薬箱の奇跡8
そっと襖の隙間から覗いてみる一人と一匹と一体(は私だけど)。光の部屋には昨日以上に妖気が充満していて、遠目から見ても顔色がますます悪くなっていた。大丈夫かな……?
「これはすごいわね……」
『ちょっとした結界が張ってあるな。これで、この部屋から妖気の気配が遮断されていたんだな』
「そうみたいね。でもまあ、これくらいなら何とかなるかしら」
ふふふと結姫が笑う。さっきと同じなのに何か怖いな。
そんな私の心境は露知らず、結姫は座り込んで自分の鞄を漁っている。お、何か出した。
「あったあった、妖封じの御札」
「それでどうするの?」
私は思わず聞いてしまったが愚問だった。
「決まってるじゃない。この御札に妖を封じ込めてから焼くのよ」
「……なんでそんなものが鞄の中に?」
「気にしない気にしない、気にしたら世界が終わっちゃうわよ?」
そんなんで世界が終わったらちょっと問題だと思う。
『話が終わったらこの部屋から出るぞ、チビ。結姫は中途半端に力があるから、うっかりすると結界の外にまで影響してきて巻き込まれる』
まじか。
「ひどいわね。しかたないでしょう? ……まあ、巻き込んだらシャレになんないから、部屋の外で待っていて」
結姫がしっしっと追い払うように手を振ったから、渋々結姫からに離れたところに烏之瑪と共に座り込む。
それを確認した結姫が思いっきり襖を開けて中に入り、そのままぴしゃりと閉める。あぁ、結姫、どうか光を助けてあげて……!
私は祈るように腕を組む。中から余裕そうな結姫の声が聞こえてきた。
「見つけたわ、悪さをする妖怪ちゃん。ちょっと封印してあげるから大人しくしてなさい」
『ソノ霊力……、オマエ、ユイキか……』
「そうだったら何なのよ?」
『ニッキをよこせ───!』
「やーよ」
ガタガタと部屋の中で何かが飛び回る音がする。結姫、大丈夫かな……!? どうか光を守って……!
そしてパッと襖が開いた。
黒い影が飛び出してくる。続いて結姫も現れて、烏之瑪に指示を飛ばした。
「烏之瑪! 式紙使うから、ヤクバコと距離をとりなさい!」
『了解した』
「わあ───!」
普段なら暴れるけど、今は緊急事態だから我慢する。烏之瑪は私を虐めるためじゃなくて、助けるためにくわえて飛んでいるのだ。我慢、我慢。
結姫が鞄から何かを取り出した。空中からよくよく見てみれば、それは光もよく使うリング式の単語カードだった。あの、カードの順番を入れ替えれるヤツ。
私は思わず叫んだ。
「今はお勉強時間じゃないよ結姫ー!」
『黙ってみていろ』
烏之瑪に屋根へと放り投げられた。私はコロコロ転がったけれど、平気! 痛くないもん! ちゃんと立ち上がって結姫を見る。
結姫は緑色のリングの単語カードから一枚紙を千切った。
「《«式紙の三・腕・顕現»》!」
ぱぁっ、と紙から淡い緑色の陣が浮き出て中から何か現れる。うわ、なんかごついよ!?
それは籠手だった。しかも革と金属でできている。イメージ的には武士のそれかなぁ?
それがひたすら大きいのだ。結姫の身長くらいあると思う。
「妖怪ちゃん、あたしに逆らえると思ってんの? 日記を書くためにこんなツンデレな態度をとってるなら許すけど、奪うためなら容赦しないわよ」
結姫が天使のような微笑みを浮かべながら、かなり怖いことを言った。




