竜人の国到着
今日はいよいよ竜人山を登る。この大きな竜人山を三分の一ほど登った先につり橋がありその先に竜人の国があるそうだ。
竜人山を登りながら昨晩マロンが来たことやマロンの忠告を皆に教える。
爺やとマリナはマロンが来たことに気が付いていたようだった。
「タイツ男……」
「害意は無さそうでしたので様子見しておりました」
「裏ギルドが何をしようとしているかは不明だけど気を引き締めて行こう」
山道は意外に整備されており魔法馬車が通るのに十分な幅があるし傾斜も思っていたほどきつくない。
この調子なら早めに着きそうだな。
しばらく山道を登っていくと途中でそのまま進む道と頂上に向かう道に分かれていた。
頂上に向かう道は石段でできていてここからでも相当な段数がある事が窺えた。
「すごいな。竜人達はこの石段を毎日登って修行しているのかな」
「私は無理そうです。登るだけで疲れてしまって修行は出来そうにないです」
「わたしは頭脳派だから肉体労働は無理!」
「確かに二人とも運動は苦手そうだもんな」
「得意……」
「ははは、確かにマリナは得意そうだな」
「今回は頂上に用事は無いから先に進もう」
分かれ道から少し進むと大きなつり橋が見え、その奥には大きな門も見える。
「お! 大きな門だなあれが竜人の国の門か」
「変わった造りの門ですね。紅色でとても綺麗です。門の上に大きな屋根が付いていてお家みたいですね」
「リリアちゃんあれは楼門って呼ばれている造りの門でこの国独自の門よ。竜人たちは紅門って呼んでるみたい」
「紅門ですか~もっと近くで見てみたいですね」
「確かに間近で見てみたいな。その前にあのつり橋を渡らないとな」
「そうですね。結構高そうだから慎重にいかないと」
はやる気持ちを抑えつり橋の元までやってきた。
「つり橋は木製か、結構長いし幅が広いな馬車二台なら余裕で行き来できそうだ」
このつり橋は竜人山と竜人の国をつないでいる唯一の道のようだ。つり橋の下には川が流れているが結構な高さがある。落ちたら……。
ま、まぁ大丈夫とは思うが僕は少し高いのが苦手なんだよな……木製だし大丈夫かな……。
「これはデビルツリー!」
イーナさんが驚いたような声を上げるとつり橋に近づきつり橋をしきりに触っている。
「この縄に板もそうね! けどしかしどうやって……」
イーナさんがつり橋について何やらぶつぶつ言い始めた。
普通の木にしか見えないけどこれデビルツリーなのか。
けどデビルツリーって硬すぎて加工出来ない素材だったはずだけどな……。
「はっはっは、つり橋の材質に気が付くなんてなかなかやるでござるな。たしかにこれはデビルツリーを素材に使ったつり橋でござる」
後ろから声が聞こえたので振り向くと、そこには大きな竜人が楽しそうに笑っていた。
竜人の見た目はヒューマンと変わらないが耳の後ろから鹿のような角が伸びているのですぐに竜人とわかる。
成人の竜人は角を隠せるらしいが、他国に行く時ぐらいしか隠さないらしい。
また女性の竜人はヒューマンと変わらない大きさだが男性の竜人は皆大きく成人だと身長が二百センチ以上あるのが普通だ。
例にもれず後ろの竜人も大きくマッチョである。僕らが驚いた顔で見ていると、
「これは失礼した。拙者はフジマル。竜人の国の武人でござる。朝の修行が終わって家に帰る途中でござったがここらで見かけぬ顔が見えたので声をかけたでござる」
「そうでしたか僕はグロリオーサ王国の第二王子の次男でティム・カタプレイト・グロリオーサと申します。女王様に親書を届ける為にやってまいりました」
「そうでござったか! そういえば先日あやつがそんな事を話していたような気がするでござる。なに拙者大臣と知り合いでな、そいつが先日そんなことを言っていたでござる。ちょうどいい拙者がそやつに取り次ぎいたそう」
「そうですか! 助かりますよろしくお願いします」
そんな挨拶をしていると僕を押しのけてイーナさんがフジマルさんの前に立つ。
「フジマルさん初めましてわたしドワーフのイーナって言います。ところでフジマルさん! つり橋がデビルツリーを素材にしてるってどういう事なんですか? あれはあんなに柔軟に加工できないですよね? 縄にしたり綺麗な板材にしたり。普通はそのまま使うしかないはず! 加工できないんだから。しなやかで伸びがありなおかつ固いし魔法にも強い! そんな素材だから何とか加工できないかと皆が研究してるけど……それが加工されてつり橋に使われているなんて……どういう事なんですか? どうやって加工してるんですか?」
イーナさんが興奮気味にフジマルさんに詰め寄っている。
「はわわわ、拙者も技術屋ではござらんから詳しい加工方法は知らぬし、その技術は秘伝でござるから関係者以外誰も知らないでござる」
「ぐぬぬぬぬぬ……知りたい、しりたい、シリタイ……」
少し興奮してしまったイーナさんをリリアに任せ、僕らはつり橋を渡ることにした。
