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わたしの可愛い悪役令嬢  作者: くん
97/97

97・優しさ

 困った……。



 アイラの誕生日が着々と近付いて来るのにプレゼントが全く決まらない。




 フリージアの件……と言うかワイマールの件はわたし達は関わる事が出来ないので違う事を考えようと思ったら……町へ出た一番の目的が果たされていなかった事に気が付いた。


 今は町へ出る事を禁じられてしまったわたしにはもう自分で何かを買うという選択肢が無くなってしまった。わたしが町へ出てこの間フリージアを狙った男達に会ったら足がつくしね。マレーネさんの言いたい事はわかるのよ。

 でもねぇ……うーん。……どうしよ。



「何唸ってんの?悩み事?」

 わたしの横にいる悩む原因となっている張本人からそんな事を聞かれてしまった。だからって答えられる訳もない。



 わたしもセルシュもマレーネさんに言われた事が頭に引っ掛かっていて何となく落ち着かなかった。なので今日は気晴らしにコートナー家に行こうと予告もなく二人でふらりとやって来た。

 レイラは流石侍女の鑑でそんなわたし達を気にせず招き入れてくれた。本当に有り難い。

 アポなし訪問と言う事もあり、今日は剣の指導もしないで四人でのんびり過ごす事になった。のんびりし過ぎてつい色々考えてしまってアイラに心配されてしまったのは失敗だった。



「悩み事、と言うか、悩んでも仕方がない事と言うか……」

 どう言っていいのかわからずにわたしは曖昧に答えた。

「なんだそれ。またくだらない事考えてんの?」

 アイラはそう言って笑っている。

 いやいや、くだらない事ではないんですよ。ってか、貴女に関する事なのよ。……なんて事は言えないからまぁそうだね、と答えて誤魔化した。


「お嬢、こいつは『欲しいもの』について悩んでんだよ」

「欲しいもの?」

「あっ!こらセルシュ!」

「『欲しいもの』ってのが思いつかないんだってさ。例えばお嬢だったら『欲しいもの』って言われたら何を思い付く?」

 セルシュの発言を止めようと思ったら、なんと援護射撃だったとは!相変わらずの読まれっぷりだけど今回はヨシですよ!

 セルシュに感謝しつつわたしはこっそりアイラの言葉を待った。

「欲しいもの……うーん。なんだろ?」

 そう言ってアイラは腕を組み首を傾げた。まぁ急に言われても困っちゃうか。

「んじゃ、ランディはそう言われたら何が欲しい?」

 アイラの答えを待つ間にランディスにも聞くセルシュの気配りに優しいなぁなんて思った。そんな機転が利くその頭の良さにはいつも驚いてしまう。

「私は今はフルートの手入れの道具が欲しいですね」

「あぁ、そう言えばお前フルートの演奏がうまいんだっけ」

「いえ!うまいなんて烏滸がましいです!ただ好きなだけですよ!」

 ランディスはセルシュの言葉に焦って否定する。あんなに上手なんだから謙遜しなくてもいいのにね。ランディスも色々考えて成長してるって事なのかな。

「俺は聴いた事ないからな……今度聴かせてくれよ」

「本当に聴いていただけますか!?では今聴いて欲しいです!少しお待ち下さいね!」

 ぱぁっと笑顔になり、ランディスは早速準備をするために部屋を出て行った。セルシュはランディスが出て行ったのを確認して、もう一度アイラの方を向いた。

「で?お嬢は何か思い付いたか?」

「う」

「『う』って何だよ?」

「いやあのその……」

 セルシュに突っ込まれて急にアイラはもじもじと顔を赤らめて言葉を濁した。

「何を思い付いたの?」

 その反応がとても気になりわたしも聞いてみた。

「欲しいもの……と言うか、やりたい事が……」

「やりたい事?」

「……バーベキュー」

「なんだそれ?」

 セルシュにはアイラの言葉の意味がわからなかったようで首を傾げた。

「庭でお肉や野菜を焼いて、その場で食べる料理の事だよ」

 この世界でバーベキューなんてあるかどうかわからないけど、わたしはセルシュに簡単にそれを教えた。

「へぇそんなのがあるのか?」

「昔何かの本で見たんだけど、焼きたてのお肉はジューシーで美味しいらしいよ」

 ぼんやりと誤魔化してそう言うと

「おっ!なんだよそれ!すげーいいじゃん!」

 お肉が大好きなセルシュも目を輝かせて食い付いてきた。

「……アイラはがっつりお肉を食べたいって事なのかな?」

 わたしがそう聞くとアイラは顔を真っ赤にしてこくりと頷いた。


 そうだった。アイラもお肉大好きだもんね。

 アイラは貴族のご令嬢だから普段がっつりなんて食べられないでしょうし、バーベキューなんてちょっと憧れちゃうかもしれないなぁ。私もテレビで見て楽しそうだと思っていたもんね。でもあれは準備も色々大変そうだし一人でできるもんじゃないから早々に諦めたもんな。

