イラスト部 目立たないやり方
お久しぶりです、何年ぶりになるかはわからないんですけど……お待たせいたしました、ゆっくりと更新再開します!
イラスト部ルールその肆拾伍 最後の確認は口頭で
「残さないためか、それともめんどくせーからか?」
夢田が話してからしばらく時が止まったように誰も話さない。一番初めに口を開いたのは木村先輩だった。
「ひーくん自覚ある?」
小首をかしげながら聞かれる。俺は頭をガシガシとかきながら
「あるわけねーだろ」
そう言った。その言葉を聞いて木村先輩は納得したかのようにうなずく。ちなみに俺は全くと言っていいほど把握できていない。木村先輩は一人納得したような顔つきで
「しょうがないかも」
とつぶやいた。……何がしょうがないのかがさっぱりわからない。いや本当に。俺に聞こえたということはもちろん同じような近さにいる他の奴らにも聞こえたわけだ。だからだろうか、何人かは首をひねっている。
そんな様子を見たからだろうか、木村先輩は俺の方をじっと見て聞いてくる。……なんか尋問されるみてぇでイヤだな。そう思い目を逸らそうとするが
「そうね……ひーくん」
その前に声をかけられた。……遅かったか。こうなったら目をそらすわけにはいかない。覚悟を決めて先輩に言葉を返す。
「何だよ」
「人の長所、短所を書くときにばれたことはある?」
木村先輩の言葉に考える。というか、考えたこともなかったしなそんな事。……だが……数秒ほど考えて何とか言葉をひねり出す。
「あー……ねえと思うけど。他のやつにも言われたことねぇしな。噂とかも聞いたことねぇよな?」
木村先輩以外が小さくうなづく。ってことはないだろうな。特に夢田が聞いたことがないのなら。夢田は確かに運が良い。が、それだけじゃない。人とのつながりが広い。つまりそれだけ噂が入ってきやすい。俺みたいなことをやっているのを知られていたらとっくに噂になっていることだろう。客観的に考えずとも怪しいし。人の特徴とかその他もろもろ書いているノートをつけて、しかも持ち歩いているとか怪しい以外の何者でもないだろ?あ、気持ち悪いとかか……なんか単純にへこむんだけど。泣きそうになるんだけど。ってか今も目頭がちょっと熱い気がする。これちょっと力入れたら泣くんじゃね?泣かねぇけど。先輩たちはそんな状態の俺も無視して話し出す。……まあ時間もないしな。
「…………それだけ顔に出さないって事に……慣れてる、ってこと?」
「多分、無意識のうちにね」
木村先輩の言葉に全員が黙る。そして少しの間黙り込んだ後に
「私たちもやる?」
小さな声で全員にそう尋ねた。その声の音量は決して大きくない。けれどもなぜか全員の耳に確実に届いたことがわかった。
「私たちも、ですか?」
「ええ、ただしひーくんと違うことやってもらうけどね」
オレのやることが無くなるのかと思ったのに……わざとらしく聞こえるようにつぶやく。そうすると木村先輩はニッコリと笑って
「そんな訳ないでしょ」
と言い放った。ですよねー、なんて諦めたように笑うがそれが俺の仕事。絶対にやりたくないなんてわけではないのだ。ただ、ただ少しだけ……周りの目が気になるだけで。けど俺と違うことってどういうことだよ。全員の疑問を受け取ったようで顔に微笑みを浮かべながら口を開く。
「ひ―くんと違うことっていうのはそうね……ひーくんは不特定多数……つまりこの人って限定していないのよ。そこを変えようと思うのだけどね」
「誰か一人に限定するということですか?」
「ええ。ただし別のところで書くというのはなしよ?それだと意味がなくなっちゃうしね」
と八神を見ながら言う。八神は口元を隠しクスクスと笑いながら
「わかってますよ」
と言った。
「でも一人限定とかするとバレやすくなんぞ」
なにせ一人のやつをじっと、そうでなくても観察をするわけだ。どうしても見る時間が長くなりバレやすくなる。人は自分を見る目には敏感だったりするからな。そりゃあ鈍感なやつもいるが……
「ええわかってるわ。だから良いんじゃない」
「どういう意味だよ」
「いつもならもう少し時間をかけるのだけど……ゆっくりやってられないのよ。時間がないわ」
おそらく体育祭までの時間を言っているのだろう。一番上のやつはあの人にも掴ませないくらいだ。敏感な可能性が高い……だから余計にって事か。
「一人に限定、その一人はどの学年、どのクラスどこでも構わないけどイラスト部以外でね。良いかしら?」
全員がコクリとうなずく。それを見た福谷先輩がクルリとこちらを向いて聞いてきた。
「…………光……一つ聞いても良い?」
「ああ」
そううなずくと福谷先輩は一瞬考えるふりを見せると、ゆっくりと口を開いた。
「…………バレたことがないというのはわかっ、た。…………でもバレかけたこと、は?」
「……バレかけたこと、か?あるけど?」
そういうと木村先輩以外の目が小さく見開かれる。木村先輩は小さく笑っているだけだ。つーか福谷先輩は自分で聞いたのに。ってかさっき言われたばっかなのにさっそく顔に出てんじゃねーか。けどそんなに驚くことか?
