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第3話 『挫滅』

※本作品はフィクションであり、実在する人物や事象とは一切関係ありません。


 陽向さんがぽつりぽつりと語り始めた


 こちらも驚いて戸惑ったが、極力動揺を見せないようにしつつ、続く言葉を待った。


「……俺、実は過去に一度命を落としかけた事があってね」


 この時点で、私は陽向さんの詳しい過去を知らなかったのだが、実は陽向さんは、過去に『凄惨な事件』に巻き込まれ、命を落としかけた事があった。


 その時救われた命を役立てたい、と考えて看護師になり、経験を積んで『DMAT』の一員となった。


「俺が生きたあかしとして、一人でも多くの人を救おう……なんて調子に乗ってたんだ」 


 私は、軽く首を振りながらも、陽向さんの言葉に耳を傾けていた。


「そんな矢先『六道島大震災』が発生した」


 ……余震が続く中、陽向さんたちは命のボーダーラインと言われる『72時間の壁』を越える前に、自衛隊と協力して次々と被災者を救助し、治療を続けた。


 タイムリミットが迫る中、ほぼ全壊した家屋で一家4人を発見した。 


 お父さんと娘さんは既に事切れていたが、お母さんと息子さんはまだ息があった。


 ……お母さんは出血が続いており、直ちに輸血が必要だった。 


 息子さんは折れた柱に足を挟まれていたが、近くにあったお菓子を食べ、意識もはっきりしていた。


 陽向さんたちは、お母さんの救出に全力を尽くしたが、お母さんは『息子を先に助けて!』と、うわ言のように言い続けていたそうだ。


 ……お母さんを救い出してドクターカーに乗せた直後、またもや大きな余震が発生した。


 陽向さん達は危険を顧みず、息子さんを救助すべく瓦礫を慎重に除去し、必死に捜索した。


 息子さんの周りは奇跡的に空間が保たれ、全員が安堵したものの……息子さんは、既に亡くなっていた。 


 そのご遺体を見た陽向さん達は愕然としたと言う。


 外傷がほとんど無く、挟まれていた足以外、ほぼ無傷だったそうだ。


 死因は後に判明した。


『クラッシュ症候群』――『座滅症候群』とも呼ばれ、身体の一部が瓦礫等により長時間圧迫される事により筋肉細胞等の細胞壁が破壊され、毒性の強い成分が血流に乗って全身に回り、腎臓や心臓等の臓器に到達し、場合によっては死に至る、恐ろしい症候群シンドロームである。


 今では、災害時のクラッシュ症候群の恐ろしさは広く知られており、その対処法も確立しているが、この頃は実際に遭遇する事が少ない症例だった為、残念な事に見逃されてしまったんだ。


 更に悲劇は続いた。


 息子さんの死を知ったお母さんが、自ら命を断ってしまった。 陽向さん達『DMAT』への恨みを血文字で書きつらねた遺書を残して……。


「あの子も……あの子のお母さんも、俺たちが殺したようなものだ。 俺は仕事が出来なくなって看護師を辞めた」


 ……私は言葉も出ずに、うつむいて陽向さんの話を聞いていた。


 暫くアルバイトで生計を立てていた陽向さんだったが、自責の念から抜け出せず、苦しい日々を送っていたと言う。


 そんなある日、看護大学の講師だった大東風さんと偶然再会し、町野グループで『健康推進課』を立ち上げる事になったから力を貸してくれ……と誘われ、もう一度やり直すつもりで現場復帰したそうだ。


「……センター(ここ)あと一ヶ月で終了だ……

 やっぱり俺は無力だった。

 ガッツポーズしてカッコつけてたけど、所詮は死にぞこないの空元気からげんきだったよ……」


 ……!


 陽向さんが


 あの、いつも前向きで、いつも明るい太陽のような男性ひとが肩を震わせて泣いている……。


 しかも、こんなに、憐れなくらいに落ち込むなんて……。


 私は目の前で起きている事が信じられなかった。

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