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第13話 嗚咽

「息子さんは、お父さんがCAAだって判った時点で、もう助からないって覚悟を決めてたみたい」


――結局、三井先生の説得で、これ以上の延命治療は行わない方針になったらしい。


 奥さんは泣きながら承諾したが、お嫁さんは最後までそれに反対していたそうだ。 義理のお母さんの、身体的、精神的な苦痛が心配だったんだろう。


 更に、念書に署名した息子さんをなじり、『こんな冷たい人と、暮らしていけない!』と離婚まで口にしていたと言う。


 息子さんは、医学的な知識から冷酷に見える判断をして、本当なら信じ合えるはずの家族から『冷たい人』と後ろ指を指されてしまった。 まさに『知恵の実』を食べたために、背負ってしまった原罪の重さだ。


***


 それから程なくして、森さんはこの世を去った。 意識が戻ることは無かったが、苦しむ事も無く、家族に見守られて逝かれたという。


 息子さんは、家族に見付からないように、隠れて嗚咽していたそうだ。


――その話を聞いた時、胸に強い痛みを感じた、


 私は『エンパス』……人の気持ちが判りすぎる時がある。


 お父さんの病名が判ってから、亡くなるまでのあいだ、どれ程(つら)い思いをしてきたか。 それを思うと、心臓がキリキリと締め付けられ、自然に涙がこぼれそうになった。 


 でも今回は、その痛みや悲しみと同時に、別の気持ちが浮かんだ。


『隠れて泣かなくても良かったのに』


『取り乱しても良かったのに』


『「お父さん、逝かないで」とすがりついて泣き崩れても良かったのに……!』


 だって、医療の知識があるから冷静でいなければならない理由なんて、どこにも無い。


 知っているからこそ、誰よりも深く悲しめるし、ちゃんと話せば、ご家族にも理解してもらえたはずだ。



 でも、私は息子さんに声をかけることは出来ないし、そんな資格もない。 離れた場所から、ご家族が再び絆を取り戻し、仲良く暮らせるように……と、心から祈る事しか出来ない。


 ただ、いつか誰かが、同じ苦しみを背負いそうになった時、私はその人の隣に座って、こう言いたいと思っている。


「お願い! 独りで背負わないで!」……と。

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