「だって光君バレかけたことなさそうなんだもん」
「んなわけねーだろ。そりゃ容姿なら覚えられるかもしれねーけど、人の一人一人の性格とか覚えてらんねーよ。どうしたって主観とか入って来るしな。ならそこで書くしかねーじゃん」
大抵書いているときに人が来たりするしな。特にあいつな。頭の中に浮かんできた茶髪の関西弁のやつを頭から追い払う。
「でもそんなときってどうするんですか?」
「ああ……どうするって誤魔化すしかねーじゃん、そんなの」
「え、どうやって?バレかけてるって事は……ノート見られてるってことだよね?」
「まあ、そうなんだけどな……」
言ってもいいんだろうか。こういうのって自分で気づくと、そういうんじゃなくても。そう思い木村先輩を見る。木村先輩は俺の目を見つめ小さくうなずく。……構わないって事だろうな。木村先輩のことだ、本気でダメなら無理矢理にでも止めることだろ。そう勝手に判断して話すことにした。
「まあ誤魔化すっつってもそん時によって誤魔化し方は適当なんだけどな。例えば何か書いてんのを見つかっただけなら、ノート写してたとか言えるわけだしな。ノート二つ出してなかったりしたなら、今度遊ぶ時のシナリオ、だとかな」
「人をみてかいているのをみつかったら?」
「そん時はそうだな……新しいキャラを考えるためにちょっと見本にさせてもらってますとか?」
八神は俺の答えを聞くと苦笑をしながら
「イラスト部だからこその答えが多いですね」
と言う。まあいい言い訳になるんだから、使わせてもらわないとと言うと全員がクスクスと笑う。あの薄波先輩でさえもだ。何か笑う所でもあっただろうか、そう思って聞くと全員が笑いつつも首を横に振る。いや笑ってんだけど。……まあいいか
「それじゃあ決定ね」
そう木村先輩は言うといくつか置いてある棚の一つに足を進める。そして中からノートを何冊か取り出し全員に配る。これに書けと言うことだろう。
「さてと」
そう一言つぶやくと薄波先輩と福谷先輩を見る。二人がコクリとうなづくと木村先輩はガチャリと鍵を閉めた。
「何かつかんだのか?」
「まあね。だから余計にかがりんには知られたくなかったのよ」
そう言いながらいつもの席に座る。
「その前にひーくん」
いきなり俺にふられる。この人は基本的に前置きというものが少ないから驚くんだよなぁ。
「何だ?」
「ひ―くんと同じ学年のはずなんだけど、この男知ってる?」
そう言って取り出した写真には一人の男が写っていた。こちらに視線は合っておらず隠し撮りなんだろうなぁと言うことはわかる。何処をどう見ても平凡、何処にでもいそうな髪型に黒い髪。目鼻立ちも目つきが少し悪いだけで他は何も感じない。何と言うか人に紛れ込んでしまうと紛れてしまっどこにいるのかがわからなくなる。そんな感じがするような男。
夢田は覚えていないのか首を捻りっぱなしだ。……まあこれがなかなかに珍しいんだけどな。こいつは友達が多い。だからこそ噂話がよくこいつの耳に入ってくる訳なんだけどな。まあそれはあれとしてこいつは友人が多い、この学園の人たち全員覚えているとは言わないがそれでも俺なんかよりも多い。そいつが、同じ学年のやつを覚えていないってのが珍しいんだ。それくらい記憶に残りづらい男ということなのだろうけど。
それにしてもこの男だよな……この特徴どこかで書いた覚えが……そう思ってノートを探る。
「……あった」
その言葉を聞きつけ全員がバッと近寄ってくる。……どう考えても見えねーだろそれ。ノート見開きの一ページに七人が顔寄せあうって。つーか暑苦しい。どさくさに紛れて俺の後ろから抱き着く感じでで見ようとするやつもいるようだし。ついでに言っておくが見えるわけがない。
「…………見にくい」
だろうな
「ひーくん、ホワイトボードに書いて」
「ん」
木村先輩がそう言い薄波先輩がうなずく。ハア……そうなるだろうなぁとは思ってたよ。つーかその方が良いのはそりゃそうだろ?!
