魔法勝負
「いやぁ~魔法勝負なんて久しぶりですね。どんな魔法で僕を楽しませてくれるのかワクワクします」
カスパルはそう言うとにやにやが止まらないといった顔でこちらを見ている。
ここは先制させてもらおう僕は風魔法の『吹き飛ばす渦』を使う。
『渦を巻く風の奔流顕現……加速……吹き飛ばし給え』
僕の詠唱が完了すると目の前に高さが二メートルほどの竜巻が現れ回転を加速させながらカスパルに迫る。
「珍しい魔法を使いますね、早々に私を吹き飛ばして退場させようと? 甘い!」
『我を包むは強固なる岩壁……半球……顕現』
カスパルが詠唱するとカスパルの周囲に岩壁が出現し半球状にカスパルを包む。
あれこそ珍しい魔法だ。詠唱者を岩が半球状に包み身を守る『岩宿』という魔法だ。
防御魔法の中では魔力を多めに使うし『防御壁』の方が使い勝手がいいからあまり使われない魔法だが、『吹き飛ばす渦』への対抗魔法としては一番適している。
「ヌフフフフ、いいですねぇ、これですよこれこそ魔法勝負の醍醐味。珍しい魔法を見せていただいたお礼にこんな魔法はいかがですか?」
そういうとカスパルの周囲の魔力が今までにないほどに高まる。
勝負をかけてきたか! 先程『爆発する炎』を使った時の倍以上の魔力の高まりを感じる。
『相反する現象よ顕現せよ……激流……荒波……顕現』
カスパルの真横に炎でできた波が現れる。波の幅は五メートル程だが、波が引くと同時に徐々に高さが上がって行く。引いてるってことはこっちに押し寄せてくるよな……。
あんな魔法は見た事が無い。炎を波のようにすることによって魔力を抑えつつ威力と範囲をあげているのか。
僕の『防御壁』ではまず防げそうにないな……。
「いかがですかこの『灼熱の波』は芸術的な美しさでしょう? 発動までに少し時間がかかるのが難点ですが、威力はなかなかのものですよ。波が引くことによって勝手に威力が上がっていくという魔力効率もいい魔法です。私が開発しました」
「私が開発しました」の部分だけゆっくり自慢げに話す。
「そろそろ炎の波が押し寄せますよ。キミの『防御壁』で防げるかなぁ? ヌフフフフ」
カスパルの笑顔が怖い、ものすごい楽しそうだ。
確かに僕の『防御壁』では強度が足りないので防げないだろう……しかしこれなら!
『往なす壁顕現……我を害するもの……全てを……往なし給え』
僕の目前に一筋の光が現れる、光は左右に斜めに広がっていき僕の前に山型の光の壁を作る。
光の壁が完成したと同時に炎の波が押し寄せる。
僕は光の壁に魔力を流しながら耐えるが、炎の波は圧力を増しながら押し寄せなかなか過ぎ去ってくれない。
何とか耐えていると急に圧力がフッっと無くなる。何とか『灼熱の波』を往なせたようだ。
実戦で使うのは初めてだったが何とかうまくいったな。
この魔法は『往なす障壁』僕が開発した魔法だ。
『防御壁』は魔法を受け止めるがこれは相手の魔法を往なす魔法だ。僕は防御魔法があまり得意ではないので防御魔法にあまり力を入れていなかったが、リリアが『防御壁』を大きくして川を渡れるようにした事に触発されて考え出した魔法だ。
「フーム……。正直に言ってまさか今のを防がれるとは思っていませんでした。やはり自分の思った通りに事が進まないと面白くないものですね」
さっきまでの楽しそうな顔とは打って変わって真顔のカスパルがそう言うと、懐からブルーの液体が入った瓶を取り出すと一気に飲み干す。
魔力回復薬か……。ギルベルトの時もそうだが自国で開発した物を敵に使われるとは……世の中を良くする物も悪くする物も人の使い方次第なのか……何とも言えない気持ちになるな。
「これはやめておこうと思いましたが、もう『爆発する炎』を何発火口にぶつければ噴火が見れるか? といった実験は中止です」
カスペルの魔力の高まりが先程の『灼熱の波』どころではない程に高まる。
これはほとんどの魔力を使っているんじゃないか? どんな魔法が来るのか想像できない。
僕も念のために魔力回復薬を飲み干す。
『星々よ理に逆らい我に従え……岩石……降下開始……灼熱……爆砕……爆砕せよ』
こ、これは『星降る夜』だ! こんな魔法まで使えるなんて!
この魔法は土属性の魔法で、星とは言っているが実際は星ではなく、岩の塊を上空に顕現させて燃やし落下させる魔法だ。込める魔力の量で岩の塊の大きさが決まるが、あんなに魔力を込めたら……。
この『星降る夜』が火口に降ってきたら間違いなくボルカン山は噴火する。噴火したら麓にあるドワーフの国は……。
何とか火口に落下するのだけは防がないと!
