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乙女ゲームに婚約破棄は付きものだというならば  作者: 白井夢子
更なる乙女ゲームの世界とは

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74.婚約者募集中


「ルシールちゃん聞いたよ。婚約者募集してるんだって?俺がルシールちゃんの婚約者になるよ」


勇者レオがピカピカに光るたくさんの丸い物を差し出して、ルシールにプロポーズした。


「レオ様、あの。その光るものはなんですか?」


レオのいきなりのプロポーズも気になるが、もっと気になるのは、差し出されている丸い物だ。


「これ?これ最近出会った新しい魔物の鱗なんだ。綺麗だろう?あげるよ」

「魔物の鱗……」


ちょっと怖い気もするが、血も肉も付いていない鱗はとても綺麗な物だった。

これなら受け取っても大丈夫のような気がする。だけどそれがプロポーズの指輪代わりなら受け取れない。


「とても綺麗ですけど、それは受け取れません。レオ様はノノちゃんの婚約者でしょう?ノノちゃんにあげてください」


「エルにもいっぱいあげたよ。身体から鱗つきの皮を剥いだやつ。こんなに大きいんだぜ」

「こんなに」とレオが両手を広げて、大きさを指し示す。


鱗つきの皮。

――それはとても怖そうだ。

『ノノちゃん大丈夫?』


心配になってエルノノーラに視線を向けると、良い笑顔で応えてくれた。

「それは受け取っておけばいいのですよ」


魔物の角や爪や鱗などは、換金すると大金になる物だ。

勇者レオが初めて会うような魔物の身体ならば、エルノノーラの分も含めて、二人で一生豪遊してもお釣りがくるほどの価値ある物だった。


「え、でもこれプローポーズの贈り物じゃないの?」

「そうだったら、受け取ってから断ればいいのですよ。この国では当たり前の事です」

「え……」


ルシールが戸惑っていると、レオが口を開いた。


「も〜エルは本当に冷たいよな。ルシールちゃん、プロポーズじゃないプレゼントだから受け取ってよ。換金してもいいからさ」


「換金はしませんが……ありがとうございます。これピカピカ光って綺麗ですね。部屋に飾っておこうかな。大事にしますね」

「え!……本当に?じゃあそれ一枚お花の形にしてあげるよ」


レオはルシールに渡した鱗を一枚手に取って、エルノノーラから借りたナイフで鱗を花の形に削ってくれた。

とても柔らかいものを削るようにスイスイと削っていくが、本当はとても硬いものなのだろう。削り落とされた破片が、カツンカツンと床で音を立てている。




出来上がった鱗の花は、かなり精巧な形に彫られた物だった。レオの性格からは想像も出来ないくらいに繊細な仕上がりだ。


「わあ……レオ様、本当に器用ですね!本物のお花みたい!」

パチパチパチとルシールが拍手を送る。


「はい」と手渡された花を、色々な角度から眺めてみたり、光にかざしてみたりする。

彫られた事で、色んな角度からの光を拾い、複雑な色に輝く花になっていた。


「本当にキレイ……。ずっと大事にしますね!」


目を輝かせてお礼を言うルシールに、レオはドキドキしながら尋ねた。


「え……ずっと?もしかしてルシールちゃん、プロポーズ受けてくれるの?」

「違います」


きっちりとルシールは否定する。


「レオ様。「贈り物を換金していい」なんて言ってはダメですよ。悪い人にたかられちゃいます」

「え、そうなの?」


コクリとルシールは頷く。


「利用されてお金だけ騙し取られちゃいますよ。ノノちゃんみたいに、贈り物はちゃんと大事にしてくれる人に渡してください」

「え、でもエルは――」

「大事にしてるに決まってるだろう?違うか?……何か言ってみろ」



『余計な事を言ったら二度と口を聞かないぞ』とエルノノーラは素早くレオに念を送る。

殺気立つまでの念に、『ここでエルがいつも換金所に直行してる事を話したら、婚約解消させられる』とレオは気づいて口を閉じた。

ルシールもエルノノーラも大事なら、ここは黙るべきところだろう。

その自己中心を極めた強さも、レオにとってはエルノノーラの魅力なのだ。






「レオ様、私は婚約者募集はしてないですよ」

「え、そうなの?」

「はい。どうしてそう思ったのですか?」


『何か変な噂が立っているのかしら?』と不安になってレオに尋ねた。


「ルシールちゃんが『聖女』以外の名前を探してるって聞いたからさ。婚約者募集中かと思ったんだけど、違ったんだ。婚約者だったら自信あったのに」


「自信……?」

そんな恋愛要素を、レオとの間に感じたことのないルシールは首をひねる。




「基本的に強い者は人気があるからな。婚約者候補としても勝者になりやすい傾向はあるだろう」


カルヴィンの説明に、『セルフィシュ国らしいわ』とルシールは納得する。


「じゃあレオ様とノノちゃんは、みんなの憧れのカップルなんですね!」


『やっぱり!』とルシールがあまりに嬉しそうに笑うので、『そいつらは例外だ』とカルヴィンには言えない。




「まあ……人気を集めるには、強いだけではなく人格も考慮されるものですが」

「じゃあノノちゃん達はセルフィシュ国を代表するカップルになっちゃいますね!」


ライナートの静かな指摘に、『わあ素敵!』とルシールは目を輝かせる。





レオは、自分達を「憧れ」と言ってくれるルシールに、『ルシールちゃんも好きだ!』と改めて感じる。


「やっぱりルシールちゃんも俺と婚約しよう!勇者引退して、三人でカフェ開いて暮らそうぜ。俺、ルシールちゃんのために、毎日たくさんの鱗を花にしてあげるから」


勇者レオがなんだか可愛いプロポーズをしてくる。

――だけど「三人」だ。


「レオ様……せっかくの良いプロポーズがなんだか残念になってますよ」

「え?どこ?花じゃなくてウサギ?」

「違います」

「鱗じゃなくて、角?」

「違いますよ」

「何だろう?爪かな?……いや骨?」

 

勇者レオの正解への道のりは遠い。




『魔王も倒してないのに勝手に引退を決めるな』とカルヴィンは言いたかったが、ルシールがレオの言葉に全く心が動いていない様子を見て流す事にした。


全く心を動かしはしないようだが、花の形に彫られた鱗は気に入ったのか、ずっと大事に握っている。


それを見て嬉しそうにしている勇者レオを見ながら、『当分の間は鱗付きの魔物の討伐報告が続くだろう』と、レオのこれからの動きを予想していた。





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