そのノートを手に取りホワイトボードに書き写していく。
田中 晴人 身長160後半……?
・外見 特筆する特徴無し
・友人関係 良好?特に仲のいい人悪い人無し
・部活 所属無し
・ここ最近SHRが終わると同時に走って出行く姿をよく見かける
・長所 人と波風を立てない
・短所 目立たない
「っとこんなところか?」
「見れば見るほど特徴がありませんね、この人」
そう八神の言う通りだ。別に自分の観察眼が優れているとも思わないが……でもここまで特徴がない奴も珍しい。特徴がないのが特徴って感じかこれ……?
「なんていうか……ホント目立たない人ね」
「ん、でも私とは違う」
木村先輩の言葉を受けてか、薄波先輩がぽつりとつぶやく。確かにその通りだよな。と一人納得するが何人かは不思議そうな顔つきだ。
「…………目立たないやり方が違う」
「めだたないやりかた……?」
やり方、という良い方は変な言い方な気がするけれどな。
薄波先輩が目立たない理由はその影の薄さだ。いや目立たないというよりかは見つけられない。その上下手すると記憶にも残らないかもしれない。そんな人だ。イラスト部にいるからこそ薄波先輩の名前は有名だ。そう、名前は。
「ん、私自身を知っている人は少ない」
本人は割とあっけらかんと言っているようにも聞こえるが本当はどう思っているのだろうか。その表情からはうかがうことが出来ない。元々表情があまり出ない人ではあるけれど……ここまで出ない人だっただろうか、なんて。思ってしまうほどだ。……詮索なんてもちろんしないけれど。きっとしてはいけないところだ。
それにしても田中の方だが……別に目立つ名前という訳でもなければ目立つ顔立ちって訳でもないし。木村先輩みたいに頭が良いって訳でもないし、あの茶髪バカみたいな頭脳をしてるわけでもない。つまり中間。そして運動も特別できるという訳でもなければ、特別できないなんてわけでもない。友達が一人もいないでずっと一人いるわけでもたくさん友人がいるわけでもリーダーシップを取るタイプでもない。本当にも目立たない人だ。それこそ部活に入っていたらまた別だったのかもしれないけれど、入ってもいないしな……いるけど記憶にも残りづらい人だ。聞いても「ああいたな」くらいしか返ってこないだろうな、これ。薄名も先輩の場合はまず「……いたっけ」とかから始まりそうな気もしなくもない。さすがにこの学園ではないだろうけれど。
「なるほど知加先輩とは違うとはそういうことでしたか」
「何だろう、人に紛れ込むのを得意としているのかしら」
……そのいいようだと忍者になるのを目指しているような人だな。
「ちがうとおもう」
ぼそりと呟く中井。でもそれを見逃さないのが木村先輩だ。どういう意味かとでも言うように中井をじっと見る。いや怖いから、見られてない俺でも一瞬寒気がしたから。必死になのはわかるけどな、あんたは見つめるだけで威圧感出す時があんだから。
「……えっと」
そういいながら言葉を詰まらせる。ほら見ろ、そうなるじゃねーか。
「…………彩、話せなくなるし進まないから睨まない」
「睨んで無いわよ」
「…………じゃあじっと見るな」
やっぱりそう思ってたのは俺だけじゃなかったのか……まああれを言えるのは福谷先輩くらいなもんだろけど。俺には言えない、というか言ったとたんこれまた俺もじっと見られそうで怖い。
「えー、ヒドいわりーちゃん」
「ん、同意」
「だよね」
木村先輩が薄波センパイを見てそういうが、多分違うな。だって小さく首を振ったし。それを見て木村先輩が傷ついたような顔をするが……わざとらしい。基本的にこの人がこうやってわかりやすく表情を出すときは俺たちに何か伝えるとき。そして今みたいにわかっていて面白がってやる時だ。……こんなことやっているから時間が無くなるんだと思うんだけどな。
「え、違うの?」
「ん、彩威圧感ある」
「ヒドイよちーちゃん。それに、私程度で戦いているならこれからやっていけない」
