48.届いた手紙
『ネネちゃんとフィナン様に手紙を書こう』
そう思いついたタイミングで、ルシール宛の手紙が数通届いた。両親とクレイグから一通ずつ、そしてフィナンからは二通。
フィナンからの手紙が二通も届いたことを不思議に思って、手紙に押された郵便日付を確認すると、一通はずいぶん前に書かれた手紙のようだった。
日付から、ルシールがこちらに来てしばらく経ったくらいの頃と思われる。
もう一通はわりと最近の日付で、他の手紙も気になって日付を見ると、クレイグからの手紙は最初のフィナンと同じ頃で、両親からの手紙はごく最近のものだった。
手渡された手紙の日付を不思議そうに見ていたせいか、カルヴィンが苦笑しながら理由を教えてくれた。
「他国の個人からの手紙など、滅多に届かないからな。ここに届くまでに時間がかかったのだろう。
ルシール嬢の家族はこちらも把握しているから、すぐに届けられたのだが。悪かった」
「あ、いえ。大丈夫ですよ」
さほど気にする事なく、サラリと返事をしたルシールに、カルヴィンが尋ねた。
「そちらの手紙は大事な人達からなのかな?」
「そうですね……。こちらの二通送ってくれた方は友達で、とても親切な方です。そしてこちらの方は、同じ寮部屋の友達の恋人なんですよ。もしかしたら寮の友達の手紙が入っているのかもしれませんね」
「……そうか。部屋でゆっくり手紙を読むといい。急ぎの用事ならまた伝えてくれ」
「今日までカフェはお休みですし、そうしますね。そろそろ友達にも手紙を書こうと思っていたところなんです」
そう話して、ルシールは部屋に下がって手紙を読むことにした。
両親からの手紙は、前にルシールが出した手紙の返事で、『楽しそうに過ごせているなら良かった。周りにいる人も良い人そうで安心だ。討伐の手伝い、しっかり頑張りなさい』という内容だった。
ルシールの両親は、いつでもルシールの考えを尊重してくれて、この討伐の手伝いも応援してくれているようだ。
手紙を読みながら嬉しくて微笑んでしまう。
次にフィナンの一通目の手紙を開けてみる。
手紙の内容はルシールにとって意外な内容だった。
フィナンがルシールの手紙を受け取った数日後、クレイグがネネシーと共にフィナンを尋ねて来たらしい。
フィナンから二人に、ルシールの詳しい事情を伝えたので、ルシールに二人から手紙が届くかもしれない事、そしてフィナンもやはりルシールが心配なので、この手紙を出して二週間経っても返事がなければ、セルフィシュ国へ会いに行くとの事が書かれていた。
『二週間?』
もう一度、手元の手紙の封筒の日付印を確かめると、二週間以上が過ぎている。
『大変。フィナン様にご迷惑をかけてしまうわ。もう少し早く手紙を書けばよかった。もう一通の手紙を読んでから、カルヴィン様に相談しなくちゃ』
焦る思いで、もう一通のフィナンの手紙を開封する。
二通目の手紙には、「何かあったのだろうか」と心配する言葉と、「やはり会いに行く。今日国を出るつもりだ」という事が書かれていた。
手紙は数日前の日付だし、もうこの国に着いていると考えられる。
『急いでクレイグ様の手紙も読まなくちゃ』
少し雑に封を切ってしまうくらい焦って開けた手紙は、ネネシーとクレイグの二人からのものだった。
一緒に手紙を書いてくれたようだ。
手紙には、寮へ迎えに来れなかった事の謝罪と、ミサンダスタン国へ戻れたら連絡がほしい、今度こそ迎えに行くと書かれていた。討伐はすでに終わって、クレイグの領地にはもう危険はないらしい。
そしてゆっくり話したいという言葉も添えられていた。
手紙を読んで、こちらは急を要するものではないと判断する。
『ネネちゃんにはまた今度返事を書くとして、とにかくフィナン様に会えるようにしてもらわなくちゃ』
ルシールに会いに来てくれたからと言って、王城の中に簡単に他国の者を入れてくれるかは分からない。
『カルヴィン王子様に事情を話そう』
ルシールはカルヴィンの執務室に急いで戻る事にした。
ルシールが受け取った四通の手紙を読むために、部屋に戻った頃。
カルヴィンは冷ややかな声で、エルノノーラに言葉をかけていた。
「お前……ルシール嬢宛の手紙をわざとここへ届かないようにしてただろう?他国の個人からの手紙は届きにくいなんて信じてくれるのは、ルシール嬢くらいのものだぞ」
「私のルル様は、ほんっっとうに可愛いですよね」
しみじみとエルノノーラが答える。
『そんな話はしていない』
エルノノーラの答えに、カルヴィンはウンザリする。
この妄想聖女狂いの護衛は、ルシールの気を奪う者を敵認定しているのだろう。
ルシールに居心地の悪い思いをさせていたとする魔法使いカップルの手紙だけでなく、友人の手紙まで届かないように手を回していた。
ミサンダスタン国の者とはいえ、有力貴族のロングスタン家とマクブライト家を蔑ろにしては、後々面倒な事になるかもしれないというのに。
こんな奴だが側近としても優秀なコイツが、それに気づかないはずはない。だけどその可能性に気づきながらも、あらゆる手を使って手紙の阻止を強行したのだろう。
ライナートが静かにエルノノーラに告げる。
「手紙の返事がない事を不審に思ったんでしょうね。二通の手紙の主がこの国に来てるそうですよ」
「……片付けましょうか?」
「そんな事をすれば、二度とルシール嬢に口を聞いてもらえないでしょうね」
――素早くライナートがエルノノーラを抑え込む。
エルノノーラはしばらく黙り込んだあと、諦めたようにはあとため息をつく。
「入国した男は、ルル様が『良くしてた人』と話す者ですから、面会は許しましょう。……だけどあの愛に狂った野郎どもは絶対許さないですからね。
バカップルが私のルル様にどれだけの迷惑をかけてきたか。
本当に愛に狂った野郎ほど迷惑な者はないですよね」
『何故面会の許可をお前が出すんだ』
そう思いながらもカルヴィンは、エルノノーラの言葉には一理あるなと納得する。
「確かに愛に狂った野郎なんて、ルシール嬢には迷惑以外の何ものでもないだろうな」
カルヴィンはそう言って、「そうでしょう」と満足そうに頷いている、ルシールへの愛に狂ったエルノノーラを眺めた。




