魔竹通し
クニヒコさんを見送った後、フジマルさんの案内で門を抜け奥へ奥へと進む。
「早速でござるがまず最高師範のゲンゾウ様に会っていただくでござる」
「最高師範ですか?」
「そうでござる竜神流武闘術の一番偉い方でござる」
「懐かしいですね。ゲンゾウ様は昔と変わらずお元気なのでしょうか」
「二百歳は超えておられるでござるが今でも現場で指導をしているでござる」
「爺やはゲンゾウ様に会ったことがあるの?」
「私が竜神流武闘術を教わったのがゲンゾウ様でございます」
「そうなのか、すごいな」
「当時はゲンゾウ様が他国の者に直接教えるのはいかがなものかといった風潮もあったでござるが、姫様の恩人でござるし、ゲンゾウ様が直接アルフ殿を見て決めたでござるから皆納得したでござる」
「儂が直接見て決めたんだから文句ある奴は前に出ろ! 儂より教えるのに秀でている奴がいればの話だがな! そう言って皆を納得させたらしいでござる」
最高師範も結構やるな。最高師範にそう言われたら誰も反論できないだろうな。
「ゲンゾウ様には大分お世話になりました。時に厳しく時に優しく指導していただきました。今の私があるのは姫様とゲンゾウ様ののおかげと言っても過言ではございません」
奥へ進むと平屋の大きな建物があった。
城と同じように履物を脱いで案内されるまま廊下を進む。
進んだ先には縁側があり縁側をさらに奥に進む。
縁側の左手は屋外で広場になっており老若男女が組手を行っていたり型の練習や筋力トレーニングをしている者もいる。
右手は屋内の広い道場だが中で修行している人は少ない。
「午前は外で修業する者が多いでござる。午後からは室内の方が多いでござる。朝は涼しいでござるが昼は暑いでござるからな竜人は暑いのが嫌いな者が多いでござる」
「それにしてもここは年齢も男女も関係なく修行しているんですね」
「ここは学校も兼ねているでござる。子供たちは今日は午後から授業があるでござる。午前中が授業の日もあるでござる。拙者が道場に通っていたころは学校が無かったでござるから、拙者はいま子供に混じって勉強しているでござる。拙者以外にも意外と学校で学んでいる大人は多いでござる。他国に行くには試験もあるでござる。通貨の計算ができない者が他国に行って竜人の恥とならないようにとの配慮でござる」
漠然とではあるが確かに竜人は脳筋なイメージはあるな絶対に竜人の前では言えないが……。
「子供に混じって勉強してるなんてなんかいいですね」
「意外に勉強も楽しいでござる。しかし子供たちの方が頭が柔らかいのか子供たちに教えてもらう時もあるでござる」
子供に教わっているフジマルさんか……想像したらなんかかわいいな。
「あの障子の先にゲンゾウ様がいらっしゃるでござる」
城で見た障子よりも豪華な障子が見えた。木の枠の飾りが龍をかたどっている。
「ゲンゾウ様失礼するでござる。ティム殿をお連れしたでござる」
「入っていいぞ」
戸が開くと奥に今までの竜人とは明らかに違う少し大き目でぽっちゃりした竜人がいた。
竜人は筋肉ムキムキの人が多いがこの人は少しぽっちゃりしてるな。
「そちらの坊がティム殿か。初めまして儂が竜神流武闘術最高師範ゲンゾウじゃ」
「グロリオーサ王国の第二王子の次男でティム・カタプレイト・グロリオーサと申します」
「うむ、なかなかいい面構えじゃ」
「ところでアルフ久しぶりじゃの」
「師よ、お久しぶりでございます。相変わらずお元気そうで安心いたしました」
「ふぉっふぉ、若造に心配されるほど耄碌しとらんわい」
「それにしてもアルフよ大分容姿が変わったの。長い黒髪が七三分けの白髪とはな、どこかの出来る執事かと思ったぞ」
「師匠の口も相変わらずですな、今はグロリオーサ王国で執事をしておりますよ」
「そうか、まぁヒューマンであれば二十年経てば容姿も変わるか」
「それでは早速」
そう言ったゲンゾウ様が消え爺やの後ろに腕を振り下ろした状態で現れる。