とてもまじめな顔をしてそう言う。ごくりとのどが鳴ったのは一体誰だったか。木村先輩は急に表情を崩し
「なーんてね」
と言った。けれどそのおどけ方が何となくわざとらしく見えた。彼女は本当にわざといったのか。それとも
俺たちに何か伝えたかったのか。
中井が恐る恐るとでも言うように口を開く。
「あの」
「どうしたの?」
「おののく……って?」
「彩夏が説明して進ぜよう!」
お前……さっきまで静かだったのに。でもそのおかげだろうか、さっきまでの何とも言えない雰囲気が霧散する。
「恐れ、震えるという意味ですよ、みやっちゃん」
「んもー、彩夏が説明しよーと思ってたのに!」
木村先輩はにこりと笑ってパンパンと手を叩く。
「みー、どういう意味かゆっくりでいいわ自分の言葉で教えて」
「わかった」
中井はゆっくりと自分の中で答えを探すように口を開く。
「あの、ね、たぶんだけどまぎれこむのがとくい、じゃなくて……えっと……めだちたくない、だとおもう」
「目立ちたくない……ですか」
「うん」
そうか……確かに目立たないようにするには人に紛れ込むのは一番良い。
「なるほどね」
「で、いろいろと話がずれたがこいつがどうしたんだ?」
わざわざオレに聞くって事は何か関係があるのだろう。そう思って話を戻すように尋ねる。
「…………探してる人、かもしれない」
「つまり、下?」
「ん」
探してるやつか……本当にコイツなのならあいつに伝える必要性がある。それにしても……
「何でコイツだと思ったんだ?」
それは小さな疑問。けれど必要な疑問だ。ちゃんとした理由がないとコイツをそうだと言うことは出来ない。つまりだ、まだアイツに伝えることは出来ない。
「私たちがその人じゃないかと思った理由はね、余りにも目立たなかったから……かしらね」
「ハ?」
「私たちが目立ちすぎなのはわかってるわよ?こんなことをやっていたら余計に」
「…………けどこの学園にいれば少しは目立つ、はず」
いやそれ曲解だから。そんなことないから。この学園にいたら少しは目立つなんてことはねぇからな?
「でもひーくんとみーのおかげで少し怪しさが増したわ」
「未耶香とかやませんぱいのおかげ?」
繰り返し聞いた中井に木村先輩はええといいながらうなずく。俺たちが不思議そうにしているのがわかっただろう。さっき俺がかいたホワイトボードに近づき、一つにコンコンとノックをするように手を打ち付ける。そこに書いてあるには
・しかしここ最近SHRが終わると同時に走って出る姿をよく見かける
というもの。
「あやー、それがどうしたの?」
夢田もよくわからなかったらしく首を捻りながら聞く。そして俺もいまいちよく意味がわからない。木村先輩はちらりと時計を見ると少し焦ったように口を開く。つられてみると現在16時30分。間間にいろいろとありすぎたおかげで1時間も過ぎている。今日が7時間授業じゃなくて良かったと心底思う。まあ7時間授業なんてない方がうれしいけどな。こんな長くなるなんて思ってもなかったけど
「そうね……目立ちたくない人がこんなことすると思う?」
「ハ?」
焦っているはずなのにも関わらず問いに対して問いで返してくる。ただその問いの意味がわからない。
「……彩」
「はいはい」
いつまでたっても俺たちが言葉を発さないからだろうか。しびれを切らしたように木村先輩に声をかける。木村先輩は福谷先輩のその声に二度と返事をしてまた真剣な顔をする。こんなにも一日の内で真剣な顔を何回も見るなんてな。珍しいこともあるもんだと一人思う。俺がどうでもいいことを考えていることもつゆ知らず話を続けていく。
「あのね、SHRが終わると同時に出て行くって案外目立つのよ?」
「そうか?」
「……そうね……一番後ろの端っこならあまり目立たないかもしれないわね。でもね考えてみて毎日毎日終わった途端外に走り出るのよ?確実……とは言わない。けれど目立つでしょう?」
