第1話 見学
その日……私は区民劇団『劇団あみーご』の見学に来ていた。
十数人の団員の方が、台本を片手にお稽古をしている。 ……普段はあまりギャラリーが居ないらしく、今日は特に皆さん張り切っている……と、主催者で演出家でもある『梅郷先生』が仰った。
さて、何故私が劇団の見学に来ているのか? 当然、女優さんに転職する訳ではない。
前のエピソードにも書いたが、臨床検査技師が検査結果を患者さんに言う事は、法律で禁止されている。
結果に問題が無い時は良いのだが、異常のある患者さんの場合、私は直ぐ顔に出てしまうので、バレてしまう危険がある!
その為、ここは一番! 演技力を身に付けて、私の表情から必死に結果を読み取ろうとしている患者さんの前で『ポーカーフェイス』な『ガラスの仮面』を被ろう! と一念発起した訳だ。
更に更に、それに加えて、実は私は、未だに『漫画家』になる夢を諦めてはいない。
『漫画を描く』と言うことは即ち『キャラクターに演技をさせる』のと同じ事なので、演技の勉強は、いつか役に立つのでは? との考えもあったんだ。
お稽古はあちこち飛び飛びだし、途中から参加した事もあり、ストーリーは良く判らないが、皆さん活き活きとしていて、とても楽しそうだった。
仕事帰りに本屋さんで漫画を探す位しか楽しみのない私の目には、とても羨ましく映った。
そんなこんなで、あっという間に、終了の時間になってしまった。
「遥……さん、如何でした? もし良ければ『仮入団』してみませんか?」と、梅郷先生が仰った。
「あ、あの……私、学芸会でも劇なんてやった事無いのですけど………大丈夫ですか?」と、恐る恐る聴いてみた。
すると、団員でもある梅郷先生の奥さんが「うちの団員なんて、みーんなそうよ! 学生時代に日陰に居たから、私たちの劇団に『輝き』を求めて集まって来た人ばかりよ〜!」……と、お腹からの素晴らしい発声で言った。
その言葉を聞いていた団員の方が「なんだよ~! それじゃまるで、俺たち『蛾』みたいじゃん」と言いながら壁に張り付いたので、その姿を見て、みんなが笑った。 私も面白くて、予想以上に、お腹からの素晴らしい発声で笑ってしまった。
梅郷先生が皆さんを集め……
「今日、見学に来てくれた『遥 真優』さんだ。 入団してくれるそうだぞ!」……と、奥様の倍くらいの大きな声で紹介してくれた。
『パチパチ』『ひゅ~ひゅ~』……と、盛大に歓迎されてしまい、ほっぺが熱くなるのを感じた。 ……そして『まだ、はっきり決めた訳では無いのですが……』と、言えなくなってしまった。
「よ、よ、宜しくお願い致します」……と頭を下げると、皆さんの祝福の拍手が、より大きくなった。
そして! 更に驚くべき言葉が、梅郷先生から発せられた!
「遥さんには、今回の劇のヒロイン『カモミーユ姫』を演って貰う事にした!」
えええええええええええええええええ~~~~~~~~~~~!




