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物語る日記帳  作者: 采火
本編
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35/63

番傘の空2

「そうねえ。今日は読み合わせだけしましょうか」

「いいですよ」


 蛍野が二つ返事で頷く。


「ええと、最終下校は六時で今は四時……余裕ね」

「先輩が演劇部に乗り込んで行ってこの傘を奪ってなっかたら、もっと部活の時間が取れましたよね」


 半眼で結姫を見る蛍野。おお、怖い(笑)。


「ふふふ。さぁ、蛍野君はどんなのを書いてきたのかしら」

「人の話を聞いてませんね……」

『憐れ、蛍野』


 ほんのちょっと同情してやろう。

 ちょっとだけだけどな。


「文句は聞かないわ。さあさあ、コレを読みなさいな」

「扱いひどいですよ!」


 とか何とか言いつつも素早く鞄から数枚の紙を取り出す。文字がぎっしだなあ。

 それを結姫に渡し、結姫も紙束を蛍野に渡す。その束を見た瞬間、蛍野の顔が固まる。


「原稿多っ!? 誰です、二十枚越えして小説書いてきたアホは!?」

「このペンネームは……斎希ね」

「逢坂先輩部活でないで仕事だけ回してきたんですか!?」

「まあまあ、頑張って読んでね? あたし、もう読んでるから」


 蛍野が紙束を掴んで渋々読み出す。


「むむ……面白い……」


 怒っているような口調だが、斎希とやらが書いた小説に対して褒めている。人間の書いた物語か……。懐かしいな。

 昔、私が生まれた頃にも近くにそのような人間がおったな。短い付き合いだったが。

 結姫も蛍野に渡された原稿とやらに目を通していく。目玉の動きが蛍野の数倍早い。あっという間に読み終わってしまったらしく、紙束を机におく。

 結姫はそれから手持ち無沙汰になったようで、私を持って部屋の隅に行く。そして小声で話しかけてきた。


「貴方、私の交換日記の事は知ってるかしら?」

『日記? 人間の子供が日記を書かせているのは聞いたことがあるが……』

「それあたしなの。貴方にも日記を書いて欲しいの」

『む? 私は書くことなどないぞ』

「じゃあ昔話を聞かせて? 私の知らない貴方の物語」

『……まあ良いが』


 結姫は満足そうに頷く。


「貴方、文字書けそうに無いから、私が代筆してあげる。その代わり最終下校までよ。その間に話しきりなさい」

『めんどうだな。私を持って帰れ。手足を生やして書いてやる』

「嫌よ。だって貴方を家に持ち帰るのめんどくさいし」

『えー』

「また演劇部の倉庫で埃を被りたい?」


 それはごめんこうむりたい。

 しかし昔話か……何かあったか?

 ───あ、あった。


『……ふむ。あんまり楽しくない話でもよいか?』

「貴方の体験したことなら何でもいいわ」

「せんぱーい、独り言うるさいですよ。気味悪いです」

「あら、蛍野くんはお仕事を増やして欲しいのかしら?」

「すんませんでした」


 結姫は私に視線を戻した。

 結姫の左目が紅く輝く。そうか。

 それなら少し昔話をしよう。

 それはもう随分と昔、私が私であるのに気づいた頃のお話だ。

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