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Epilogue




 青い雲は溶けて視界の後ろへと流れていく。

 風を掻き分けながら、相変わらずの爆音で平野を蹂躙しながらキリヤとサイを乗せたバイクは猛突進していく。

 二人は本社へと帰還するためサウスムーンを出発していた。キリヤの背には二つの剣。

 無言の彼らの脳裏にはリットとウラガンの姿が浮かんでいた。


 ――数分前、帰還する二人を崩壊した屋敷を後にして門のところまで、見送りに来たリット。

「もう行かれるんですか?」

「まあ私たちは指名手配されちゃってる身だし。コイツも今回の任務の失態を償わないとね」

 サイが答えると、リットは急に俯き呟いた。

「・・・・・・僕の父上が、お二人の仇だったなんて」

「気にするな。お前には関係のないことだしもうどうとも思っちゃいねぇ。あんな風になっちゃ、仇を討つ気にもならねーって」

 そう言うキリヤの言葉に、リットは父の姿を思い出す。

 剣を失ったウラガンは抜け殻のように、無気力になってしまっていた。リットは、あの邪悪な眼をした龍が父の悪に染まった魂を喰い去ったのだと信じていた。だから、やり直せるかもしれないと信じている。

「もう、父は以前の父ではありません。だからきっと、自分の過ちを理解し罪を償う時が来ると僕は信じています。街の人々もいつかわかってくれるでしょう」

「ああ、お前ならできるさ。――親父さんによろしくな」

 少年はこの国の再建のために貢献するつもりだった。

 黒い瞳にはしかし強い輝きが灯っている。リットは将来、きっとこの国の指導する立場になるだろうとキリヤとサイは確信していた。

「そろそろ行くわ。日が暮れるからね」

「そうですか・・・・・・また来てください、その時にはきっと、もっと良い国になってますから!」

「ああ、また来るよ」

「じゃあね」

 別れの挨拶もそこそこに、二人はバイクに跨り走り出した。

 振り返ると名残惜しそうにリットが見送っていたが、その後ろにウラガンも立っているのが見えた。

 リットが父の手をとって街へ帰っていくのをサイは微笑んで見送った。


 黄昏に染まる街並み。

 塔の群れは我先に天へと目指すように伸びている。要塞のような塔から這い出た人々は限りある時間を惜しむかのように鉄の塊に身を預け、渋滞を作り、線路を突き進み、海に浮かび、空を駆ける。

「こうやって夕陽に照らされた街並みを見ていると、もう朝は来ないのかもしれないと案じてしまう」

 聖外衣をまとった男は悲哀に満ちた眼で眼下の都市を壁に張られた硝子ごしに眺めている。

「社長・・・・・・残念ですが明日は来ます。定例会議の打ち合わせと経費削減の見直し、協定へのスピーチの予行演習それから――」

 痩身の女秘書は社長――レイの背中に容赦なくまだ残っている仕事を、まくし立てるように報告した。

「・・・・・・まあ、アレの解放は抑えることができた。まだ気付かれては困るからね――それだけでも褒めて欲しいものだよ」

 レイは恭しく言葉を紡ぎ、静かに振り返ると女秘書は日程帳と口を開いた。

「では明日、定例会議の打ち合わせを行いますのでまた逃げないでください。スピーチの練習も自宅で怠らないように。では、定刻になりましたので失礼させて頂きます」

 秘書は愛想もなく、高価な香水の香りを残し、さっさと社長室を後にした。あれでも仕事が完璧なのでレイも頭が上がらない。

「・・・・・・さてと、しばらく休暇でもとるかな」

 レイは光沢があり高級感漂う重厚な木製造りの机の下に隠してあった飛翔魔導具を拾った。しかしいつの間にか『休暇は許可できません』と書かれた紙が貼られていてた。


「父親か・・・・・・」

 キリヤは小さく呟き、サイには聞こえなかった。

「母さん・・・・・・」

 サイは細く呟き、キリヤには聞こえなかった。

 二人の感傷を振り払うように、アクセルを吹かしさらに速度をあげ差し迫る夕暮に向かってバイクは駆けていく。


「・・・・・・ん?」

 キリヤは眉根を寄せた。

 爆音を轟かせ走るバイクに微かな変化を感じたのだ。すると徐々に速度が落ち、バイクはついに停まってしまう。

「どうしたのよ」

 サイに促され、キリヤはエンジンを始動させるが嫌がるように唸るだけでバイクは走ってくれない。

 そしてやっとキリヤは思い出す。

「オイル交換、してねーや」

「はあ? なにそれ」

 星空の真下、二人は平野の真ん中に残された。静かになった平原に鈴虫の囁きと、遠くで野犬の遠吠えが聞こえた。

「どーすんのよ」

「・・・・・・通信で社長、呼んで」

 キリヤは満天の星空を仰いで嘆いた。

 無責任な蒼い満月は高い所で愉快そうに、いつまでも二人を眺めていた。


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