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物語る日記帳  作者: 采火
本編
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11/63

薬箱の奇跡 10

 五分後。ぱんっと手を叩く音が、光の部屋から聞こえた。結姫が拍手を打ったのかな? そのすぐ後に襖が開いて結姫が出てきた。


「終わったわよ」


 ひらひらと真っ黒になった御札を振った結姫は、私の目線に合わせるようにしゃがんで笑った。

 庭の甲冑の撤去作業と穴を埋める作業は、ぱぱっ、と済んでいる。式紙の力でとりあえず、穴にはちょうど良い大きさの石を上に置いて塞いでおいた。便利だね、式紙。


「根本的な原因のあの妖怪を退治できたら良かったんだけどねぇ。一応、部屋に漂ってた妖気はお札で吸収したわ。しばらく安静にしていれば、体力もすぐにもどると思うから」

「ありがとう、結姫!」


 私はぴょこんと飛び跳ねて結姫の肩に何とか登る。そして、そっと結姫の頬を撫で撫でしてあげた。


「くすぐったいわ、ヤクバコ。……本当は追っ払うだけじゃなくて、封印できたら良かったんだけれど」

「ううん、十分だよ!」

「ごめんなさいね。でも、もうここには寄ってこないはずよ。私と接触したから、私本人との対峙を臨んでくるだろうし」

「なんか、結姫の方が大変じゃない?」

「そうねぇ」


 苦笑する結姫。なんで日記は狙われるんだろう? なんで結姫は日記を妖の中で回しているのだろう? わざわざ危険な目に遭ってまで。

 色々聞きたいけど、やめておいた。うっかり重要な事を聞いて、ああいう妖怪にだけは狙われる事は避けたい。

 冷たいけれど、それは弱い自分の身を守るためだから。仕方ないのだ。


「とりあえず私たちは帰るから、蛍野くんの看病をよろしくね」

「え?」


 なんですと? 看病ですと?


「え、じゃない。視えないからって遠慮することはないわ。貴女、薬箱の付喪神なんだから、薬に詳しいんでしょ? こっそり、水とかに体力がもどるような薬を盛りなさい」


 打って変わって鮮やかに笑う結姫。いや、さすがにだめだろう。


『結姫、それはだめだろう』


 おお、烏之瑪と初めて意見があった。


「あら、そう?」

「そうだよ。それに、私が光に近づいたら私の妖気で」

「それは問題ないわ。貴女は仮にも付喪神なんだから。人の想いの結晶が人に悪影響及ぼすはずがないわ。貴女に悪意がない限り、きっと大丈夫」


 そうなのかなぁ?

 私は言われてもまだ不安だった。でも結姫がふふふ、と笑いながら私を下に降ろす。


「日記、まだ書いてないでしょう? 何なら、この看病のことを書きなさいな」

「え?」

「他の妖じゃそうそう出来ない事よ? ───楽しみにしてるわ」


 結姫が立ち上がった。

 私は首を傾げた。私しか出来ないこと? 人の子の看病が?

 確かに他の妖は私みたいに、積極的に人と関わろうとはしない。日記にだってそんなこと書かれてなかった。そっかあ。

 ……決まった。私が日記に書くこと。

 結姫の言うとおり、光の看病について書こう。毎日、ちょっとずつ回復していく光について書こう。

 私を降ろした結姫は玄関に向かって行った。烏之瑪は庭先から飛び立つ。

 私は日記の元へ歩きながら、眼を輝かせる。

 さあ、今日からしばらく徹夜で人の子の看病だ!

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