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第1話 胸部電極

 心電図……ECG(イーシージー)またはEKG(エーカーゲー)と略される、心臓の状態や異常を知るには必須となっている検査だ。


 医療関係のドラマで、カラフルな色が付いた電極を患者さんに取り付けているシーンがそれである。


 昔々、オランダの生理学者で医師でもあるウィレム・アイントホーフェンというヒゲのおじさん(←失礼!)が心電図の基礎を発明した。


 両手首と左足首に電極を付け、得られた波形を増幅することにより、心臓に直接電極を取り付けなくても心臓の電気的な動きをモニター出来るようになったんだ!


 その功績により、ヒゲのおじさんはノーベル賞を授与された。


 やったね♡ ヒゲおじさん♡ (← マジ失礼!)


 この発明は100年以上経った今でも救急の最前線や健康診断でもバリバリ現役で使われているスゴい発明ではあるのだが、この発明には落とし穴がある。


 心臓の上下(前額面)の異常は発見できるが、心臓の前壁(水平面)の異常を正確に見付ける事は出来ないんだ。


 この弱点を補う方法こそ、胸部電極なのだ(泣)


 胸部電極はその名の通り、お胸を出した状態で、吸盤などで電極を取り付ける必要がある。


『心電図12誘導』と言って、両手首・両足首(右足首はアース線)・胸部6ヶ所に電極を付けて測定する事で《《最低限》》の検査として成り立つんだ。


 もちろん、男も女もお構いなしである(汗)


 今の時代、コンプライアンス的な問題で男性の医療従事者(ドクター含む)が女性の胸部に医療行為を行うのは非常にデリケートで、そのような場合には必ず女性の看護師が立合うように院内の規定で決めてある施設が多い。


 の! だ! が!


 それはあくまでも『患者さま』に対しての規定であり、職員に関してはそのような規定は存在しない! 少なくとも町野グループには無い(泣)!(泣)! (泣)!


 嗚呼! こんな事で陽向さんに、まだ誰にも見せていない女の子の(ん? 《《子》》?)大事な部分を見られてしまう事態になろうとは(泣)(泣)(泣)!


(p_q、)シクシク


(p_q、)シクシク


(p_・q)チラ


(p_q、)シクシク


 そんな私に向かって、陽向さんがおもむろにこう告げた……。


「遥さん、心電計は自分で付けられる? 俺が付けるわけにはいかないだろ?」


「は、はい! それは……まあ……はい!」


『よ、良かった! 陽向さんに盛りに盛ってギリCのお胸を見られてしまうかと思った!』(←そっち!?)


 私は、この時ほど自分が臨床検査技師で良かったと思えた事は無かった!


 もし事務の方やヘルパーさんだったら自分で電極を付けることは出来ないので、看護師とは言え男性の陽向さんにどう隠しても左側の乳房にゅうぼうを見られてしまうところだった!


 そそくさとTシャツを捲り、ブラをずらして所定の位置に電極を取り付け、タオルで隠して「お……お願いします」と小声で陽向さんに声をかけた。


 陽向さんが心電計のスイッチを押すと『シャキ、シャキ』という規則正しい音が聴こえ始めた。 最近の心電計はあまり音がしないが、東戸中央クリニックにある装置は少々旧式なのでこのような音がするんだ。


 音を聴いた限り、不整脈は無さそうだ。


 記録が終わり、陽向さんが「後で『中央(町野中央病院)』のドクターに見せるけど、先に見る?」


「はい!」と起き上がると……


「お、おい! 遥さん!」と陽向さんが取り乱した声を上げた。


 ……?


 …………


 ……!


「きゃあ〜〜〜」


 し、しまったあ!


 記録紙を見ようと起き上がったらタオルが落ちて左側胸骨から乳房にゅうぼうにかけて完全に露出してしまった!


 せっかく陽向さんが気を遣ってくれたのに自ら見せてしまうなんてぇ〜!


 遥 真優、一生の不覚であったっ(血涙けつるい


 ……さて心電図上、異常な所見は見当たらなかった。


 しかし安心は出来ない。 『労作性狭心症』という心臓の病気は、運動などによって心臓に負担がかかった時にだけ症状や心電図上の初見が表れるものだ。


 このような場合には、疑いのある患者さまに階段を上り下りしてもらったり、『トレッドミル』というベルトコンベア式の歩行器具や『エルゴメーター』という自転車のようにペダルを踏んでもらう装置を使って患者さまに運動させ、心臓に負担をかけて運動前と運動後に心電図を記録し、その変化を評価する必要がある。


 臨床検査技師の養成学校で習った記憶はあるが、まさか自分が行う事になるかも知れなくなるとは……


『私、どうなっちゃうんだろう』


 胸の中に不安が広がるのをひしひしと感じていた。

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