表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王メイドエクリナのセカンドライフ  作者: ひげシェフ
第六章:偽りの楽園、砕かれる朝

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

103/121

◆第94話:絶望の果てに、微かな光◆

今日もまた、石牢に魔導術具の声が響いた。


「実験だ。移送を開始する」


エクリナは疲れ切っていた。

心は極限まで摩耗し、限界を超えていた。

絶望を味わい、死を願っても死ぬことすらできず、終わりの訪れない拷問をただ耐えている。

時の感覚はとうに失われ、世界は灰色に濁っていた。


(……いつまで、この地獄は続くのだ……?)


 ◆


いつもの実験場。

魔哭神ヴァルザが、いつも通りそこにいた。


だが、その手には――《律創杖剣レギオン・セファル》。


普段は座したまま片手で魔法を振るうヴァルザが、魔導戦具を手に取るなど滅多にない。


「今日は趣向を変える。最近、身体を動かしていなくてな。実戦形式でお前と戦ってやろう」


まるで軽い運動でもするかのような声音。

しかし、その瞳は氷のように澄み、エクリナのすべてを見透かしていた。


逃げ場はない――この場で倒すか、砕かれるか。


「さあ、杖を持て」


浮遊する術具が《魔杖アビス・クレイヴ》を差し出し、枷の封印を解除する。


指示通りに杖を握るエクリナ。

磨滅しかけた心、朧な精神のまま、彼女は一つの希望を探した。


(……倒せるかもしれない。この状況であれば……)


「ヴァ、ヴァルザ様……お願いが……ございます。ご、ご主人様を楽しませるために……この身を全快にして頂きたいです」


その言葉は、彼女にとって大きな賭けだった。

ヴァルザと会話を交わすことすら稀な中、しかも憎悪の化身に嘆願などあり得なかった。

それでも希望を持ちたかった。


「んん? “願い”を言うのは初めてか、エクリナ……ふん、意思を持つか」


一瞬だけ怪訝そうな顔を浮かべたヴァルザ。


(やはり駄目か……それなら、それでも……)


――次の瞬間、愉悦に歪んだ。


「面白い! 全快どころか、能力向上も施してやろう!」


嬉々として笑うと、ヴァルザは治癒魔法だけでなく、加護に等しい身体強化・魔法強化を彼女に施す。

治癒魔法の光が全身を満たし、加護に等しい力が骨の髄まで沁みる。

――だが、それは“好機”という名の罠。


そして、まるで心を読んだかのように。

「さあ、向かってこい。エクリナ!」


その号令と共に、彼女は駆け出した。

「シャドウバレット! シャドウグラトニー!」

闇の魔力弾が飛び交い、足元の影が顎のようにヴァルザを喰らわんと伸びる。


ヴァルザはにやりと笑い、〈シャドウグラトニー〉を踏みつぶし無効化した。

「児戯だな」


「穿てッ!」


連続魔弾を一斉射出。視界を覆う闇霧の中、エクリナが突進。

《魔杖アビス・クレイヴ》に魔力を込め、頭上から振り下ろす――だが、結界はひび一つ入らない。


(硬すぎる……空間魔法を併用するしか……!)


「じゃれるにしては弱いな」


杖剣が薙ぎ払われ、衝撃波が走る。


「くッ! ナハト=シンフォニア! スペース・ランスッ!」


飛び退きながら中級魔法を連発――だが、ヴァルザの杖剣は大斧形態《ヴァスト=ディバイダー》へ変形し、一閃で薙ぎ払った。


「今日は脚を使う日だ。せめて主人を一歩動かすくらいはしてみせろ」


彼は本当に一歩も動いていなかった。


「ならば――アブソリュート・レンド!」


空間が裂け、断裂の渦がヴァルザを包み込む。


だが、体内の魔核が悲鳴を上げた。

「ぐっ……魔核が……ッ!」


高位“空間”魔法の発動は、自傷に等しかった。


「ほう……適性の薄い空間魔法をここまで扱うか。実に興味深い」


ヴァルザの大斧が槍形態《レギオン=ランス》へと変化。

「受けてみろ。フェッルム・スパイク!」


金属杭が槍先から展開し、突進。


「ヴォイド・リメンブラント!」


四重の魔法陣を展開して相殺を試みる――しかし防ぎきれず、エクリナの肩に槍が突き刺さった。


「ぐぁぁっ!!」


それでも杖を握り、血の中で詠唱を続ける。

「シャドウ・スティグマ! プレッシャー・ケイジ!」


闇の楔と空間圧迫がヴァルザを包む――。


「見せ場としては上出来だ」


ヴァルザが《アポクリファ・ゼロ》を展開。

神語の結界が、すべての魔法を無へと還した。


「次はこちらの番だ」


杖剣が大剣《セファル=クレイモア》へ変形。

斬撃が十字に交差し、斬り裂く。


「……くッ……!」


視界が赤く染まり、右腕、脚、頭部が裂かれる。

倒れかけた身体を、魔杖にすがって支える。


「まだ……終わって……な……い……!」


「ダークネス・フラクトル……!!」


最後の魔力を振り絞り、闇の分身たちが四方から襲いかかる。


だが――


「終幕だ、エクリナ」


《律創杖剣》から放たれた、極限まで凝縮された空間崩壊魔法。

〈ディスクリエイト・サンクション〉。


空間ごと分身を呑み込み、エクリナの胸を貫いた。


「がっ……は……っ……!」


魔杖が落ち、意識が暗転する。

膝をつき、仰向けに倒れる。


ヴァルザが歩み寄り、見下ろす。


「その程度か……では、瀕死の感情揺らぎでも観察するとしよう」


結界を刃とした杖剣が振り下ろされ――


――カキンッ! ヒュボッ!


杖の一撃を遮ったのは、剣と斧、そして結界。

炎の矢が放たれ、ヴァルザは結界でそれを受け止める。


暗闇に、閃光が走る。


「……遅れたか。だが、間に合った……!」


静かに言い放つ声。

セディオスだった。


「ふん、玩具が増えたか」


ヴァルザの冷笑に、セディオスは剣を構える。


暗闇に閉ざされた世界に――光が、差し込んだ。

次回は、『10月23日(木)20時ごろ』の投稿となります。

引き続きよろしくお願いしますm(__)m


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!

評価・ブックマーク・感想をお待ちしてます!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