49.この国で出会ったフィナン
「フィナン様、ご心配をおかけしてしまってすみません」
「無事会えて良かったよ。元気そうで安心した」
ルシールは、自分のために隣国にまで来てくれたフィナンに、申し訳ない思いで謝った。
『もう少し早く手紙を書いていれば』――そう悔やまれた。
だけどフィナンは、ここに来るまでも苦労があったというのに、以前と変わらず優しい笑顔を向けて応えてくれた。
この国にすでに到着していたフィナンを、無事王城まで来てもらえるよう手配してくれたのはカルヴィンだった。
手紙を読んですぐにカルヴィンに事情を話して、フィナンがこの国に到着していないか調べてもらったのだ。
フィナンはこの国に来てから、色々と足止めを食らう事が多かったようだが、カルヴィンが動いてくれた事で、スムーズにこの王城まで通してもらう事が出来たらしい。
それを聞いてルシールはホッとする。
フィナンはルシールが一人でいる気持ちになっていた時に、唯一気遣ってくれた人だった。
こうしてセルフィシュ国まで来てもらう事自体がすでに迷惑をかけている事だが、これ以上の負担をかけたくはなかった。
カルヴィンの素早い対応に感謝して、ルシールは改めて彼にお礼を伝えた。
ここは王城の応接室で、ルシール達二人の他には、カルヴィンとライナート、そしてエルノノーラとレオがいる。
――いつものメンバーだ。
「……それで討伐協力の方はどうなんだろう。このまま僕と一緒に国に帰れないだろうか」
フィナンが話を切り出した。
その言葉はルシールにかけながらも、カルヴィンや勇者レオを意識したものだった。
カルヴィンが静かな声で応える。
「聖女ルシールのおかげで魔物討伐は順調だ。彼女が力を貸してくれるからこそ、確実に魔王に近づいていけている。
君も騎士なら知っていると思うが、魔王の問題はこの国だけの問題ではない。世界的な問題で、最優先されるべき案件だ。
魔王討伐までは、ルシール嬢にこの国で協力してもらいたいと思っている」
フィナンに応えたカルヴィンの話は、全くの正論だった。その言葉にフィナンは黙るしかない。
ルシールはそんなフィナンを見て、『また心配をかけてしまうわ』と、急いでフィナンに言葉を伝えた。
「フィナン様、私は大丈夫です。討伐協力と言っても、勇者レオ様の剣に浄化魔法を乗せるだけですし、私は安全な場所にいるだけなんです。
やっぱり魔法は微弱なので、剣の魔法は日に何度もかけ直さないと持たないんですけどね。
ここにいる皆さんにも、とても良くしてもらっています。……実はこの国でカフェも開かせてもらったんですよ」
話すルシールをじっとフィナンは見つめる。
微弱な魔法という説明で恥ずかしそうに顔を赤らめたルシールは、以前と変わらないように見えた。
むしろ討伐合宿後からどこか不安定な様子を見せていたルシールは、今は穏やかそうにさえ見える。
『この国で適正を認められて自信を待てたのかもしれない』
フィナンはそう気づく。
「……カフェを開いているのか?ルシール嬢の作るものはどれも美味しいからな。デリクもルシール嬢のお茶を恋しがってるくらいだよ」
「カフェを開いた」という事を話す時、ルシールはとても嬉しそうな顔になった。
「将来お店を開きたい」と話していた夢が叶って、今はとても幸せなのかもしれない。
そこに自分がいれない事を寂しく思うが、フィナンも自分の腕を上げる事で精一杯だった。
ロングスタン家の跡取りとしては、恋よりも優先させなければいけない事があるのだ。
『せめて彼女が今幸せである事を祝おう』
そう考えて、フィナンはルシールに笑顔を見せた。
「実はデリクさんに渡してもらいたいものがありまして。これは今の私の癒しの魔法をたくさん込めた黒豆茶です。
それからこっちは、癒し魔法を乗せた薬草です。大きな葉っぱなので、一回一枚で良さそうですね。腰痛に効くはずです。
それからこれは私のカフェで作っている焼き菓子です。日持ちがするので、すぐに食べなくても大丈夫ですよ。これにも癒やしの魔法を込めています。
それからこれは……」
ルシールは、たくさんの渡して欲しいお土産を並べていく。
三日間の安静期間が終わり、今日からまたカフェ解禁になったので、朝早くからデリクに渡してほしいたくさんのお土産を用意していた。
「すごい量だな。デリクが大喜びするよ」
「今朝早起きして作ったんですよ。デリクさんにずっと会えてなかったですしね。またミサンダスタン国に戻った時は、デリクさんに会いに行ってもいいですか?」
「もちろんだ。いつでも歓迎するよ」
そう言ってフィナンは笑ってくれた。
優しい笑顔を見せてくれるフィナンを見て、ルシールはふと思いつく。
「あの、私の浄化魔法を剣に乗せると、討伐がよく進むとレオ様がいつも言ってくれるのです。よかったらフィナン様の剣にも浄化魔法を乗せましょうか?
……とても微弱なので、数時間しか持たないかもしれませんが……」
話しながら、『数時間しか持たないなんて、そんな意味のない魔法を提案されても困らせるだけなのに』と気づいて、思わずルシールは恥ずかしくて俯いてしまう。
「それはぜひお願いしたいな」
「――はい。ではなるべく長持ちするように、重ねがけしますね」
フィナンの嬉しそうな声の返事にホッとして顔を上げ、預けられた剣に丁寧に浄化魔法を重ねた。
『フィナン様が討伐で怪我をする事がありませんように。よい結果をもたらせてくれますように。親切な彼がずっと幸せでありますように』
そう深く祈りながら光魔法を重ねてゆく。
浄化魔法は、少しずつ長持ちするようになってきている。勇者レオも、日に帰る回数が減ってきている。
何重にもかけたこの魔法であれば、討伐一日分くらいは持ってくれるかもしれない。
近くにいれば、いつでもかける事が出来る魔法だが、今はそれが叶わない。
だからせめて長持ちするよう、いくつもの魔法を重ねていった。
ルシールは、ふうと息をついてフィナンに微笑む。
「長くは持たないと思いますが……お怪我のないように気をつけてくださいね」
そう話しながら、キラキラと繊細な光を纏うフィナンの剣を渡した。
「………ありがとう。ルシール嬢」
フィナンは静かにお礼を伝えてくれた。
フィナンはもう今日にはこの国を経つらしい。
確かにもうすぐ秋休みは終わってしまう。
休み明けの学園の事を、『またカルヴィンに相談しないといけないな』と思いながら、今はフィナンの見送りに集中する事にした。
「クレイグとネネシーも心配していたよ」とフィナンが話していたので、
「秋休みも終わるし、ネネちゃんには学園寮の方に手紙を送った方がいいかしら?」と、そんな雑談をしながらフィナンを見送りに王城の廊下を、皆でぞろぞろと歩いていた。




