第1話 合格発表
あっと言う間に、国家試験の結果発表日が来た。
私は……
ご! 合格!
やった! やった! やったぁ〜!
良かった!
結果が出るまで、人事課長に会う度に「きみはまだ『ケンサギシ』になれない『サギシ』だから、早く合格の報が聴きたいよ」と言うオヤジギャグを聴かされていたが『これでやっと、開放される!』と、本来の意図からズレた所で喜びを噛み締めていた。
今日から、いよいよ患者様の『生理学的検査』が行える!
『血液検査』や『尿検査』のように、患者様から採取した検体を検査するのは、実は無資格者でも出来る。検査室に一人でも臨床検査技師が居て、医師の具体的な指示さえあれば、その辺にいる人に頼んでやって貰う事も可能だ。(実際はそんな事はあり得ませんが)
但し『生理学的検査』(レントゲン以外の、患者様に直接機械を使って行う検査)と『検体採取業務』(採血等の、患者様から検体を採取する業務)は『臨床検査技師』『看護師』『医師』にしか行えないので、必ず『臨床検査技師』の資格が不可欠となるんだ。
ここから問題になってくるのは、技師個人個人の『資質』だ。
病院に勤めているからには、患者様とのコミュニケーションが必要ではあるが、私は人見知りな性格なので、ガッチガチに緊張してしまう。
『だったら、最初から検査センターに就職すれば良かったのに……』と仰る方も居られるでしょう。
本当に、その通りだったのかも知れない。
『ピンポーン』と、患者様が『生理検査室』に来た事を知らせるチャイムが鳴った。
「じゃ、初心電図、遥さん、やってみ。 少し経ったら見に行くから」と、技師長がPCに何かのデータを入力しながら言った。
あ〜、いよいよ緊張の、初めての心電図だ……。 し、深呼吸、深呼吸!
「では、行って参ります!」と検査室を出ようとしたら、深田先輩が「堅い、堅い! リラックス! 後、眉間のシワ!」と言いながら指で私の眉間に向かってピンチ操作するジェスチャーをした。
はっ! まずい、軽い笑顔、笑顔!
検査室を出て伝票ボックスから伝票を取ると……
「あ、超音波検査ですね! こちらへ〜」
……ふう、良かった~。
超音波は、まだ勉強中で、私には検査出来ない。 患者様を『超音波室』にお連れしてお待ち頂き、急いで検査室に戻って、深田先輩と交代した。
超音波検査は、当然、学校の研修カリキュラムに含まれているものの、他の生理検査と異なり、特殊な知識と経験が必要となる検査だ。
特に『探触子』と呼ばれる、ゼリーを塗って患者様に直接当てる部分の走査法が、難解極まり無い! 『方向』や『角度』で視え方が全く異なってしまう。
『野菜』や『ソーセージ』を思い浮かべて頂きたい。縦・横・斜め……の切り方で、断面が、丸・四角・三角になったり、もっと複雑な形になる。 しかも『骨』や『空気』は超音波を遮ってしまうので、画面では、その下は全く視えなくなってしまうので、角度を変えて観察しなくてはならない。
加えて、臓器や血管は数ミリ単位で観察するため拡大して表示するのだが、その分、ほんの少し振れただけで大きくズレてしまうのだ。
その上、見逃しがあったら、それこそ責任問題に発展する怖れもある、非常に難しい検査である。
技師長が「エコーもやれるようにしないとね。 慌てる事は無いから、時間見て、職員のお腹借りて勉強してね」と言った。
「はい! 頑張ります。 命賭けて!」
「いや、命は賭けなくて良いよ」
技師長がそう言って笑った。
確かに、検査するたびに命をかけていたら、いくつあっても足りない。
何せ私は、国に認められた『臨床検査技師』になれたんだ。 この世界で生きていくには、一日でも早く慣れなくては!
私は決意を新たに『臨床生理学』の教科書を開き『初めての生理学的検査』に備える準備を進めた。




