第2話『夫婦漫才』
陽向さんに採血をして貰っていると、町野中央病院からドクターカーが到着したとの知らせがあった。
胸の痛みはすっかり治まり、普通に歩けそうに思ったが、陽向さんの指示で、車椅子で正面玄関まで移動した。
「遥さ〜ん、久しぶり〜」
声の方を向くと……
い、院長先生!
……町野中央病院の院長は循環器のエキスパートだ。 とは言え、まさか院長自らドクターカーに乗って来られるとは!
「せ、先生! こ、こ、この度は誠に申し訳ありません!」
「何言ってんの〜、遥さんがぶっ倒れたって聞いたから、患者全員追い返して、臨時休業にして来たんだよ〜」
そ、そんな! 私のせいで!(号泣)
「い、いえ、倒れた訳では無いですし、そんな大事になってしまったなんて、私、とんだご迷惑をおかけしてしまって、本当に申し訳ありません!」
「院長、ダメよ! 遥さん、真面目なんだから、変な事言ったらCPA(心停止)起こしちゃいますよ」
外来の長谷師長が、ドクターカーに備え付けの車椅子を下ろしながら院長を往なした。
師長まで来ちゃうなんて!
「師長……これって……」
「あはは、良いの良いの、気にしないで! 今日は休診日だし、ちょうど幹部会があって、あたしたち来てたのよ」
そうだ、今日は祝日だった。
「理事長から『もっと儲けろ!』って発破掛けられてたトコだったんで、逃げ出す口実が出来たから、遥さん……いや、遥さんの『心臓』には感謝しないとね!」と、院長が脈診しながら言った。
「こっちの車椅子に移れる?」
「はい」
陽向さんが移乗を手伝ってくれた。
私、もうすっかり『患者』だ。
ドクターカーの車内で師長が心臓モニターを付けてくれたが、やはり異常は無い。
院長が陽向さんに「じゃあ、遥さん借りてくね〜」と軽い調子で言った。
あたしゃ医材かっ
ドクターカーでの移動中も、院長と師長の軽口の応酬は止まらず、何度も吹き出してしまった。
この二人、夫婦漫才師になれば良いのに……等と考えていたら、師長のスマホが鳴った。
「あ、陽向さん、さっきはありがと ……ん? えっ!? ……うん……判った院長に伝える」
師長の口調が明らかに変わった。
「院長……『トロップT陽性』」
「ふむ……遥さん、そーゆー事だから、病院に着いたら『CAG』やるねー」
……院長の口調も、さっきまでとは打って変わって『医師』のそれになった。
『トロップT』……『心筋トロポニンT』の略で、心筋梗塞等で心臓の横紋筋が壊死した際に血中に流出する成分だ。
トロポニンTの検査はキット化されており、検査室にある装置を使わなくても手軽に検査が可能であり、陽向さんが院長の指示で検査してくれていたんだ。
つまり、私の心筋は明らかに障害を負っている事が証明されてしまった事になる。
院長が言った『CAG』とは『心臓カテーテル検査』の略称だ。 こちらに関しては、次回細かく説明するが、私は心電図《ECG》で異常が見付からなかったので、より精密な検査を行う必要がある。
……この歳で心筋梗塞……
……ショックだった。