「僕らの仲間がすみません」
「いやいやドワーフの方々は時々あんな反応する人がいるので気にしてないでござる」
「そう言ってもらえると助かります。ところで馬車でつり橋を渡っても大丈夫なんですか?」
「大丈夫でござるよ。馬車が何十台同時に通っても大丈夫な強度があるでござる」
「すごいな、さすがはデビルツリーだな」
万が一落ちても川だから助かりそうけど川までの高さが十メートル以上あるので怖い。慎重につり橋を渡った。
無事つり橋を渡り切り竜人の国の門の前に来た。
遠くから見た門も綺麗だったが近くで見る門がまたすごい! 全体的が紅く美しく二階建ての建物が門の上に乗っているといった外観で屋根も瓦という建材で作られた曲線が美しい屋根だ。
高さは二十メートル以上はあり目の前に立つとそれだけで迫力に圧倒されてしまう。
「ぬふふ、外から来た人は皆同じ反応をするでござる。これが我らが自慢の紅門でござる。そして竜人の国へようこそ!」
そう言うとフジマルさんが両手を広げ歓迎の意を示した。
「ありがとうございます。ところで門が開きっぱなしですがいつも開いてるんですか?」
「夜は閉めているでござるが、昼間は何かあった時以外は開けっ放しでござる」
「これだけ大きいですからね開け閉めも大変そうですね」
「この門を一人で開け閉め出来て初めて一人前の竜神流武闘術の使い手として認められるでござる」
「この門を一人でですか! すごいな」
門だけでも相当な重さがありそうだけどなこれを一人で開け閉めするのか。さすがは竜人といったところだな。
「ささ、こちらでござる」
フジマルさんに連れられ竜人の国に入る。
竜人の国は傾斜が多く山を切り開いて国を作ったことがよくわかるな。
大通りの先に大きな城が見えるがヒューマンの国やエルフの国などとは違った独特な造りの城だ。
四階建てくらいだろうか先程の瓦で屋根が作られており曲線が相変わらず美しいが一番上の屋根の両端に金色の魚のような像が逆さまに反り返った状態で設置してある。
「あれが我が国自慢の城でござる。美しいでござろう?」
「そうですね屋根の曲線も美しいですが、一番上の屋根の金色の魚のような像は何ですか?」
「あれは金でできた鯱と呼ばれている城の守り神でござる。火事の時に口から水を出し城を守ると言われているでござる」
「金ですか! 豪華ですね。それにあそこから水が出るのか」
「いや、本当に水は出ないでござる。一種の魔よけのような物でござる」
「なるほど魔よけか」
門からすぐそばには商店や住宅などがあるが商店がやけに少ないな。
「意外と商店が少ないんですね」
「今は通貨が使われているでござるが二十年位前までは基本物々交換だったのでござる。姫様が女王に即位した際に学校の導入と通貨の導入を推し進めたでござる。おかげで今はこの小さな硬貨で色々買えるでござる」
そう言うとフジマルさんは硬貨を指ではじき空中でキャッチした。
「物々交換だった名残で食料などは自分達で畑を耕して賄うのが基本でござる。商店には日用品などを買いに来る程度なので店が少ないのでござる。外から訪れる人はドワーフの商人ぐらいなものでござるから外の国にあるような食事処もござらんし宿屋もないでござる」
「外から来た人が泊りたい場合はどうすればいいですか?」
「ティム殿達は城で泊めてもらえるでござるので安心してくだされ、ドワーフの商人などは空いている小屋に泊まってもらっているでござる」
「なるほど。宿泊施設が必要無いほど他国の人が来ないのか」
「竜人の国は辺境にあるでござるからな、門や城は自慢でござるが他に有名な物もござらんし」
さらに進むと建物が少なくなり畑や水田が多くなってきた。
「そういえば竜人の国もコメ文化でしたね。やっぱりコメはいいなぁ」
「コメは力の源でござる。朝のどんぶり飯三杯は欠かせないでござる。夜は一杯でござるが」
「朝から三杯も驚きですが夜はあまり食べないんですか?」
「夜は寝るだけなのであまり食べないでござる」
確かに寝るだけだからあまり食べない方が体の為にはいいのかもな。
「見えてきたでござるあれがわれら自慢の城でござる」
間近で見る城はフジマルさんが自慢するのもわかるぐらい美しく迫力があった。門も大きくこれまた紅く美しい。さすがにこちらの門は町の門とは違い閉まっているが、門の横に出入り用の小さな扉があった。
「フジマルが参った! 扉を開けてくれ」
フジマルさんがそう叫ぶと門の横の小さな扉が開きが中から竜人の兵士が出てくる。
「フジマル様ようこそいらっしゃいました。此度は何用で?」
「姫様に客人をお連れした。クニヒコに取り次いでくれ」
「そちらの方々ですね。かしこまりました客間でお待ちください。クニヒコ様に伝えて参ります」
「頼むでござる。さぁ皆さまいくでござる」
フジマルさんに連れられて僕達は城の中へと入った。




