第5話 棘徐波複合
ドアを開け、ベッドで寝ている患者に近づく。
あの鋭い眼が、再び私を捉えた。
私は瞬きもせず、その眼を見つめながら、掛けてあるタオルケットの上から軽く手を置き
「○○さん、この検査は、痛みも何もありませんが、リラックスする必要があります。」
ゆっくりと、操作室との間にあるドアに戻り、ドアを足で押さえた。
「私はここで○○さんの心拍数をモニターしながら声をかけます。……それに合わせて、ゆっくり深呼吸をして下さい。」
……通常、患者への声かけは、操作室からマイクを通して行うが、今回は敢えて、直接顔を見ながら行う事にした。
「目を閉じて…… ゆっくり吸って下さい……はい、吐いて下さい……。」
……暫く繰り返すと、少しだけ心拍が落ち着いた。
私は、更にトーンを落とし「良い感じですよ……、はい、ゆっくり吸って〜……」
……かなり落ち着いて来たようだ。 ノイズが減り、脳波にα波が現れた。リラックスしている証拠だ。
ドアを閉め、検査を継続する。
……数分後、過呼吸賦活という、速く大きな呼吸をさせた時に『棘徐波複合』という、てんかん特有の脳波が現れ、数秒間、痙攣が起きた。 ドクターが、すぐ見られるように赤鉛筆で大きくマークする。
操作室の警官が「大丈夫でしょうか?」と聴いてくる。
「大丈夫です。 この発作を観察する為に過呼吸を行ったので……。 もし、大発作に移行しそうなら、すぐにドクターを呼びます。ご安心下さい」
……と伝えると、その警官は、心配そうにガラス越しに覗いていた警官に、手で丸を作って見せた。
その後は問題無く検査を終え、結果をどうするか確認すると、後から別の担当者が来るとの事で、頭部を拭いて終了した。私は目を逸らしていたが、患者さんは再び手錠をかけられた。
最後に「お大事にどうぞ……」と言うと、患者さんと、もう一度目が合った。患者さんは目を細め、軽く会釈した。
こちらの大仕事は終わった。急いで検査室に戻らないと!
検査室では、深田先輩が修理を終え、天板を被せる所だった。 私を見て……「ごめん! 大丈夫だった?」と心配そうに聴いたので、ニッコリ笑ってOKサインを出した。 先輩も微笑みを返してくれた。
先輩が「都からLINE来て、娘さん、問題なしだって~」
良かった!
……何か忘れている気がする……が? ……これで、『めでたしめでたし』だ。