「…………光」
「ん?」
木村先輩の言葉に返事を返すひまもなく福谷先輩に声をかけられる。福谷先輩の横でさえぎられたことにムスッとしているが、うん大丈夫だろ。この人が本気で怒っているのならこんなにも表情は出さない。……本気で怒っているこの人なんて見たくないが。それは本気でやばい気がする、考えただけで変な汗をかきそうだ。
「…………光、この人と同じクラス?」
「あ?いやちげぇ……け、ど」
「ん、気づいた?」
「……目立ってる」
福谷先輩に言われてようやく俺は気が付いた。クラスが違うのにもかかわらずこの情報を俺は知っていた。すぐに出て行くなんて同じクラスのやつくらいしか知りようがないはずなのに。どうしてか?そんなの少し考えればわかるはずだろう?こんな簡単なことに気が付かなかった自分にイラっとする。
目立っているじゃないか。こんなにもわかりやすく。
中井の言う通りなのなら、こんなことはしないはずだ。目立ちたくないのなら、人に紛れ込んでまで自分を隠そうとするのならこんなことはしないはずなんだ。違うクラスの人にまでこの情報が流れてくるようなことなんか。なのにどうしてわからなかった?
「……まあこれだけなら少し信用度が薄いとも思うのよ」
と木村先輩は苦笑する。その声に俺は木村先輩にきちんと目を向ける。自己嫌悪に陥るのは後にしよう。そんな事は後でもいくらでもできる。
木村先輩が言いたいのは、確実な情報にしたいと言うことだろう。
「ちー、一日二日いける?」
と薄波先輩に聞く。絶対なる確信を持つために。確信をもってあいつに任せられるように。……あいつに無駄足を踏ませないために。
「ん、わかった」
小さくコクリとうなずく。
「証拠がつかめればそれでいいわ。確実にしゅーくんに渡せる情報を。……体育祭まで時間がないの」
また薄波先輩はコクリとうなづいた。木村先輩は珍しく焦っているように見えた。いくら時間がなくてもここまで焦っているように見える木村先輩を見るのは初めてだ。……どこか自信にありふれていて悠然と構えているのが木村先輩だと勝手に思っていたのだけれど。
「…………彩」
「わかってる、けど……いろいろと重なりすぎなのよ」
「ん、確かに」
「……焦っても意味がないことくらい分かっているのだけど、ね」
先輩たちの声だけが聞こえる。木村先輩の聞いてことない声。まるで自分で自分をあざ笑うかのような、何処か諦めたような声でそんなことを言う。今日一日で彼女の声を、表情をたくさん聞いた。聞いたことの無いような表情や声もそこには混じっていた。こんな声を出すなんて表情をするなんて知りたくなかったけれど、これが本当に人を知ることなのか何てガラにもないことを考えた。ガラじゃないにもほどがある。ここに他の人が居なければ俺は笑っていただろう。
何を考えているんだって。
そんな事はとっくの前に知っていたはずだろう?
人なんて見た目だけじゃわからない。話さないと分からない、いや
話しても分からないことがあるなんて。
それなのにそれを改めて知ってこんなことを考えるなんて笑えるだろう?滑稽だろう?
「……ホントめんどくせーイキモノ」
本当にめんどくさいイキモノだ。
「光君、どうしたの?」
「いや、なんでもねーよ。ノート、ばれないようにしろよ?」
「わかってるよっ!」
面倒だけど、嫌いにはなれないんだような。だからこんなことしてるんだろうけど。
パンパンと手を叩く音が響く。
「ハイハイ、とりあえず時間もないし確認だけするわよ」
そして決めたことを最終確認とでも言うように口頭で言っていく。
「まずばれないようにノートをかく。人はイラスト部以外で。そしてちーちゃんは彼を調べる。他は情報を探ってほしい。ただし絶対にばれないように、良いわね?」
全員がコクリとうなづいたのを確認するとさっさと帰り支度を始める。まあ時間も時間だしな、早く出た方が良いだろう。
こうして俺たちは動き始めた。




