女王とアルフ
城門横の小さな扉を抜けるとその先は砂利道になっており正面に立派な玄関が見える。玄関の前には勇ましい戦士の像が建てられていた。
「立派な戦士の像ですね」
「この像は二十年ほど前に姫様の危機を救った英雄の像でござる。残念ながら拙者は当時武者修行中でお会いしたことはござらんが、ヒューマンで初めて竜神流武闘術の修得を許された御仁でござる。姫様が是非にとその御仁の像をここに建てたでござる」」
「へぇ、ヒューマンで初めてか」
「今では他種族でも才能と心根が良き者には教える事もあるでござるが、それでも数は少ないでござる」
改めて英雄の像を見上げる。
英雄の像は長髪を後ろでまとめた長身の男性で空に向かって何かを叫んでいるような姿だ。若者といった感じではないな三十代後半から四十代前半位に見える。
「あとでじっくり見る機会もあるでござるから先を急ぐでござる」
この国では玄関で履物を脱ぐのが普通だそうなので僕達も履物を脱いで入る。
「変わった文化ですね」
「外から来た人によく言われるでござるがこればっかりは文化なので従ってもらうしかないでござる」
「いえいえ、悪いとは思いません部屋も汚れないですし、靴を脱いだ解放感はいいですね」
「そう言ってもらえれば幸いでござる。外の人は結構めんどくさがる人が多いでござるから」
「この部屋でしばし待たれよ。今から大臣のクニヒコを呼んでくるでござる」
通された客室は和室という部屋で、畳と呼ばれる床でできた部屋だ。畳も珍しいが扉も障子という木の枠に紙を貼った扉で開き戸ではなく引き戸の扉だ。城のほとんどの部屋はこの和室らしい。
「この畳の匂いは結構いいな。なんだか懐かしい気がする」
「そうですね私も初めて嗅ぐ匂いですが、なんだか懐かしい感じがします」
「リリアもそう思う? それに靴を脱ぐ習慣も意外に開放的で気持ちいいしな」
「そうですね。あまり馴染みが無かったですが、私も国に帰ったらやろうかしら」
「それいいな。僕も自室に靴を脱ぐところを作ろうかな」
扉の向こうから人の気配がする。「失礼します」と声がかかりフジマルさんと共にフジマルさんより少し背の低い口ひげが似合う男性が入ってきた。
「お待たせしまして申し訳ございません。初めましてティム王子、私がこの国の大臣をしておりますクニヒコと申します」
「クニヒコさん初めまして僕はグロリオーサ王国の第二王子の次男ティム・カタプレイト・グロリオーサと申します」
僕の挨拶が終わると、皆も僕と同じようにクニヒコさんと挨拶をしていく。
爺やの番になり、「クニヒコ様、坊ちゃまの執事を務めております爺やと申します」そう言った爺やの顔を見たクニヒコさんが固まる。
「あれ?……爺や様どこかでお会いしたことはありませんか?」
その時、部屋の外から「姫様~お待ちを~」「いいではないか久しぶりの客人じゃ」
何やら騒々しい声が聞こえたと思ったら勢いよく障子が開き長い黒髪の似合う小柄でかわいらしい女性が入ってきた。
「そなたらが客人か! わらわがこの国の女王イブキ・リュウジンじゃ。よくぞ遠路はるばる来た歓迎するぞ!」
女王様がじっくりと僕らの顔を眺め爺やの顔を見た途端、爺やの顔に釘付けになる。
「ア、アルフ!!!」
そう叫んだ女王様が爺やの胸に飛び込む。
「アルフではないか! 少し白髪が増えたけどアルフじゃ!」
「ほっほっほ、昔と容姿がだいぶ変わりましたが、さすがに姫様にはばれてしまいましたか。姫様お久しぶりでございます」
「わらわがアルフの顔を見間違えるはずなかろう? 今まで連絡もよこさずどうしておったんじゃ?」
「竜人の国で過ごし色々と私も考えるところがございまして、今はグロリオーサ王国でお世話になっております」
「グロリオーサ王国か、ヒューマンの国じゃな。そうかそんなところにおったのか。アルフが戻ったと名乗ってくれれば国を挙げて歓迎したのに」
「姫様ならそうなさると思いましたので黙っておりました。私は旅の付き添いですのであまり大事にしたくなかったのです」
「アルフ殿お久しぶりでございます。まさかまたアルフ殿にお会いできるとは……私感激です」
「クニヒコ様お久しぶりです。クニヒコ様はお変わりありませんな」
「竜人はヒューマンより長生きですからね。それにしても真っ黒だった髪も白くなられてあのワイルドな風貌や口調もがらりと変わりましたね。昔は長髪で放浪の武人といった感じでしたが今は七三分けで超出来る執事といった感じです!」
「あれから二十年程経ちましたから私も色々あったのです」
「そうでしたか、でも今のお姿も素敵です!」
「そうじゃな今の姿のアルフも渋いのじゃ!」