ゲンゾウ様が振り下ろした腕は爺やに止められ爺やのカウンターで出した突きもゲンゾウ様に腕をつかまれ止められる。
「うむ、腕は鈍っておらんようじゃな」
はやっ! ぽっちゃりしてる人の動きとは思えないほど速い動きだ。
「師匠も相変わらず人をびっくりさせるのが好きですな」
「それが儂のちゃーみんぐぽいんとじゃ」
「さてさて坊よすまんの、久しぶりに弟子の姿を見たら血が騒いでの」
「いえ、いい物を見せていただいた気分です」
「ふぉっふぉっふぉそうかそうか」
「ところで師匠、坊ちゃまに竜神流武闘術をお教えしたいのですが許可をいただけませんか?」
「坊は魔法使いじゃろう? 魔法使いに竜神流武闘術は教えることはできん。おぬしもそれはわかっておるじゃろう」
「せめて魔竹通しを行わせていただいてから考えていただけませんか?」
「アルフ殿横から口を挟むようで申し訳ござらんが、魔法使いに魔竹通しは無駄でござるよ」
「アルフよ、何か思うところがあるのか」
「はい」
「う~む良かろう、坊の魔竹通しを許可する。早速裏に向うとするかの」
「爺や竜神流武闘術を教わるって……教われるなら教わりたいけど。それに魔竹通しって?」
「道場の裏には魔竹と呼ばれる竹がございますが、その魔竹は特殊な方法で魔力を通すと成長するのでございます。昔から竜神流武闘術の腕前の目安として使われている物でございます」
「魔法使いには無駄だって言っていたけど?」
「はい、普通の魔法使いなら無理でしょうが私が内崩爆裂陣をお教えし使えるようになった坊ちゃまならいけるかと」
「内崩爆裂陣?」
「はい、いつもオーガの血抜きに使っている技です。あれ? 坊ちゃまに技の名前はお教えしていなかったですか?」
「初めて聞いたよ」
あのえげつない技そんな物騒な名前だったのか……。
「あの技は竜神流武闘術の魔力の使い方をベースに魔法使いに害が及ばないように開発した技ですので、あれを使えるようになっているという事は魔竹も成長させることができると思います」
建物の裏は山になっており所々に魔竹が生えているのが見える。
「坊よこの魔竹に魔力を通してみるのじゃ」
ゲンゾウ様が指さす先には五センチほどの魔竹があった。
「ゲンゾウ様も人が悪いでござる。魔法使いには魔竹を成長させることはできないでござる。まぁ現実をしっかり見ることも修行になるかもしれぬでござるか」
「フジマル様お言葉ですが坊ちゃまならできると信じております」
なんだか爺やの信頼がつらい……。
僕は意識を集中させて魔竹に触れ魔力を通す。
辺りが静かになり皆が僕と魔竹に集中しているのがわかる。
「止めい」
どのくらいの時間が経っていたのかゲンゾウ様の声でふと我に返る。
「やはり無理だったでござる」
「坊ちゃま内崩爆裂陣を使う時の様に魔力を通してください」
えげつない技かあれを使うときはこんな感じかな……。
魔竹に内崩爆裂陣を使う時の様に魔力を通すと魔竹が徐々に光ってくる。
「ま、まさかそんな! アルフ殿! ティム殿に竜神流武闘術の極意を教えたでござるか!」
「フジマルよ止めるのだ。あれは教えて出来るものではない。魔法使いと竜神流武闘術は相容れぬものなのじゃ」
「ハッ! 確かに魔法使いには使えぬはず……しかしゲンゾウ様、魔竹が光っているでござる」
「うむ、じゃが成長はしていないようじゃ。だが光が止まらんの。通常であれば魔竹に魔力を通せば、魔竹は光り成長し光は収まるが光ったままとはおもしろいのぉ……」
「よかろう! 坊の竜神流武闘術の習得を許可する! 坊とアルフだけ別室に参ろう。フジマルは他の者ををもてなすように」
「承ったでござる。それでは皆様あちらの茶室でおやつにするでござる」
ゲンゾウ様に連れられゲンゾウ様の私室に入る。
「さてと人払いも済んだし、坊も気になっているとは思うがなぜ魔法使いと竜神流武闘術が相容れないか竜神流武闘術の習得を許可したので話そう。竜神流武闘術の極意は魔力活性にあるんじゃ」
「魔力活性ですか?」
