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物語る日記帳  作者: 采火
本編
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4/63

薬箱の奇跡 3

 怯える私を救うように、結姫はカラスの烏之瑪の胴を鷲掴みにして、私から引きはがしてくれた。ありがとう結姫!

 私がほっとしていると、結姫は引きはがしたカラスを障子の近くに放り捨てる。え、いいの? そんな扱いで。


「まあ、お願いする手間が省けたからいいかしら? ええと、付喪神、貴女の名前は?」


 結姫は無関心な様子で話し続ける。ほっといても大丈夫なのかな。


「え? えと、他の妖たちはヤクバコって呼ぶよ」

「ヤクバコ? もしかして貴女、薬箱の付喪神?」

「う、うん」


 目を白黒させて言えば、結姫は納得したように頷いた。どうして?


「まあ、この家の人達代々医者だから、薬箱を大切にするのは必然よね」


 私は納得した。そうだ、結姫は光の知り合いなのだった。

 そう、そうなのである。蛍野家は代々医者の家計なのだ。私の場合、かれこれ五十年ほど前までは大切に使われていたのだけれど、今は医療が発達していて御役目御免されてる。いつもは押入の中で寝てるか、今日のように縁側で散歩しているかだ。残念ながら今日はカラスと遭遇したけれど。

 自己紹介を終えると丁度良い間合いで、障子の近 くから戻ってきた烏之瑪が話しかけてきた。わ、わ 、近づかないでよ! お願いだから!


『おい』

「なによ、烏之瑪」

『人の子が戻ってくる』


 必死な祈りに反してひょこひょこ近づきながら言 われた言葉に、結姫は目を丸くした。私もだ。そん なに話し込んでいたかな? 体内時間は本当にあて にならないよね。


「あらま。……よし、取り敢えずヤクバコ。あたし は結姫梨花っていうの。言わずもがなだけれどね。 この日記を貴女に二週間だけあずけるから、その間 にコレに何でもいいから書いて。絵でも人の文字で も妖の文字でもいいわ。二週間たったら烏之瑪にと りにいかせるから。いいわね」


 結姫の早口に気圧されて反論しないでコクコク頷 いた。ってあれ? 烏之瑪が取りに来るの!? や 、やだ! 抗議しようとしたとき、襖が開いて光が入ってき た。その手には麦茶の入ったコップがある。光が不 思議そうな顔をした。


「あれ? 結姫先輩、今、誰かと話していました? 」


 光の問い掛けに、結姫は思いっきりとぼけた。


「ふふふ、不思議な事を言うのね。ここには誰もい ないのに」


 光は「へんだなあ」とぼやきつつ机の上にコップ を置こうとして、烏之瑪の存在に気づく。本当は私 も隣にいるのだけれど。 そして光は机の上の烏之瑪を見て、思いっきり声 を上げた。その拍子に両手の麦茶がちゃぷんと揺れ る。 あ、お茶がこぼれそう!


「うわ、え、カラス!? ちょっ、先輩、何で部屋 にカラスがいるんですか!」

「勝手に入ってきたのよ。何も悪さしないから放っ ておいてもいいかなって」


 結姫は涼しい顔で口元を制服の袖で隠し、微笑み ながらこちらに視線を送ってきた。 ……なんで視線を向けるの? 何の意図があるの かサッパリ、はてな。


『行くぞ』

「うきゃあ」

『……貴様は猿か』


 いきなりぐわしと烏之瑪の足に踏みつけられる。 悲鳴がこぼしてバタバタと抵抗すれば、烏之瑪が呆 れつつ、日記を咥えた。そして、私を踏みつけてい る足でそのまま私を掴んでばさりと羽ばたいた。 え、飛ぶの? 飛んじゃうの?


「え? あ、カラス! 先輩のノート持っていくな !」

「いいのよ、蛍野くん。ただの落書き帳だから」


 半開きの襖から軽々と烏之瑪に運ばれていくとき 、結姫がニヤリと笑ったのが見えた。 私は確信する。 きっと結姫は狐が化けているに違いない。だから 、あんなに飄々とうそぶけるのだ!

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