 折角の希望だしプレゼントは皆でバーベキューなんていいかもしれない。でもまずはレイラにオッケーもらわなきゃね。

 そう思い側にいるレイラをちらりと見ると、にっこりと微笑まれた。……あれ?これはやってもいいって事?それじゃ後でこっそり相談してみようかな。



 そんな事を話していたらランディスがフルートを持って戻って来た。

「セルシュ師匠、お待たせしました」

「おっ!来たな」

 テーブルの上にフルートの入ったケースを置いてランディスはいそいそと準備をし出す。セルシュも楽しみらしく何となくそわそわしながらそれを見ていた。

「では。聴いて下さい」

 そう言ってランディスはフルートを演奏し始めた。


 相変わらず凄く綺麗な音色だなぁ。何度聴いても心地がいい。

 セルシュを見るとわたしと同じように感じているらしく目を閉じてゆったりと聴いていた。



 曲が終わるとセルシュは少し放心状態になっていた。

 わかるよセルシュ!わたしもそうなったもん!

「如何でしたでしょうか、セルシュ師匠」

「お前……すげーな。本当に上手じゃん」

「有り難うございます!」

 驚いたまま言葉を絞り出すセルシュに、ランディスは満面の笑みで答えた。

「でももっと上手くなりたいんです」

 凄いなランディスは。今でもこんなに上手なのにまだ上手くなりたいんだ。ランディスには更に高い目標があるのかな。

「サイモンと約束したんです」

「約束?」

「はい。もっと上手くなって、いつかサイモンの為にホールで演奏会をするんです」

「そうなんだ。素敵な夢だね」

「はい」

 ランディスは少し照れながら告白した。

 わたしは純粋に感心していたが、まだサイモンが苦手なアイラはその話を聞いて微妙な顔をしていた。



「そういえぱランディスはどうやってサイモンと仲良くなったの?」

 あの王宮のパーティーで仲良くなったのは聞いたけど、どうしても二人の共通点がないのよね。その過程に興味が湧いたのは仕方がない。セルシュもアイラもそれが気になっていたみたいで、わたしがその話を振ると身を乗り出してきた。



「えっとですね、パーティーで師匠達に会った後に楽団を見に移動したんです。その近くまで行ったら沢山の人に囲まれているキラキラした人がいたんです。とてもキラキラで華やかで目が離せなかったんです」

「それがサイモンだったのか?」

「はい。でもキラキラしてるのにあまり楽しそうじゃなかったんです。それで気になってずっと見ていたら彼が向こうからこちらに走ってきたんです。『ランディス久しぶり!』って言われて驚いてしまったんですけど、彼はそこから離れる為に私に声を掛けたと言って謝ってくれました」

