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第二王子の次男は諸国を巡る  作者: すみませばみを
第四章:竜人の国編
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婿決めの儀式当日

 今日はいよいよ婿決めの儀式の日だ。

 軽く柔軟をしながら体の動きを確認するが修行の疲れも抜けていていい感じだ。

 魔力を体に流しさらに活性させてみる。うんいい感じだな。活性させていた魔力を元の普通の魔力に戻す。


 魔力活性については人によって捉え方が違うが、僕の場合は通常の魔力が無色としたら活性状態の魔力は赤い魔力をイメージすると切り替えがしやすい。

 僕は簡単に切り替えができるから竜神流武闘術の技も使えるし魔法も今までと変わらず使える。

 ゲンゾウ様曰くそんな事が出来る者に出会った事が無いし儂もできないと。

「坊は何か偉業を成す宿命なのかもの~」と感慨深げに言っていたのが印象的だった。



「坊ちゃま、おはようございます。起きてらっしゃいますか?」

「起きてるよどうぞ」

「失礼いたします」

 障子をスッと開け爺やが入ってきた。


「柔軟ですか結構な事です。修行の成果が出ているようで雰囲気が変わりましたね」

「そうかな?」

「はい、以前から強者の雰囲気はありましたが今は落ち着いた重厚な強者の雰囲気に変わりました」

「う~ん、自分ではわからないな」

「自分の雰囲気とは自分ではわからないものです。さぁ朝食を済ませてから会場に参りましょう」



 朝食を済ませると皆と会場に向かう。

「ティム頑張ってください。微力ながら応援しています」

「勝つ……」

「ティム君勝って秘宝を手に入れたら調べさせてね。竜人の秘宝なんて一体何でできているのかしら……ぐふふ」

「坊ちゃまいつもの調子でいけば優勝は間違いないと思います」

「皆ありがとう。それじゃあ早速行ってくるよ」



 まずは本戦に出る為の予選からだ。

 予選は以前やった魔竹通しでふるいにかけられる。

 より魔竹を成長させたものから四人が本戦に出られる仕組みだ。


 会場には四十人ぐらいの竜人がいた。ヒューマンは僕一人のようだな。

 参加条件が竜人であるか竜神流武闘術を使えるかだからな。

 受付で参加申請を行い中に入る。僕の番号は四十番か最後の方だな。

「番号順にこちらに並んでください! 予選は一人ずつ行います!」

 奥に向かって参加者が一列に並んでいる。係員が番号順に列を整理しているようだ。

「十五番の方~十五番の方はいらっしゃいますか~」

 係員が大きな声で十五番の参加者を探している。

 僕は四十番だからあの辺に居ればいいかな。


「十五番はわしじゃ。ところでいつから儀式にヒューマンが参加してよくなったんじゃ?」

 後ろから現れた左目にキズが付いた今まで見た竜人の中でも一際大きい竜人が僕を睨みつけながらそんなことを言った。


 僕が言い返そうとしたとき前からフジマルさんが手を振りながらやってきて、

「ティム殿~! やや、おぬしはイワマル!」

「おう! 兄者ひさしぶりじゃのぉ。ところでいつから儀式にヒューマンが参加していいことになったんじゃ?」

「ふん! おぬしとは縁を切ったんじゃ兄者などと気安く呼ぶでない。それとそちらの御仁はゲンゾウ様に直接竜神流武闘術の手ほどきを受けた御仁じゃ。参加資格は十分じゃ。それよりおぬしは竜神流武闘術を破門された身! よくおめおめと儀式に顔を出せたな」

「わしゃ竜人じゃからの、参加資格は十分じゃ」

「まぁよいわ、拙者が本戦で引導を渡してくれるわ」

「けっへっへ、それは兄者かもしれんよ。ま! 楽しみにしててくれや」

「十五番の方~予選どうぞ~」

「おっとわしじゃ。それじゃの兄者」

「ふん」


「まったく! あやつがまさか婿決めの儀式に参加するとは」

「御兄弟なんですか?」

「いやいや血は繋がっておりませぬが竜神流武闘術の弟弟子でござる。それで拙者の事を兄者と」

「なるほど」


「それにしても破門って何かしたんですか?」

「昔から気性が荒いやつでしてな、素行に問題はござったが竜神流武闘術は精神も鍛えるでござるからちょっとはましになるであろうと看過されていたでござるが、組手で相手に大けがを負わせたりと看過できない事態になったので破門にしたのでござる。しかも破門にされた日に道場で竜化して大暴れしたあと国から消えたでござる。まったく道場で竜化して大暴れするなんてとんでもないやつでござる」


「竜化ですか?」

「ティム殿は知らないでござるか。竜化とはそのまんまの意味で竜人が竜になる事でござる。竜になると理性をなくし大暴れするのが常でござるし、寿命が二十年は縮むから我ら竜人はみな幼いころに竜化無効措置を受けるのでござるが時々竜化無効措置が効かない者がいるでござる。それがイワマルというわけでござる」