僕も『往なす障壁』の詠唱を開始する。
幸い落下まで少し時間があるので僕の総魔力の半分を使う様に、ゆっくりイメージを強くしながら詠唱する。
『往なす壁顕現…………落下する岩を…………火口より…………往なし給え』
先程よりも長い光の筋が現れそれに伴い左右に広がる光の範囲も大きく広がり火口を覆う様に山型の光の壁ができる。
燃える岩が上空から落下してきた。
かなりの大きさだ。直径が十メートル以上はあるんじゃないだろうか。
燃える岩は落下速度を上げると光の壁と激突する!
すごい衝撃がこちらまで伝わってくる、魔力がぐんぐん吸われていくが僕は歯を食いしばりながら耐える。これを防がないとドワーフの国が……その思いで必死に耐える。
なんとか耐えていると、光の壁と燃える岩の拮抗はついに光の壁の勝利となる、燃える岩に亀裂が入り火口を避けるように割れると地面に落下していった。
落下の衝撃がすさまじいが何とかドワーフの国は守れたようだ。
僕が安堵していると、腹の底に響くような地鳴りが聞こえ地面から振動を感じる。
「『星降る夜』が防がれるとは想定外でしたが、結果は同じ事だったみたいですね。全魔力を使い果たした甲斐がありました。ここでじっくりドワーフの国が溶岩に押し流される様を見せてもらいましょうかね。」
ま、まずいカスパルの言う通りボルカン山が噴火しそうだ。
せっかくカスパルの魔法を防げたのに燃える岩が地面に落下した衝撃で火山を刺激してしまったようだ。
すぐには噴火しないだろうがこのままでは噴火するのは時間の問題だ。
僕は皆にすぐ号令をかける。
「皆! 魔法馬車に乗り込め! ドワーフの国へ戻るぞ!」
「よし! イーナは通信石で王にこの事を知らせてくれ! わしは御者をやろう最短で戻れるよう使い潰すつもりで操縦するわい」
「わかりました」
「所長お願いします! 皆急いで乗ってくれ!」
皆が魔法馬車に乗り込みドワーフの国へ向けて下山する。さすが使い潰すつもりといっただけあって来た時の倍は速い。
家形魔法馬車を操縦している所長以外を部屋に集め今後の事を相談する。
「リリア『防御壁』で溶岩を防ぐか逸らしたりできないか?」
「う~ん。さすがに私の『防御壁』でも難しいと思います。幅を大きくしたら強度が下がりますし」
「大人数で『防御壁』を展開して横に繋げるのはどうかな?」
「イーナさんいい案だ! それはどう?」
「こんな言い方をするのは申し訳ないですが、溶岩に耐えれる程の『防御壁』を使えないと厳しいです。ドワーフの国にそれほどの使い手は何人くらい居らっしゃいますか?」
「う~ん。十人くらいかな~十人じゃ厳しいかな」
「そうですね溶岩の規模にもよりますが、ドワーフの国を守る位となりますと五十人は必要かと思います」
「あとで国に問い合わせて防御魔法が得意な者が何人ぐらいいるか確認してみるわ」
皆がそれぞれ考え込み部屋が静かになると腹の底に響くような不気味な地鳴りが余計不気味に聞こえる。
うーん……やっぱりこれしかないか。
「僕に良い案がある」そういうと魔力回復薬を飲む。
「これで今日は魔力回復薬を二本飲んだから全体の四分の三しか回復しないけど行けると思う」
魔力回復薬は一日の使用回数によって回復する量が減っていく。一回目は全て回復するが二回目以降は四分の一ずつ回復量が減っていき五回目は回復しない。
希少なものなので二本以上持っている人はあまりいない。何本も持っている裏ギルドの幹部の方が異常だ。
「僕が『往なす障壁』で溶岩をある程度往なすから溢れた溶岩を皆で防いでくれ。僕の全魔力を使えばそこそこの範囲まで広げれると思うからそれで何とかするしかない。全魔力を使っても死なないけど気絶するから後の事は頼んだ」
「防御魔法が得意なのにこんな大事な時に役に立たないなんて……」
「リリア、役に立たないことは無いしその気持ちがあれば十分だ。僕が溢れさせた分は頼んだ」
「私は攻めるのは得意でございますが今回はお役に立ちそうもありません。せめて坊ちゃまの傍で守らせていただきます」
「私も……」
「爺や、マリナありがとう。場合によっては気絶すると思うから体の事は頼んだ」
「うーん。他国のしかも王子だけに任せるわけには……」
渋るイーナさんに「全魔力を使っても死ぬわけじゃないし、今は自国とか他国とか言ってる場合じゃないだろ、それに僕だけじゃ無い、ドワーフの魔法使い達にも溢れた分の支援は頼んだ」
「うーん。他に策が思いつけばいいんだけど……。ティム君ごめんだけどよろしくね」
「僕の傍にはリリアや爺やもマリナもいるから大丈夫だ!」
「うん。ありがとう。もちろんわたしもできる限りの事はするけど、みなさんドワーフの国の事お願いします」
ぺこりとイーナさんが頭を下げる。
皆がイーナさんを見ながら頷き合う。
「それじゃ私は作戦の事を王に伝えてくるわ」
「よろしく」
そう言うとイーナさんは部屋の隅の方に移動した。




