、魔法式を破砕した。
「吹き飛べ、クロス・ライトニング・カットッ!」
《魔斧グランヴォルテクス》を雷大両刃斧形態に可変。
雷の十字斬撃波を重ねて叩き込む。
結界破壊からの連携攻撃に、ヴァルザが一歩後退。
「小癪な……」
だが、すぐに態勢を立て直す。
そこへルゼリアが畳みかける。
「カルミナ・スピラ!」
螺旋状に編まれた炎が渦を巻き、ヴァルザを包み込む。
「炎に飲み込まれなさい……!」
だが直後、渦を切り裂きながらヴァルザが姿を現す。
大斧形態《ヴァスト=ディバイダー》を携え、焦げ跡を纏いながら。
「もう少し魔力を練り上げた方が良いぞ?」
言い終わるよりも早く、次の攻撃が迫る。
「《サンダー・スパイラル・ブレイク》ッ!!」
雷を帯びた斧が回転投擲され、螺旋状の雷撃を纏い突き進む。
「打ち合ってやろう、ヴォル=グランディア!」
ヴァルザは大斧に大地・闇・重力を付与し、一撃で雷斧を弾き返した。
隙を突いて、セディオスが踏み込む。
「アスヘルトヴァイン!」
《魔導充式剣ディスフィルス》の炎魔晶が閃き、燃焼拡散と耐久崩壊を付与した斬撃が走る。
「ぐッ……」
張り直した結界がひび割れ、崩れかける。
その間に、ルゼリアの詠唱が完了していた。
「――聖き空に、偽りの楽園など要らぬ。
焦がし尽くせ、星の焔よ。天の階より顕現せよ、罪を数えし紅蓮の鉄槌。
救いも許しもない、この焔こそが裁き……
《セレスティアル・ヴォルカニクス》ッ!」
空中に巨大な魔法陣が展開される。
紅蓮の“熾火の群星”が空を裂き、降り注いだ。
戦場を火海へと変える紅の奔流。
それは、天が流す涙のようでもあった。
だが――。
《律創杖剣レギオン・セファル》を地に突き立て、ヴァルザは多層の障壁を展開する。
大地、氷、結界。三重の防護が輝き、灼星を相殺した。
「ふむ……波状攻撃を受けるのは久々だな。悪くない」
「渾身の一撃でしたが……効かないとは」
《焔晶フレア・クリスタリア》の紅蓮双輪形態を構え直すルゼリア。
「斬撃も魔法も効かないなんて、卑怯だよぉ……!」
ライナが《魔斧グランヴォルテクス》を握り直す。
セディオスは静かに言った。
「二人とも、もう少し時間を稼ぐぞ」
そして、再びヴァルザに向かって走り出す。
空は燃え、空間は歪み、戦場は崩壊寸前。
だが、魔王の覚醒には――まだ時間が必要だった。
次回は、『10月26日(日)13時ごろ』の投稿となります。
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