「そうじゃ。普通は知られておらんが魔力は活性する事が出来るのじゃ。活性した魔力と武術を融合させたのが竜神流武闘術というわけなんじゃ。ただし一度魔力を活性してしまうと魔力は極端に扱いづらくなり、簡単な魔法しか使えなくなるのじゃ。我ら竜人は元々魔力が少ないから魔法を使えなくても問題はなかったんじゃそれに簡単な魔法ぐらいなら使えるしの。アルフも魔力が少ないヒューマンじゃから教えたんじゃが坊は違うじゃろう、だから教えることはできんと言ったんじゃ」
う~んなんとなくわかるようなわからないような。
「ちょっとわかりにくかったかの? わかりやすく言うと、コップに水を入れたままこぼさない様に早く走ることはできんがコップが空なら早く走ることができるじゃろう。我らのコップには水が入っていないんじゃ。魔法使いのコップには水が入っておる。魔法使いが早く走るにはコップの水を捨てればよいが捨てた水は元に戻らん。じゃが坊はコップの水を凍らせて走ったという訳じゃ。それなら水を捨てなくても早く走れるし時間が経てば水も元に戻る」
「なるほど、僕は爺やとの修行でいつの間にか魔力活性を使っていたのかな」
「正確には魔力活性ではございません。許可をいただける前でしたので詳しくはお話できませんでしたが、魔力を活性させるかさせないかギリギリの技術といった所です」
「失敗したら坊ちゃまの魔法使いの才をつぶしてしまうと思いこれをお教えしていいのか悩みましたが妖精の囁きがございましたのでお教えしました」
妖精の囁きか……。
まぁおかげで竜神流武闘術を教えてもらえることになったから妖精には感謝しないとな。
「妖精の囁きか……。そうじゃ坊も婿決めの儀式に参加したらどうじゃ。今ふっと婿決めの儀式の事が浮かんだんじゃこれも何かの縁かもしれん」
「婿決めの儀式ですか?」
「そうじゃ、あと二週間しかないが女王の婿を決める儀式があるんじゃ。勝ち抜き戦で優勝者が女王と結婚出来るんじゃ。女王に拒否権もあるんじゃが拒否されても竜人族の秘宝が授けられるからそれ目当てで出る者もいる。昔は拒否権もなく厳格な儀式じゃったが、今は厳格さも無くなって娯楽の無い竜人たちのお祭りみたいなもんじゃ」
「本戦に出れるのは四人でその四人を決めるのが魔竹通しなんじゃ。魔竹をより成長させたものから順に四人を決めその四人が勝ち抜き戦で戦うんじゃ」
「本戦では魔法は禁止で魔力の使用は可じゃ。あとは相手を気絶させるか、相手が降参するか審判が止めるまで戦うんじゃ。本戦は竜人好みでシンプルじゃの。今日から本格的に竜神流武闘術の修行をしたら結構いい線行くと思うんじゃ」
「坊ちゃま私も師匠の提案に賛成です。マロン様の忠告もございましたし、裏ギルドが何やら関与しているかもしれません」
「マロンの忠告か、確かに裏ギルドの幹部が何かしてきそうだな」
「わかりました。ゲンゾウ様、僕も婿決めの儀式に参加しようと思います」
「よく言った! 早速じゃが本格的に竜神流武闘術の修行を開始しよう。あまり時間もないしの」
それから二週間はあっという間だったが僕が今まで生きてきた中で特に忘れられない日々となった。
この新しい感覚が目覚める瞬間を味わえる者はそうそういないであろう。
例えるなら下品な話だが精通した時のようなそんな今まで知らなかった新しい感覚。
その新しい感覚を味わう様にこの二週間はあっという間に過ぎた。
「坊よ、よく儂の修行に耐えた。アルフの時もここまで厳しくはしなかった。坊があまりにも簡単にこなすものだから儂も調子に乗ってしまった。まさかこれに耐えられるヒューマンが居るとは……。しかしこれで終わりではないさらに精進するように!」
「ゲンゾウ様! ありがとうございました」
「うむ、儂も久しぶりに楽しかったわ! 婿決めの儀式は明日じゃ今日はしっかり休んで明日に備えるんじゃぞ」
「はい、今日はゆっくり休んで明日に備える事にします」
修行を終えた僕は城に向かい明日の婿決めの儀式に備える事にした。




