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第二王子の次男は諸国を巡る  作者: すみませばみを
第三章:ドワーフの国編
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狂人カスパル

「みなさんお待たせしました~所長、王様に報告してきましたよ」

「おおすまんな。ところで王は何と言っておった?」

「何が起きてもいいように魔法馬車の用意と技術者達と魔法使い達に招集をかけておくと言ってました。それと所長にくれぐれも無茶しないようにと伝えてくれと頼まれました」

「ふぉっふぉっふぉ、わしゃ無茶せんわい。しかし他の対応はさすがじゃの。イーナもご苦労さんじゃった。わしとティム殿で御者をするからイーナはゆっくりしておれ」

「はーい」


 王様に報告に行っていたイーナさんが戻って来たところで出発する事となった。

「ティム殿わしが見本を見せるからしっかり見とくんじゃ、そのうち操縦してもらうからの」

「基本的には普通の魔法馬車と操作は同じじゃが、通す魔力の量が違うんじゃ。普通も魔力の量の倍以上は多く通さないといかん。こんな感じじゃ!」


 所長が魔力を通すと同時にふわっとした浮遊感を感じると、家型魔法馬車が少し浮いている。

 そのまま進みだすが、思ったほどに揺れていない。

 すごいな、脚が全部別々に動いている。魔力を流すだけで脚が別々に動くなんて一体どんな仕組みなんだ。

「ふぉっふぉっふぉ、驚いたようじゃの~まだ実験中じゃがこれがドワーフの技術力じゃ!」

 所長のドヤ顔がすごいが、こんなものを開発したならこのドヤ顔も仕方がないと思う。

「これもその内一般に出回る日が来るんでしょうか?」

「う~む、それは難しいところじゃの~この脚の部分は遊び心でつくったもんじゃからの~。脚無しで移動する家型魔法馬車じゃったらもっと小型化したものになるがその内できると思うがの~」



 そんな話をしながら裏門を抜けボルカン山の火口に向けてどんどん進んで行く。

 これは意外と火口まで早く着きそうだ、ボルカン山は思っていた以上に傾斜がきつい。普通に上っていたら休憩しながらになるからかなりの時間がかかるはずだ。


 僕が家形魔法馬車に感心しながら所長の操縦を眺めていると三十分ほどで火口付近まで到着した。

「こ、これは!」

 僕は所長と顔を見合わせる。火口に近づくにつれ周囲の魔力濃度が濃くなっていると感じていたが、火口付近の魔力濃度は異常なほど濃い。

 即ちこれは誰かがそこそこ強い魔法を連続して使っているという事だ。

 僕達は火口付近で馬車から降り、警戒しながら火口を目指して進む。


 火口には僕が危惧していた通りローブ姿の眼鏡の青年が火口に向けて、『爆発する炎』の魔法を放っていた。

 この魔法は火球を顕現させて打ち出す魔法だ。単純だが込める魔力の量によって威力は変わる。

「九十二回目……これでもダメか」

 また『爆発する炎』を打ち込むと何やらぶつぶつ言っている。


「そこの若者よ! 無茶なことはやめるんじゃ! 安易に火山を刺激すると噴火してしまうではないか」

「おや? これはこれは魔法技術開発研究所のホルガ―所長ではありませんか! お目に書かれて光栄です。僕は裏ギルドの幹部カスパル・オブリッドと申します」

 あれ? 狂人どころかなんかまともそうだぞ。

「ホルガ―所長のお言葉ですが、なぜこの実験を止める必要があるのですか? 噴火させる為にやっているんですよ?」

「ボルカン山が噴火したらドワーフの国まで溶岩が押し寄せ甚大な被害が出るじゃろう、だから今すぐやめるんじゃ!」

「甚大な被害? べつに構わないじゃないですか。僕以外の人がどうなろうと僕には関係ありません。それよりもこの崇高な実験の方が価値があります」

 前言撤回ぜんげんてっかいだ! あいつはまさに狂人の名にふさわしいに奴だった。

 あんな危ない思考をしている奴がいるなんて……。


 また『爆発する炎』を火口に向けて放とうとしていたので、僕も『爆発する炎』を使いカスパルの魔法を相殺しようと魔法を放った。

 魔法を消すだけなら簡単だが相殺させるのは難しい、同じぐらいの魔力量で魔法を発動しないといけないからだ。

 強すぎたらカスパルの魔法を消した僕の魔法が火口に着弾するし、弱すぎたら逆になる。意外と高度な技術が必要だ。


 僕の放った『爆発する炎』は、カスパルの『爆発する炎』が火口に到達する前に当たり一際激しく燃え消滅した。

「ほほう、無詠唱で僕の『爆発する炎』を相殺しますか! 面白い!」

 魔力の高まりを感じ取った僕は、すぐに対応できるように構える。


『炎球よ顕現せよ……燃やし尽くし給え』

 カスパルが僕めがけて『爆発する炎』を放った。今度の『爆発する炎』は詠唱ありの強い『爆発する炎』だ。

『身を守りし壁顕現……範囲縮小……固定……発動』

 僕の『防御壁』に『爆発する炎』が当たるとカスパルの魔法は爆発することなく霧散した。


「今のをあんな小規模な『防御壁』で防ぐとは度胸がありますね! 爆発しない自信があったのか……それとも通常の『防御壁』だと押し負けて爆発してしまうから縮小して強固にしたのか……」

