第7話 退場
「……やっぱり……私、心臓悪いですか?」……と、今村さんが恐る恐る聴いて来た。
『僧帽弁逸脱《MVP》』による『僧帽弁閉鎖不全』が原因で『僧帽弁逆流《MR》』が起きている。
『僧帽弁逸脱』……心臓には、血液が逆流しないように、いくつかの弁がある。 その中でも一番大きい、左心房と左心室の間ある弁が『僧帽弁』だ。 その弁が、何らかの理由(遺伝など)で『建付け』が悪くなり、途中で折れたようになる状態を言う。
実は、状態の方は、人口の2〜3%くらい居り、珍しくは無い。
しかし、心臓内で血液が逆流してしまうのは問題だ。 逆流が原因で弁が感染しやすくなったり、他の病気のきっかけになったりする危険がある。
私の憧れの今村さんが、そんな病状だったとは……。
ま、まあ『憧れ』は私個人の感覚だからどうでも良いけど、心配なのに変わりは無い。
「遥さん」と、深田先輩が落ち着いた調子で私に声をかけた。
「は、はい!」
「検査室に行って、エコーの報告書を持って来てくれるぅ?」
「はい」と、急いでエコー室を出て検査室に向かった。
……暫く進んでから気が付いた。
あれ? 報告書、エコー室もにあったよ……ね?
……!
そうか! 私が、直ぐ顔に出るタイプだから、部屋が暗くて、今村さんが反対を向いているうちに一時退避させてくれたんだ……。
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……あれから何年も経つけど……未だに検査の後、患者さんとどう接して良いか判らなくなる事がある。 当然、異常無しの人なら良いけれど、この時みたいに『わたし……悪い病気でしょうか?』……と聴かれてしまうのが本当に困る。
以前にも触れたが、私たちが検査の結果を患者さんに伝えるのは法律違反になる。 だから、検査の結果を聴かれたとしても、「私たちは、もし《《何も無かった》》としても、言えない規則なんです。 担当医からお聴き下さい」……としか言えない。
問題はその時だ。
患者さんは、私たちの表情や口調から、全身全霊をかけて結果を読み取ろうとする。 私のように、結果が顔に出ちゃう人間は、本当は、この仕事には就いちゃいけないんだ。
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今村さんは、深田先輩が、事務的且つ冷静に「あたしには判断出来ないから、詳しい結果は初森先生(循環器の医師)に聴いてね〜」……と伝えてくれたそうだ。
この、検査後の対応にしても、さすがは深田先輩だ! と思う。 臨床検査技師には『演技力』も必要なんだ。
その後、今村さんは服薬により僧帽弁逆流が改善し、今でも当院の顔として、元気に働いている。