「竜化か、初めて聞きました」

「昔に比べて今は竜化できる者も少ないでござるからな。拙者たちも実際に竜化した者を見る事は稀でござる」



「四十番~四十番の方~次どうぞ~」

「僕の番か。フジマルさん行ってきます」

「ティム殿りらっくすでござる。肩に力が入っているでござるぞ」

 そういって肩を軽くトントン叩いてくれた。


 いよいよ僕の番か。

 奥に進むとそこには色々な長さの魔竹がところどころに生えている円形状の会場があった。

 会場の周りには観客席が設けてあり観客の熱気がすごい。正面の豪華な席には女王様やゲンゾウ様それにクニヒコさんや僕の仲間達が座っているのが見えた。


「さぁ~最後の挑戦者です。何と! 儀式始まって以来初めてのヒューマンの参加者です!皆さま盛大な拍手を~!」

「もやしのにーちゃんがんばれー」「キャーイケメン頑張って~」「がんばれ~」

 拍手と共に様々な声援が聞こえる。


「それではお好きな魔竹に魔力を通して下さい~」

 司会者にそう促されどれがいいかと魔竹を眺める。

 周りの魔竹を眺めていると特に大きい二本があった。片方は長いが太さは普通だ。もう片方は長さは長い方ほどではないけれど太いな。フジマルさんとイワマルかな。

「ティム~頑張って~」

「気合……」

「ティム君~ふぁいとーいっぱーつ!」

「坊ちゃまリラックスですぞ~」

 皆の声援が心地いい。


 よしこれに決めた。

 僕が魔竹に魔力を通し始めると歓声が大きくなる。

「ヒューマンの底力みせろやー」「キャーイケメン付き合ってー」「がんばれ~」

 活性した魔力を魔竹に通し始めるとドンドン大きくなり徐々に青々とした魔竹の色が茶色に変わったと思ったら葉が落ちついには枯れてしまった。


 客席から声援は消え魔竹の葉が風に揺らされ、さらさらと音を出しているのがはっきり聞こえるほど静かになった。


 僕が呆然としているとパキパキと枯れた魔竹から音がし割れ目から光る竹が現れ僕の背丈ほど成長してから光る葉を茂らせた。


「ふぉっふぉっふぉ」と愉快そうに笑うゲンゾウ様の笑い声が静まり返った会場に響く。

「素晴らしい! それは魔竹ではなく|光竹じゃ! 儂も実物を見たのは初めてじゃがなんでも竜神流武闘術の開祖が魔竹を光竹に成長させる事が出来たらしい。いやはやまさかこの目で|光竹を見れる日が来るとはな! あっぱれじゃ! 坊よ本戦にすすむがよい!」


 ううわぁぁぁぁーーーーーー。

 その瞬間地響きのような歓声があたりに響き渡った。

「もやしのにーちゃんすげー!」「キャー結婚よ~今すぐ結婚よ~」「すごい!」

 僕は大歓声の観衆に手を振るとその場を後にした。


「いや~お見事でござった」

 フジマルさんがそう言いながら僕を出迎えてくれた。

「なんかうまくいってよかったです。枯れた時はどうしようかと思いました」

「確かに魔竹が枯れるのは見た事が無いでござるから拙者もどうなるかとひやひやしたでござる」

「それにしてもあの長いのがフジマルさんでしょ? さすがですね」

「うむ、思っていたよりは成長しなかったでござるが、本戦には出れると思うでござる」



「予選の結果と本戦の対戦表の発表はこちらです~」

 そんなことを話しているとどうやら予選の結果が出たようだ。

「お! 結果が出たみたいでござるな。さぁティム殿見にいくでござる」

 壁に予選の結果と本戦の対戦表が貼られていた。


 予選を通過したのは僕とフジマルさんイワマルにあとはタケヒコという人で、フジマルさんとイワマルが僕とタケヒコさんが戦ってその勝者同士が決勝で戦うみたいだ。

「拙者はイワマルが対戦相手でござる。どのくらい成長したか楽しみでござるな」

 縁は切ったといっていたがそう言ったフジマルさんは優しい顔をしていた。

「楽しみですか?」

「い、いやそんなことはござらん。こてんぱんにのしてやるでござる」


「と、ところでティム殿の対戦相手はタケヒコでござるな。あやつは拙者が教えている者の中でも一番腕が立つでござる。ティム殿も油断していると危ないかもしれないでござるよ」

 話を逸らすようにタケヒコさんの話題になった。

「それは怖いですね。ですがずっとゲンゾウ様としか修行していなかったので他の人との対戦は楽しみでもありますね」


「ゲンゾウ様に直接指導してもらえるなんてそれはそれで羨ましいような恐ろしいような話でござるな……あの方は加減を知らないでござるからなぁ……」

「確かに……」


 二人してゲンゾウ様との修行の日々を思い出し身震いしていると係の人が会場に行くように促してきた。

「フジマル様ティム様、本戦会場はあちらになります。フジマル様はもうすぐ開始ですのでお急ぎ下さい」

「拙者が先でござるかそれではティム殿決勝でまた会うでござる」

「はい、ご武運を!」

 僕も本戦の会場に向かうことにした。

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