 そう言うとカスパルがじっくり僕を眺める。眼鏡の奥の瞳がぎょろりと動き得物を見つめるような瞳が怖い。

 僕は男に眺められて喜ぶ趣味はない。


「フーム。なるほど、どうやら後者のようですね。ヌフフフフ」

 カスパルの推測は残念ながら当たっている。僕はそんなに防御魔法が得意ではない。

 さっきの『爆発する炎』の威力だと通常の『防御壁』では耐えられないと踏んだので縮小し強化したのだ。

 しかしやはり僕は考えていることが顔に出ているのだろうか……。


「しかしキミ面白いねぇ。僕と一対一で魔法勝負しませんか? まぁ拒否権はありませんがね」

 そういうとカスパルは懐から赤い球を取り出す。

「ホルガ―所長! 先日、ドワーフの国の地下四階の超大型人工魔法石からの魔力供給が数時間止まったことがありましたよね?」

「な! なぜそれを! そのことはわしと王とイーナあと数名しか知らないはずじゃ……まさか!」

 カスパルが所長を指さしながら「正解!」としたり顔で言う。


「僕が発明した爆発する結晶はこの起爆装置に反応して爆発するというものでして、超大型人工魔法石の天辺てっぺんに取り付けてあります。付近の魔力に同調する処理を施してありますので、目視でないと見つからないと思いますよ」

「ぐぬぬぬ、それで調べたが魔力での異物調査で異常なしと出たのか、天辺は盲点じゃった」

「さすがにドワーフの国を崩壊させる程の爆発は起こせませんが、超大型人工魔法石に亀裂を入れるぐらいはできますからねぇ、亀裂が入ったらどうなるか……楽しみですね」

 カスパルが両腕を抱え「ヌフフフフ」と顔を上下に小刻みに揺らしながら不気味な声を出している。


「そんなことをされたらドワーフの国の全涼風機が止まり、地下は昔の暑い状態に逆戻りじゃ。今している研究も魔力の供給が止まれば数年分は遅れるじゃろう。技術大国としては致命的じゃ」

「思ったよりも人的被害はないですね……つまらんな。やはり爆発の威力をもっと上げるように研究するか……」

「さすがに爆発しないように安全装置は何重にも組み込んでおるわい。じゃが一度超大型人工魔法石が壊れてしまうと復旧するのにどれほどかかるか……」


 秘密の地下四階には超大型人工魔法石があったのか、そりゃあれだけ地下が涼しけりゃ膨大な魔力がいるか。

「さて! ドワーフの国が今置かれている状況を理解していただいたところで、魔法勝負の件ですが、魔法のみで一対一で行う事! 後は何をしていただいても結構です。 僕が勝っても負けてもこの爆発する結晶の起爆装置はそちらにお渡ししましょう。思ったり人的被害が出ないみたいなので興味が無くなりました」

「いいだろう、その条件でやろう」

「坊ちゃま!」

「爺やいいんだ。勝っても負けても起爆装置が手に入るならいい条件だろう」

 爺やが気にしているのは、僕が防御魔法が得意ではないといった弱点がある事だろうが、秘策はあるし負ける気はさらさら無い。

 万が一の時でも起爆装置が手に入るならいいだろう。というよりも受けないわけにはいかない。ドワーフの国は技術大国であると同時に僕らの暮らしを豊かにしてくれている国だ。そんな国をめちゃくちゃにさせるわけにはいかない。


「じゃあこの魔法契約書にサインしてくれるかな? 条件は魔法のみで一対一。勝っても負けても起爆装置は渡す」

 魔法契約書は魔法勝負の時に交わされる事が多い契約書で、一対一を望む場合や他に条件を付けたい時に使う。

 破った者は以後一年間、魔法が使えなくなるという魔法を使う者にとって恐ろしい契約だが、罰則が魔法を使う者同士でないと脅威では無い為、あまり一般的に使われることがない契約方法だ。


 お互い魔法契約書にサインするとサインした紙が宙に浮き消える。

「さぁこれで契約は成立した。いざ魔法勝負を始めようか」

「リリア! 所長とイーナさんを頼む。爺やとマリナはリリアのフォローを頼む」

 皆にそう言うと僕はカスパルと対峙した。

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