「おっと姫様、積もる話もございますが後程ゆっくりお話していただくとして今はこちらの方々のご紹介を」
そう言いクニヒコさんが僕達を紹介してくれる。
「姫様改めましてこちらがグロリオーサ王国の第二王子の次男ティム・カタプレイト・グロリオーサ様です。グロリオーサ王の親書をお持ちくださいました」
紹介と同時に深々とお辞儀をする。
「そうであったか。わらわがリュノール王国の女王イブキ・リュウジンじゃ。姫でも女王でもイブキでも好きに呼べばよい」
「では女王様と呼ばせていただきます。」
「女王か! 皆は姫と呼ぶから新鮮じゃのぉ」
「女王様早速ですがこちらが我が王からの親書になります」
「うむ、それでは早速拝見……返事は明日渡すがよいかの?」
「はい、もちろんです」
「うむ、では滞在中は城に泊まるがよい。あまり観光するところのない国じゃが竜人山の道場でも見学したらどうじゃ」
「見学してもよろしいのですか?」
「昔は秘密じゃったが今は解放されておるのでな、道場内の案内はフジマルにさせよう」
「拙者に任せるでござる! ゴホッ」
フジマルさんが勢いよく胸をたたき咳き込んでいた。
「クックック、フジマルは色々足りないが武術の腕前だけはピカイチじゃから道場の案内には適任じゃろう」
「そうですね色々足りないですが武術の腕前だけは私より上です」
「姫様にクニヒコもひどいでござる~」
「姫様も私もほめているんですよ武術の腕前だけは秀でていると。さてそれでは皆さんお部屋にご案内いたしますね」
「納得できないでござる~」
「それではアルフはわらわと居残りじゃ」
「かしこまりました。それでは坊ちゃま皆さま、また後程」
「ああ、爺やもごゆっくり」
クニヒコさんの案内で今日泊る部屋に案内された。
僕が泊まる部屋はもちろん和室で、グロリオーサ王国ではあまり見かけないような物が飾られている。
変わった感じの鎧とか、竜人達が使う珍しい形の武器なども飾ってある。
この鎧は何でできているんだろう見た感じは木製に見えるが、ひょっとしたらデビルツリーで作られているのかもな。
「ティム様、お食事のご用意ができました」
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。メイドさんの声で目が覚める。
「わかりました」
部屋を出てメイドさんの案内で食堂に向かうと食堂では女王様と爺やが何やら談笑している。
「あっはっは、さすがはアルフじゃ王子の教育係なぞなかなかなれるものではないぞ」
「たまたま運がよかったのでございますよ」
「運が良いだけでは飛び入りの者を王子の教育係にはせんじゃろう」
メイドさんと共に食堂に入る。
「ティム様をお連れ致しました」
「ご苦労じゃった。ティム殿はこちらへ」
女王様に隣の席に座るように促される。
食堂はテーブルなどは無く地べたに座布団と呼ばれるクッションが敷いてありその上に座るようだった。
座布団の前に膳と呼ばれる台があり、料理が乗せられている。
料理の内容はコメ、生の玉子、真ん中には小さな鍋がありぐつぐつと熱そうな音を立てている。鍋からは甘じょっぱいいい匂いがしている。
「これはオーガ肉のスキヤーキじゃ、スキヤーキは知っておるか? そこの生卵をこうやって器に割り、混ぜて鍋の具材を生卵につけて食べるんじゃ」
女王様が卵を割り僕達に見本を見せてくれる。
「昔から我が国に伝わる祝い事や特別な日に食べられる料理じゃ。しかと堪能されるがよかろう」
「スキヤーキですか僕も初めて食べます。では早速!」
薄切りのオーガ肉を掴むと卵につけて食べる。
うまい! 甘じょっぱい味付けに濃厚な卵が絡まってこれはコメに合いそうだ!
「この甘じょっぱい味付けがたまりませんね。甘じょっぱい味付けはあまり食べた事が無かったのですがおいしいです」
「そうじゃろう。コメとの相性も抜群じゃ」
「確かにそうですね。これはコメが進みます」
この甘じょっぱい味は癖になりそうだな。みんなも気に入ったようで無言で食べている。
「むふふ、皆にも気に入っていただけたようじゃの」
女王様が皆の食べっぷりに満足そうにうなずいている。
「いやーこんなにコメを食べたのは久しぶりです。ごちそうさまでした」
「うむ、満足いただけたようで何よりじゃ。この後は風呂に入ってもらおうと思うが城にも風呂はあるんじゃが温泉ではないんじゃ。町の風呂は温泉じゃからそっちに入りに行こうと思うておるがいかがかな? もちろん城の風呂でも構わんが」
「皆はどうする?」
「私は折角ですから温泉が良いです」
「わたしも温泉! 温泉一択だわ」
「温泉……」
「私は坊ちゃまと同じで結構です」
「よし! じゃあみんなで温泉に行くか」




