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第4話 疑心

院長は、悪びれもせずこう言った……


「遥さん、カテ先がこれ以上進まないんだ……反対の腕から入れ直すね~」


 えっ!? うそ〜〜っ!?


 ま、まあ仕方ない。


『猿も木から落ちる』


『弘法も筆の誤り』


『循環器科医師(ドクター)も心カテを通せず』って昔から言うもんね(←言うか?)


「……は……はい、宜しくお願い致します……」


「じゃあ染谷師長、反対の腕、消毒して!」 


「はいはい、ごめんね〜遥さん……後で院長から慰謝料たんまり貰ってね〜」


「あ…あはは……は……」


 乾いた愛想笑いしか出ない……


 そもそも麻酔注射自体が痛いし、麻酔が効いてもカテーテルが往来いききすると相当痛い!


 加えて、カテーテルを抜去後ばっきょご、動脈を完全に止血させる為に『止血カフ』という、空気の入ったリストバンドを傷痕の上にキツ〜く巻くのだが、これがまた物凄く痛い上に、手掌しゅしょう(てのひら)の感覚が無くなる程痺れる!


 両腕がこうなっちゃうのか〜〜(泣)


「じゃあいくよ〜。 局麻するから、最初『チクッ』とするからね」


『あのねっ先生! 『チクッ』どころじゃ無い! 『ブスッ』よ『ブスッ』!』……なんて、院内カースト底辺のしがない臨床検査技師が言えるはずもなく、歯を食いしばって耐えるしか無かった。


「……」


「……」


「……あれぇ?」


 ……!?


「……遥さん……またカテ先が進まないんだ……困ったね~」


 ゔ ぞ ぉ 〜 〜 〜 !

 ふ ざ け す ぎ  〜 っ !


『困ったね〜』はこっちの台詞せりふだ!


 それにしても、両腕とも失敗ってどういう事!?


 ま、まさか、これって


 動脈硬化で血管のあちこちが詰まってるとか?


 私、切り捨てたら、まだ二十歳はたちよ!? この歳で動脈硬化〜?


 はっ! もしかして、ミルクティーの飲み過ぎかな!?


 ……ま、まあ……だとしたら、それでも本望だ。


 おそらく私の身体の大半はミルクティーで出来ている! 


 それにしても、両腕とも刺入できなかったら、次の選択肢は鼠径部(足の付け根)だ!


 そうなったら……


 ……女の子(←『子』!?)の、最もデリケートで大切な部分を、院長とは言え中年おやじ(←失礼)に見られてしまう! 


 はっ!


 ま、まさか、私の陰部を見たいが為にワザとミスしてるとか?


 いや、院長先生に限ってそんな筈はない!


 いやいや『人は見かけによらぬもの』……院長とて男! 魔が差ささないと誰が断言できよう!


 私はにわかに、疑心暗鬼になっていた。


 そんな折……


「……あ! 待て待て! 入った入った♪」

 お い お い ! 脅 か さ な い で よ っ 


 後は、何とか心臓まで到達して欲しい!


私は両目をギュ~~~っと閉じて、心から祈った。


『 ナ ム さん ! 』……かのブラック・ジャック大先生のセリフをお借りした!


 その甲斐あって、カテーテルは冠動脈まで到達したようだ(感涙)


 院長先生、疑ってごめんなさいっ!


 ……と安心したのも束の間……


 うっ!


 いっ、痛い……!


 さっき感じた痛みが再び胸の奥に走った!


「せ、先生……また……胸が痛い……です……」


 心拍が上昇し、冷や汗が噴き出したのがわか


 私、もしかしてここで死んじゃう!?


 院長が「STが上昇したね! オッケーオッケー♪ 撤収しよ〜、お疲れ〜」……と、妙にお気楽な声を上げた。


『ST上昇』とは、心電図波形の『SーT』と呼ばれる部分が、正常より高く記録される状態で、心筋梗塞や狭心症で見られる、明らかに重態で緊急処置を要するという波形だ。


 通常、せっかく心臓近くまでカテーテルが入ったのなら、そこから『造影剤』という血管を見やすくする薬品を注入してレントゲン撮影を行うはずだ。


 そして、血管の詰まりを発見したら、カテーテルの先端についている超小型マニピュレータを使って『ステント』という血管を拡げる金属製の網を留置して、血液の通りを良くする処置をするはずなんだ。


 それもせずに『撤収』って……


 可能性は以下の3つ……

①全く問題ない

 ……現に痛みと『ST上昇』が出現しているので、これは無いだろう。


 となると、残る答えは2つ……


②カテーテルを中止し、外科的処置に切り替える


③既に手の施しようが無いので緩和ケア(痛みや苦しみを取り除くだけの終末医療)に切り替える。


 私の心臓、そんなに悪かったの?


 私は勇気を振り絞って病状を尋ねる事にした。


「あ……あの……院長先生……」


「ん?」


「この胸痛の原因は……何なのでしょう…?」


「あ……それ? 一休みしたらゆっくり説明しに行くから『HCU』(高度治療室)で休んでて〜」


『いや! 今言ってよ〜!』とも言えず小さく「はい……」とだけ答えた。


『HCU』は『ICU』(集中治療室)と一般病棟の中間に位置する重症者用の病室だ。ここでの患者は、全身にバイタルモニターなどを付け、24時間、徹底した監視下に置かれる。


 当然、飲食やスマホ・電話の使用も制限されている。


 ……そんな理由で、今回明かされるはずだった私の病名の発表は次回に持ち越されてしまった! む、無念(悔!)


 謎の解明を楽しみにして下さっていた読者さまには、心よりお詫び申し上げますっ


 ↑この件の責任は、総てカテーテルが一発で入らなかった院長にありますので、苦情やクレームは『町野中央病院 院長 岡田秀樹』宛にお送りください♪


PS.主人公の病気のヒント:

・誤診やドクターの手技に問題はありませんでした。


・未知の病気やSF的な話ではありません。


・主人公『遥 真優』はこのあと大事だいじに至らず、無事に社会復帰しました。 当然、この小説も、まだまだ続ける予定です!


PS2.作者の独り言:今回は調子に乗って、いつにも増してメタい表現が多すぎたなぁ〜……反省反省!)

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