 あぁそうか、サイモンは肩書きに集まる人は嫌いみたいだもんね。ランディスは丁度いいところにいたのかしら。

 それにしてもサイモンは何でランディスの事を知っていたのだろう。

「それで何をしているのか聞かれたので『楽団を見に来た』と言ったら、サイモンも音楽に興味があったみたいで音楽や楽器の話を沢山しました」

「それでランディスはサイモンにフルートを聴かせる約束をしたの?」

「はい。そうなんです。サイモンは私がフルートを練習してると言ったらあのキラキラした笑顔で『素敵だね』って言ってくれました。私はとても嬉しかったんです」

 ランディスはその時の事を思い出したのか、少し照れながらも嬉しそうな顔をしていた。


「でもお兄様、今度からはちゃんと最初に相手の名前は聞かなきゃダメだからね!」

「うん、そうだねアイラ。気を付けるよ」

 アイラがそう注意するとランディスは素直にそれを受け入れた。

 ちゃんと相手の話も聞くようになったランディスは最近めきめきと成長しているみたい。もう師匠なんていらないんじゃないのかな。


「きっとサイモンは私より爵位の高い方だと思うんです。それでも私を友達として認めてくれるなんて本当に素晴らしい方です」

 ランディスも色々考えているらしく、サイモンの事をぼんやりとだけど自分よりは上の立場だと認識していた。

「でもサイモンにとって本当にそれでいいのか少し心配してしまいます」

 ランディスは少し俯いて済まなそうな顔をする。

 そっか、ランディスは自分の事よりサイモンを心配しているんだ。

 考えてみれば初めて会った時もアイラの為だけにうちに来たんだっけ。元々人を思いやる事が出来るんだからランディスって基本は本当にいい子なんだよね。

 もしかしたらサイモンは最初からランディスのそんな素直な優しいところが好きなのかもしれない。

「あいつは普段から凄くよく人の事を見ているぞ。ランディはその中でもちゃんとあいつに認められているんだから、爵位とか立場とかそんなくだらないもんは気にしなくていいんじゃないか?」

「でも私が友達だという事でサイモンに迷惑を掛けたりしませんか?」

 気にするなと言うセルシュの言葉でもまだ納得が出来ない様で、一番気にしているだろう考えをセルシュに話した。ランディスの考え方は本当に優しい。

「あいつは何でもはっきりした奴だから困る時は困るって言うし、嬉しい時は嬉しいって言うけどな。……その辺はお前の方がわかるんじゃねーの?」

 セルシュにそう言われてランディスは少し考えこんだ。

「そうか……!」

 何かすっきりした様な、納得した様な顔をしてランディスは顔を上げた。

「そうですよね!私が迷惑になる前にサイモンはちゃんと教えてくれますよね。良かった」

「お兄様?何が『良かった』なの?」

 言い回しが何か微妙だな、そう思っていたらアイラも同じように感じたのか、すかさずランディスに問いかけた。

「サイモンは私がいらなくなった時にちゃんと『いらない』って言ってくれると思うんだ。それは私がサイモンの迷惑にならないって事だからね。だから『良かった』って事だよ」

「お兄様……」



 アイラはランディスの考え方に二の句が継げないでいた。これにはアイラだけじゃなく、わたしもセルシュも同様に言葉が出ない。

 ランディスは何でそんな風に考えられるのだろう。ランディスは相手の事を大事にし過ぎて自分の事を顧みる事が無い。それじゃいつか壊れてしまうのでは、とわたしの方が心配になってしまうよ。

「ランディスはもう少し自分の事を大事にした方がいいよ」

「え?」

 思わず出たわたしの言葉にランディスはきょとんとした。

「だってランディスにはランディスのいいところが沢山あるのに、いつも相手の事ばっかりじゃない。本人がそれに気付かないなんて勿体無いよ」

「私のいいところ……ですか?」

「うん」

「ありますか?だって私は師匠達にいつも色々注意されてますしアイラにだってよく怒られてますよ?」

 ランディスは不思議そうに首を傾げていた。わたしはその様子に苦笑してしまう。

「ランディスが怒られるのは考えなしで勢いで動いた時だよね。ちゃんと考えて行動していれば僕達は怒ったりしないよ」

「そうなんですか……。知りませんでした。」

 しみじみとランディスは呟いていた。常に一生懸命なランディスは怒られた記憶しか残っていないのかもしれない。

「最近のランディスはまず考えてから行動する様になったから怒られたりしてないでしょ?」

「そうだな。剣の方も俺のいうと事をちゃんと理解して少しずつ頑張ってるよな。前より筋肉も付いてきてるし、色んな事をちゃんと努力してるところは評価出来るよな」

「あ、ありがとうございます。師匠達にそう言っていただけるなんて思ってもみませんでした!」

 わたし達がそう言うとランディスは驚いて、笑顔になりながらも涙が溢れていた。

「良かったね、お兄様」

 それを見ていたアイラもランディスににっこりと笑顔を向けていた。

「うん……うん」

 ランディスは段々と涙声になりながらアイラの言葉に頷いている。ランディス自身が頑張ってるのをアイラもセルシュもわたしも知っている。ランディスが誰かを大事にする分、わたし達がランディスを大事にしていく事が出来たらいいなと思った。




読んでいただきましてありがとうございます。

更新が本当に久しぶりで申し訳ありません。

皆様よいお年をお迎えください。

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