表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
100/110

第5話 『クシュクシュ』

 矢も楯もたまらず、PCR検査センターに電話しようとスマホを探したが見当たらない。


 母に聴くと、大東風部長の指示で母がスマホを預かってくれているという。


 産業医との面談が済むまでは、仕事を忘れて休養するようにとの計らいとのことだった。


 それを聴いて、焦燥感が少し落ち着いた気がした。


 ……もう夕方だし、今更ジタバタしても、過ぎた時間は戻らない。


 部長のお言葉に甘えて、部屋に戻って再びベッドに横になった。


 眼の奥が痛くて、目を閉じていると楽ではあるが、色々な考えが頭に渦巻いて、とてもじゃ無いが眠れない。 それに、15時間以上も寝てたから、身体がこれ以上の睡眠を欲していないんだろう。


『コン、コン、コン』……とノックの音がして、母が食事を持ってきてくれた。


 ……オートミールと、湯冷ましのお白湯だった。


「あまり刺激が無い方が良いと思って薄味にしてあるから、何か足りなかったら言ってね」と言ってくれたが、絶妙な味付けで、更に空腹も手伝ってか、母の目の前で、あっという間に平らげてしまった。


「……誰かから、私に連絡来た?」と聴くと……


「……さっき、部長さんがいらして、何度も謝ってたよ。 それと一週間は連続で休めるから、ゆっくりさせて……って言ってた」


 一週間! それはまた長い!


あとね、検査は町野中央病院の人たちが交代で来てくれるから、心配要らない……って」


 町野中央病院は。サターン患者さんの受け入れをしており、一般患者さんの受け入れを制限している。


 検査は『発熱外来』の『サターンウィルス抗原検査』がメインで、通常の臨床検査はほぼ無いので、交代でPCR検査センターに来てくれる事になったそうだ。


「それと、部長さんが褒めてたよ! 真優がまとめていた『検査マニュアル』のお陰で、技師さんたちが直ぐに業務に就ける。 本当に有難い……って」


 陽向さん(育児休暇中)と、遊び半分で作っていた『おサルさんでもわかるPCR検査』が、まさかこんな形で役に立つとは! (実際には専門用語が多く、一般向けでは無かったが、臨床検査技師なら理解して貰える仕様になっていた)


「……何かやって欲しい事ある?」


 母が優しい声で聴いてくれた。


 その声は、私が小さい頃、風邪で休んだりした時と変わらない、慈愛に満ちた声だった。


「……頭……マッサージしてくれる?」……と、私は遠慮がちに言った。


 子供の頃、私が兄貴と騒いでいたりして眠らない時、母に頭のマッサージをされると、数分で寝落ちしたのを思い出したからだ。


 母のてのひらの安心感と、髪が擦れる『クシュクシュ』……という骨導音を聴いているうちに、私は再び、眠りに付いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